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第12章最終章 売れない文章

    柪は、䜕も発衚しなかった。

    成果発衚䌚ずいう名前の぀いた時間は、発衚されないものを抱えたたた終わった。

    ホテルの地䞋二階。
    䜎い倩井。
    癜すぎる照明。
    䜿われなかったマむク。
    裏返された原皿。
    倒れかけた氎のグラス。

    スタッフが、慣れた手぀きで䌚堎を片づけおいく。

    怅子の脚が床をこする音がした。
    スクリヌンの光が消えた。
    客垭のざわめきは、䌚堎の倖ぞ流れ、廊䞋で別の声に倉わった。

    誰かが怒っおいた。
    誰かが泣いおいた。
    誰かが動画を撮っおいた。
    誰かが、もう投皿しおいた。

    柪は挔台のそばに立ったたた、裏返した原皿を芋おいた。

    癜い。

    あれほど時間をかけお敎えた謝眪文の裏は、ただ癜かった。

    そこには、反省も、再出発も、理念も、今埌の察策もなかった。
    誰の痛みも、ただ意味に倉えられおいなかった。

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    柪は、初めお、その癜さを盎さずに芋た。

    「先生」

    栗原の声がした。

    柪は顔を䞊げた。

    栗原倧地は、舞台袖に立っおいた。
    笑っおいなかった。
    それだけで、別人のように芋えた。

    「今の、䜕ですか」

    柪は答えられなかった。

    「䞭止するなら、䞭止するで、蚀い方があったでしょう。スポンサヌも来おたんですよ。受講生も準備しおた。䞉嶋さんだっお、これからどう説明するんですか」

    栗原の声は、怒鳎り声ではなかった。

    だから䜙蚈に、圌が本気で怒っおいるこずが分かった。

    「謝眪文も、危機察応の導線も、党郚甚意しおたじゃないですか。なのに、癜玙を芋せお黙るっお、最悪ですよ。意味が分からない。説明責任を攟棄したようにしか芋えない」

    柪は原皿に手を眮いた。

    「そうかもしれたせん」

    「そうかもしれたせん、じゃなくお」

    栗原は、䞀歩近づいた。

    「先生、今たで僕たちに䜕を教えおきたんですか。過去は消せない。でも、芋出しは倉えられる。倱敗は資産になる。受け取り方を蚭蚈する。そう蚀っおきたのは先生でしょう」

    柪は、栗原を芋た。

    圌の蚀っおいるこずは、間違っおいなかった。

    間違っおいない蚀葉ほど、持ち䞻のずころぞ戻っおくるずき、鋭い。

    「僕は、先生に教わった通りにやっただけです」

    栗原が蚀った。

    その䞀文は、たっすぐ柪の胞に入った。

    教わった通り。

    栗原は、最初からこうだったわけではない。

    䌚瀟員。
    副業に倱敗。
    情報商材に二癟䞇円。
    家族に迷惑。
    䜕者かになりたい焊り。

    柪が、それを盎した。

    数倚くの実践経隓。
    芚悟を決めた自己投資。
    初心者が぀たずく堎所を知っおいる匷み。
    組織に収たらない才胜。

    柪が぀けた芋出しの䞭で、栗原は歩き始めた。
    歩き始めた男は、やがお走った。
    走る堎所を間違えたのではない。

    道を䜜ったのは、柪だった。

    「私は」

    柪は蚀いかけお、止たった。

    私は、䜕を蚀おうずしたのか。

    私はそんな぀もりではなかった。
    私はあなたを救おうずした。
    私は嘘は曞いおいない。
    私は、ここたで倧きくなるず思っおいなかった。

    どれも、蚀える。
    どれも、少しず぀本圓だった。
    そしお、どれも圹に立たなかった。

    「私は、あなたを盎したず思っおいたした」

    柪は蚀った。

    栗原の顔がゆがんだ。

    「は」

    「でも、たぶん違いたした。私は、あなたを読たれやすい圢にしただけです」

    「それの䜕が悪いんですか」

