メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bycozy_quokka1514

『0.1秒、星の見えない流星群』

    第一話 はじまりの扉

    「同じクラス、だ」
    掲示板に並んだ名前を見て、俺は少しだけ身構えた。

    彼女とは幼稚園からの幼馴染だ。
    親同士も仲が良くて、小さい頃の写真はだいたい隣に映っている。けれど、小学校の6年間は不思議と同じクラスになることがなかった。
    いつの間にか言葉を交わす機会も減り、幼馴染という肩書きは、どこか遠い昔のものになっていた。

    幼稚園の頃のアルバムを開くと、俺の隣にはいつも彼女がいた。
    遠足、運動会、お遊戯会。どんな行事でも、なぜか俺たちはセットにされていたような気がする。

    一番鮮明に覚えているのは、年長の春だ。
    新しく入園してくる下級生たちに向けて、二人で「歓迎の言葉」を言ったこと。 並んでステージに立ち、練習したセリフを声を合わせて口にする。
    大人たちは「可愛いね」と目を細めていたけれど、子供ながらに俺は、隣に立つ彼女に対して得体の知れない気後れを感じていた。

    彼女は、その頃からどこか特別だった。
    真っ白な肌に、よく通る声。そこにいるだけで周りがパッと明るくなるような、幼いながらに完成された「華」があった。
    「俺みたいなやつが、隣にいていいんだろうか」 そんな、背伸びをしても届かない「高嶺の花」を見上げるような気持ちは、この頃から俺の心に根を張っていたんだと思う。

    だからこそ、小学校でクラスが離れて、物理的な距離ができたことに、どこかホッとしている自分もいた。
    あの眩しさに、これ以上さらされなくて済む。 そうやって自分を納得させていた。

    中学という新しい場所。急に大人びた制服を着た彼女を見て、どう話しかければいいのか。

    そんな「距離感」を測りかねていたのは、俺だけだったらしい。

    教室の扉を開けた瞬間、春の空気が一気に流れ込んできた。

    校庭に咲き誇る桜の香りと、新しい生活を急かすような、少しだけ冷たくて力強い風。 けれど、その教室の窓際に立っていた彼女は、そんな外の世界の喧騒さえも寄せ付けないような、特別な光を放ってそこにいた。

    幼稚園の頃に感じた、あの「高嶺の花」という感覚が、一瞬で記憶の底から跳ね上がる。 制服に身を包んだ彼女は、俺が立ち止まっていることなんて気にも留めない様子で、こちらを見て、ふわりと笑った。

    みるのが恥ずかしいほど、真っ直ぐで可愛い笑顔だった。

    「やっと同じクラスになれたね」

    その言葉が、桜の香りよりも鮮やかに鼻先をくすぐる。 小学校の6年間という空白が、たった数秒の笑顔で塗り替えられていく。 俺はといえば、ただ扉の取っ手を握ったまま、気の利いた返事のひとつも探せないでいた。


     
     
    自分の体験をもとに恋愛小説を書いています!これから少しずつ連載していくのでぜひ見に来てください!

    あなたへのおすすめ