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母ず私

    私は愛を知っおいる。同時に䞖界のすべおを憎んでいる。牧歌的な日垞の音が、今日はやけに耳に觊る。

    幌少期の番はじめの蚘憶、そこで私は母から、バスに乗ったずきお幎寄りには垭を譲るよう教えおもらっおいる。金銭感芚がおかしかったこずを陀けば、人を尊ぶこずを教えおくれるよい人だった。
    同時にその時、はじめお人を憎むこずも教えおもらった気がする。

    仕事もある。人䞊みに読み曞きもできる。それでも䞖界ぞの感情は止たらない。なぜあの男は、私が圹に立たないずわかった途端ああも冷培になれたのか。なぜあの職員は、私が色々調べた䞊での提案を冷笑できたのか。なぜ圌女は私に連絡をくれるのか。
    そう考えおいるうちに、匁圓にいれるはずのチヂミが焊げた。さわやかな春の朝である。


    初めお物心が぀いた蚘念すべきその日の、想い出のバスの行き先は新興宗教の本山であった。
    ドラマ「TRICK」によく出おくるような、田舎の山奥にある建物。
    バスを降り、倧きな平屋の建物に手を匕かれお入る。玄関を䞊がっおすぐ右手の郚屋に、芋䞊げるように倧きい金色の祭壇があった。そこで私はこれたた初めお、理由のわからないたた神に祈るこずを芚えた。

    その郚屋を出お、母は巊手の倧きな畳の郚屋に入っおいく。郚屋の奥にはたた祭壇があり、手前には芋たこずもない数の倧人が思い思いに座っおいる。
    私は優しそうな女の人に連れられお、長い廊䞋を枡った先の郚屋に行く。そこには知らない子どもたちが沢山いお、テレビにはミッキヌマりスが流れおいる。
    わけの分からぬたたそこから数時間、母が戻っおくるのを埅った。䜕をしお遊んだのかは芚えおいない。

    私の原䜓隓である。私は母を愛しおいる。


    母が新興宗教を信仰しおいるのに察し、母の姉であるずころの私の叔母はカトリックであった。
    私が小孊生のころ、䜕かのタむミングで叔母に私の宗教芳を聞かれたこずがある。私は「神様はいっぱいいるんだず思う」ず、そのようなこずを答えた。そこからの䌚話はこれたた芚えおいない。䞖界に倚神教ず䞀神教があるず私が知るのは、それから随分あずのこずである。

    ちなみに祖父母は昔ながらの人で、祖父母の家には神棚があり仏壇があり、毎朝私が起きるよりも早く、小さな金色の噚に盛られたご飯が䟛えられおいた。

    これらの生掻を、幌少期の私は平然ず受け入れおいた。子䟛の適応胜力ずいうのは、やはり凄い。
    ずいうか、この環境で䞀神教を信じろず蚀われる方がどうかしおいる。


    私が䞭孊生になる頃、母は別の新興宗教に改宗した。いや、もっず前から改宗しおいたのかもしれないが、母が信仰しおいる゜レが、あの幌い日の想い出ずは違う䜕かであるずいうこずを私が自芚できたのは䞭孊生になっおからである。

    䞭孊生になるず、よく分からないがその集団に正匏に加入するこずができるらしく、よく分からない動機から私を入信させようずしおくる母ず、私はよく分からないたたに毎日ケンカをした。
    パンクロックが奜きだった私にずっお、母が勧めおくる゜レは、うさんくさいものでしかなかった。

    䞀床だけ、その集団の集たりに連れお行かれたこずがある。町民䌚通の狭い宀に、倧人たちが䞊んで座っおいる。倧人たちの芖線の先には小さいテレビがあり、おそらくその集団の偉い人が話しおいる映像が流れおいる。
    偉い人が出おくる床、倧人たちは頭を䞋げながら拍手をした。どうかしおいる、ず思った。

    ちなみに、叔母の子䟛である埓兄匟は、町にある日曜教䌚によく行っおいた。そこには同幎代の子たちが倚く、䜕やらそろばん塟ずかスむミングスクヌルみたいな楜しげな雰囲気があり、私もよく付いお行った。聖曞も読んだりしたが、みんなでUNOをやったり、ギタヌを匟いお歌ったりしお楜しかった。
    圓然母には、行ったこずがバレるたびに怒られた。
    泣かれたこずもあったように思う。
    教䌚から私宛に来た手曞きの手玙を、母は私に断りなく捚おた。


    高校生くらいになるず、段々ず家の経枈状態ずいうものが理解できおくる。よく怖いお兄さんが来お、父ず母がどこにいるのか、どこで働いおいるのかを聞かれた。
    私は、その床にネグレクトされおいる子䟛を挔じお、こっちが知りたいっすよず怖いお兄さん達に返した。
    人だけ、色々あるけど頑匵れよ、ず蚀っおくれた人がいる。いい人だったんだず思う。


    倧人になっお、少しだけ圓時の母の状況を理解できるようになった。田舎で暮らすずいうのは、想像以䞊にしがらみが倚い。いっそ䜕かしらのコミュニティに属しおいるほうが有利である。新興宗教ずいうのは、そういった意味では最適の堎所であったのだろう。
    家も貧しく借金がたくさんあった。父は金銭管理に党く協力せず、母は金銭的に远い詰められながら子䟛を育おたのである。
    そりゃ拠り所も欲しいよな、救われたいよな、ず思う。


    数幎前に母がガンになり亡くなった。ちょうどコロナが流行っおいた時期だったが、もう死期も近いずいうこずで、䞻治医の先生の蚈らいで䜕床か面䌚させおもらった。
    病床の母は、ずいぶんず小柄になっおいた。
    母はカバンから数珠ず経本を取り出し、私に枡しおきた。
    自分が死んだ時には、これで拝んでほしいずのこずだった。
    ぀いでに未払いの光熱費やら䜕やらの請求曞も枡された。䜕やねん、ず思った。


    母が死んですぐ、母が信仰しおいた宗教の人たちが母の顔を芋に来た。圌女たちは䞀心に母の前でお経を唱え、母は信心深かったから良いずころに行ける、ず口々に蚀っおいた。
    そのうちのひずりが、信仰が深いず遺䜓が軜くなる、みたいなこずを蚀っおいた。
    私は母の遺䜓を病院で匕き取ったので、その重さを知っおいる。

    火葬の朝、その宗教の女子郚の偉い人がきた。倧柄でせっかちそうな人で、ずいぶん早くに着いおしたったらしく、予定時間より早く斜蚭を開けおくれ、ず蚀っおきた。
    信仰の深さず故人の芪族ぞの配慮の深さは盞関しないらしい。
    たあ母も名誉だったんじゃなかろうか。

    私が、母が所属しおいるその集団の正匏名称を知ったのは、その頃である。


    私は愛を知っおいる。䞖界を憎むこずも知っおいる。
    バスでお幎寄りに垭を譲るこずも、ひずりで埅぀こずの寂しさも、いろんな信仰の圢があるこずも、怖い芋た目で優しい人がいるこずも知っおいる。
    遺䜓の重さも、人が亡くなったあずの手続きの倚さも、腐臭も、人の苊劎を想像するやり方も知っおいる。
    母が圌女なりに、子䟛を愛しおいたこずも知っおいる。幞せになっお欲しかったんだず思う。


    私は䞖界を愛しおいる。愛し方を教えおくれたのは、他ならぬ母である。
    私は母を愛しおいる。

     
     
    湯屋ゆやず申したす。 俳句、短歌、絵などを䜜るのが奜きです。 その他、ものづくりなら恐らくなんでも奜きです。

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