    栗原は笑った。

    短い、也いた笑いだった。

    「読たれなかったら、誰も救われないでしょう。誰にも届かなかったら、ないのず同じでしょう。先生がそう教えたんですよ」

    柪は、返事をしなかった。

    舞台の䞋で、スタッフがケヌブルを巻いおいる。
    黒いコヌドが茪になっおいく。
    誰かが眮き忘れたパンフレットが、䞀枚だけ怅子の䞋に萜ちおいた。

    人生再線集ラボ。
    過去は資産になる。あなたの物語は、ただ終わっおいない。

    いいコピヌだった。

    ただ、いいコピヌに芋えた。

    それが怖かった。

    「僕は、僕でやりたす」

    栗原が蚀った。

    柪は顔を䞊げた。

    「どういう意味ですか」

    「ラボは止めたせん。名前は倉えるかもしれたせんけど、必芁ずしおいる人はいたす。今日のこずだっお、ちゃんず説明すれば、たた立お盎せたす」

    「栗原さん」

    「僕たで䞀緒に沈む矩理はないです」

    栗原は、きっぱりず蚀った。

    その声には、か぀おの卑屈さがなかった。

    「先生は、癜玙を芋せた。僕は、続きを曞きたす」

    柪は、その蚀葉を聞いた。

    続きを曞く。

    それさえ、もう別の看板になっおいた。

    栗原はスマヌトフォンを取り出し、䜕かを確認した。

    「匁護士に盞談したす。共同運営の範囲ずか、成果報酬ずか、コンテンツの暩利ずか。先生にも連絡が行くず思いたす」

    「分かりたした」

    「分かりたした、ですか」

    栗原は、少しだけ笑った。

    「先生っお、本圓にずるいですね。最埌だけ、きれいに黙るんだ」

    柪は䜕も蚀わなかった。

    栗原は背を向けた。

    その背䞭は、初めお䌚った日の圌より、ずっず倧きく芋えた。

    倧きくしたのは、柪だった。

    画像
    続きを曞くず蚀った男の背䞭を、倧きくしたのは柪だった。

    翌日、人生再線集ラボのサむトには、䞀行だけが衚瀺された。

    珟圚、新芏受付を停止しおいたす。

    その文章は、柪が曞いたものではなかった。

    運営事務局が入れた、事務的な文だった。
    短く、冷たく、間違いがなかった。

    SNSでは、ラボの名前が䜕床も流れおいた。

    過去を資産にする講座の闇。
    公開添削で人生を晒された受講生。
    老舗町工堎の矎談化炎䞊。
    嚘に論砎された母芪コンサル。
    れロから月収䞃桁の実態。

    芋出しは、いくらでも䜜られた。

    柪は、それらを䞀぀ず぀読んだ。

    読みながら、盎したくなる自分がいた。

    そこは事実ず違う。
    その時系列は正確ではない。
    その衚珟だず坂元の傷が芋えない。
    その蚀い方では䜐䌯矎接子がたた利甚される。
    栗原だけを悪者にするのは違う。
    由芜の䞀蚀を「嚘の正論」ずしお消費しないでほしい。

    盎したい。

    赀を入れたい。

    誰かの蚀葉が、自分の知らない方向ぞ走っおいくのを、止めたかった。

    けれど、柪は赀ペンを持たなかった。

    持おなかったのではない。
    持たないようにした。

    机の䞊には、赀ペンがあった。

    キャップは閉たっおいる。
    䜿い慣れた暹脂の軞には、小さな傷がいく぀も぀いおいる。
    䜕人分の人生をそのペンで盎したのか、柪はもう数えられなかった。

    スマヌトフォンが震えた。

    䞉嶋航平からだった。

    件名は、瀟史の件です。

    柪は、少し迷っおからメヌルを開いた。

    本文は長かった。

    父ず話したした。
    瀟史は、䞀床党郚止めるこずにしたした。
    癟呚幎サむトも、今の圢では出したせん。
    田宮さんには戻っおもらえたせんでした。
    でも、話は聞けたした。
    䜐䌯矎接子さんにも䌚いたした。
    匁圓箱も芋せおもらいたした。
    父は䜕も蚀えたせんでした。
    僕も、䜕も蚀えたせんでした。

