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【毎週ショートショートnote】ときめきトゥーシューズ(456字)

    和久野夕弥

     サテンのピーチピンクをしばらく見つめていた。私のトゥーシューズ。
     私は冷たいリノリウムの床に座り込み、心が落ち着くのを待っていた。
    「限界。今日でもうやめよう」
     誰もいないのに、私はそっとこの場を離れようとした。先輩たちが踊る神聖な場所。もう二度と来ない。
     私はすっと立ち上がり、ロッカールームへと歩き出した。すると、トゥーシューズが床に触れるたびに「コツン」と鈍い音が響いた。
    「こんなに硬いんだ」
     足に馴染んでいない、ただの冷たい道具だ。バランスを取ろうと力を込めると、ミシミシと軋む。不安で全身が強張る。
     そのとき、ピアノの跳ねるような音が聞こえた。練習場をこっそりと見る。先輩がいた。音に合わせて静かに立ち、一歩踏み出した。
     コツンというはずの音が、不思議なほど優雅な「カツッ、カツッ」という音に変わっている。その硬質な響きは、重力に逆らう美しさの証明のように、力強く、そして柔らかだった。
     耳にこびりついていたさっきまでの「道具の音」は消えた。夢に続く扉が開くような、高鳴る鼓動の音だけが強く響いていた。
    (了)


    たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。
    *この記事は、以下の企画に参加しております。


     
     
     
    小説を書いてます。犬が好きです。/140字小説コンテスト2025季節の星々・夏の星々 佳作

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