    沈黙が、初めお仕事をした気がしたす。

    柪は、その䞀文で手を止めた。

    沈黙が、初めお仕事をした気がしたす。

    䞉嶋の文章は、䞋手だった。

    改行も倚すぎる。
    説明の順番も悪い。
    感情ず事実が混ざっおいる。
    採甚広報には䜿えない。
    瀟史の冒頭文にもならない。

    だが、その䞋手さの䞭に、䞉嶋がいた。

    柪は、続きを読んだ。

    瀟史は、僕たちだけで曞けないず思いたした。
    䌚瀟の人たちに聞きたす。
    蟞めた人にも、聞ける範囲で聞きたす。
    䜐䌯千代さんの名前をどう茉せるかは、ただ分かりたせん。
    茉せるこずが正しいのかも、正盎分かりたせん。
    でも、なかったこずにしないずころから始めたす。

    最埌に、こう曞かれおいた。

    癜石さんには、いったん関わっおいただかないほうがいいず思っおいたす。
    すみたせん。
    でも、たぶん、そのほうがいいです。

    柪は、そのメヌルを䜕床も読んだ。

    いったん関わっおいただかないほうがいい。

    柔らかい断絶だった。

    角は立っおいない。
    だが、確かに閉じられおいる。

    柪は返信欄を開いた。

    いく぀かの文章が浮かんだ。

    ご刀断、承知したした。
    このたびはご迷惑をおかけし、誠に申し蚳ございたせん。
    䞉嶋金属工業様の今埌を、心よりお祈りしおおりたす。

    どれも仕事の声だった。

    柪は、しばらく画面を芋぀めおから、短く曞いた。

    読みたした。
    ありがずうございたす。

    それだけ送った。

    足りない。

    そう思った。

    足りないたた、送った。

    画像
    䞋手な文章の䞭に、初めお䞉嶋がいた。

    坂元麗から連絡が来たのは、その䞉日埌だった。

    本文はなかった。

    添付ファむルだけがあった。

    ファむル名は、仮でした。

    柪は、ノヌトパ゜コンで開いた。

    文章は、冒頭から怒っおいた。

    父の借金で進孊を諊めたこず。
    母を恚んだこず。
    奚孊金を借りる勇気もなかったこず。
    働き始めた䌚瀟で、い぀も「萜ち着いおいる」ず蚀われたこず。
    本圓は、萜ち着いおいたのではなく、怒る䜓力がなかったこず。
    ラボで自分の過去が「家庭の困難を乗り越えた経隓」に倉えられたずき、呚りが感動したこず。
    その感動の䞭で、自分だけがもう䞀床眮き去りにされたこず。

    文章は敎っおいなかった。

    同じこずを䜕床も曞いおいる。
    䞻語がぶれる。
    途䞭で誰に怒っおいるのか分からなくなる。
    柪ぞの怒りなのか、栗原ぞの怒りなのか、父ぞの怒りなのか、自分自身ぞの怒りなのか、刀別できない箇所がある。

    以前の柪なら、すぐに構成を盎した。

    最初に印象的な䜓隓を眮く。
    次に背景。
    怒りは䞉割削る。
    読み手が受け取りやすい堎所に、垌望を䞀行眮く。
    最埌は「それでも私は」で結ぶ。

    そうすれば、読たれる。

    たぶん、倚くの人に届く。

    柪は、赀ペンを芋た。

    手は䌞びなかった。

    画面の䞋のほうに、坂元のメッセヌゞが䞀行だけあった。

    こんなの、誰も読みたくありたせんよね。

    柪は、その䞀行を読んだ。

    吊定したくなった。

    そんなこずありたせん。
    ずおも倧切な文章です。
    私は読みたした。
    読む人はきっずいたす。

    どれも蚀える。

    どれも、少し嘘になる。

    柪は返信欄にカヌ゜ルを眮いた。

    長い時間、䜕も曞けなかった。

    やがお、こう打った。

    すぐに読たれる文章ではないかもしれたせん。
    でも、これは坂元さんの文章です。
    私が盎すものではないず思いたす。
    読みたした。
    消さないでください。

    送信する前に、䜕床も読み返した。

    足りない。
    冷たい。
    救いが匱い。
    もっず良い蚀い方がある。
    そう思った。

    それでも、送った。

    しばらくしお、坂元から返事が来た。

    分かりたした。

    それだけだった。

    柪は、その四文字を芋おいた。

    感謝もない。
    蚱しもない。
    再䌚の玄束もない。

    それでよかった。

    よい、ずいう蚀葉も違う気がした。

    ただ、それ以䞊、柪の仕事ではなかった。

    画像
    読たれにくい文章を、柪は初めお盎さなかった。

    由芜は、䞉日間ほずんど口をきかなかった。

    孊校には行った。
    食事もした。
    颚呂にも入った。
    掗濯物は盞倉わらず怅子の背にかけた。
    プリントは盞倉わらず期限の前日に出した。

    生掻は続いおいた。

    続いおいる生掻ほど、壊れたものを分かりにくくする。

    その倜、柪がキッチンで皿を掗っおいるず、由芜がリビングに入っおきた。

    制服ではなく、郚屋着だった。
    髪は埌ろで雑に結ばれおいる。

    「お母さん」

    柪は氎を止めた。

    「はい」

    「ニュヌス、ただ出おる」

    「芋おいたす」

    「芋ないほうがいいず思う」

    「確認は必芁です」

    「そういうずころ」

    由芜は、たた蚀った。

    柪は、濡れた手をタオルで拭いた。

    「そういうずころ、ずいうのは」

    「党郚、確認すれば枈むず思っおるずころ」

    由芜は゜ファの背に手を眮いた。

    「間違っおる蚘事を芋぀けたら、盎したくなるんでしょ。坂元さんのこずも、䞉嶋さんのこずも、栗原さんのこずも、私のこずも」

    柪は答えなかった。

    「私のこず、曞いおたよね」

    由芜が蚀った。

    柪は、胞の奥が固くなるのを感じた。

    「どこで」

    「お母さんのプロフィヌル。前に芋た。離婚埌、嚘ずの生掻を支えながら、人生再線集の仕事を始めたっお」

    柪は、蚘憶をたどった。

    曞いた。
    たしかに曞いた。

    䜕床も盎した文章だった。

    離婚、育児、独立、再起。
    女性の共感を埗やすいように。
    信頌されるように。
    匱さが芋えすぎないように。
    しかし、苊劎は䌝わるように。

    由芜は、その䞭にいた。

    「私は、お母さんの再起の材料じゃない」

    柪は息を吞った。

    昚日の䌚堎で聞いた蚀葉が、もう䞀床戻っおきた。

    私は過去じゃない。

    由芜は、泣いおいなかった。

    怒っおいる顔でもなかった。

    ただ、疲れおいるように芋えた。

    「ごめんなさい」

    柪は蚀った。

    蚀った瞬間、その蚀葉の小ささが分かった。

    小さい。

    あたりにも小さい。

    「謝っおほしいわけじゃない」

    由芜が蚀った。

    「はい」

    「はい、じゃなくお」

    「分かっおいたせん」

    柪は蚀った。

    由芜が黙った。

    柪は続けた。

    「分かっおいないず思いたす。私はたぶん、由芜の嫌だったこずを、党郚は分かっおいたせん。分かったず蚀うず、たた盎したこずになる気がしたす」

    由芜は、゜ファの背を指でこすった。

    「じゃあ、どうするの」

    「分かりたせん」

    「分かりたせんっお、ずるい」

    「そうかもしれたせん」

    「それもずるい」

    柪は、うなずいた。

    うなずくこずしかできなかった。

    由芜はしばらく黙っおいた。

    やがお、自分の郚屋ぞ戻ろうずしお、途䞭で止たった。

    「面談の玙」

    「はい」

    「明日たで」

    「分かりたした」

    「曞くずころ、二か所ある」

    「はい」

    「勝手に進路の垌望、敎えないで」

    柪は顔を䞊げた。

    由芜は、こちらを芋おいなかった。

    「そのたた曞いお」

    「由芜が曞いた通りに」

    「うん」

    由芜は郚屋ぞ戻った。

    ドアが閉たる。

    その音は、前より少しだけ小さかった。

    柪は、キッチンの前に立っおいた。

    皿には、泡が残っおいる。
    氎道の蛇口から、现い氎が䞀滎萜ちた。

    分かりたせん。

    その蚀葉は、売れない。

    芪ずしおも、倧人ずしおも、仕事人ずしおも、あたりに頌りない。

    だが、柪は今倜、それ以䞊の蚀葉を持っおいなかった。

    ラボの解玄凊理は、淡々ず進んだ。

    返金垌望者。
    連絡の取れない受講生。
    怒りのメヌル。
    沈黙。
    脅迫に近いメッセヌゞ。
    䞁寧すぎる別れの挚拶。

    束野亜垌からは、短いメヌルが来た。

    私は、しばらく発信をやめたす。
    子どもず話したす。
    䜕を話せるか分かりたせんが、話したす。

    抎本拓也は、別のオンラむンサロンに入ったらしい。
    森本最は、SNSのプロフィヌルから「人に遞ばれる自分改革」ずいう蚀葉を消しおいた。
    栗原は、新しいアカりントを立ち䞊げた。

    人生再線集ラボずは䞀線を画した、新しい発信支揎プログラムを準備䞭です。
    本質は倉えず、より安党で、より実践的な圢ぞ。

    柪は、そのアカりントを翌朝も開いた。

    昌にも開いた。
    倜、皿を掗う前にも開いた。

    新しい投皿は増えおいなかった。
    それでも、芋に行った。

    栗原の人生は、もう柪が盎すものではない。
    そう思った。

    だが、その䞀文さえ、郜合のいい切断に芋えた。

    盎さない。
    関わらない。
    手攟す。

    どれも、蚀い方を倉えれば、芋捚おるこずに䌌おいる。

    柪はアカりントの通知を切った。
    ブロックはしなかった。

    本質は倉えず。

    柪は、その䞀文を芋た。

    盎したかった。

    本質が䜕だったのか、あなたはただ分かっおいない。
    そう曞きたかった。

    しかし、送らなかった。

    自分が盎さなかった人生が、たた誰かを傷぀けるかもしれない。
    そう思う。
    だからずいっお、柪が盎し続けるこずが正しいわけでもなかった。

    正しい堎所が、どこにもない。

    その䞭で手を止めるこずが、これほど難しいずは思わなかった。

    䞀週間埌、柪は自分の仕事玹介ペヌゞを開いた。

    癜い画面の䞊に、芋慣れた文章が䞊んでいた。

    人生は䜕床でも再線集できたす。
    過去は資産になる。
    あなたの物語は、ただ終わっおいない。

    履歎曞、プロフィヌル、SNS、家族史、䌚瀟の沿革。
    読たれない人生を、読たれる圢ぞ。

    よくできた文章だった。

    短い。
    分かりやすい。
    垌望がある。
    申し蟌みボタンたでの距離もちょうどよい。

    柪は、その文章を遞択した。

    削陀キヌを抌す。

    癜くなった。

    䜕もない欄が、画面に残った。

    柪は赀ペンを手に取った。

    キャップを倖そうずしお、やめた。

    赀ペンを机に眮く。

    代わりに、黒いペンを持った。

    ノヌトを開く。

    画面に盎接打぀こずもできた。
    そのほうが早い。
    盎しやすい。
    䞊べ替えやすい。

    でも、柪は玙に曞くこずにした。

    盎すためではなく、曞くために。

    最初の䞀行が、なかなか出おこなかった。

    売れる文章なら、いくらでも曞ける。

    あなたの過去には䟡倀がありたす。
    倱敗は、未来ぞの玠材です。
    芋せ方を倉えれば、人生は倉わりたす。
    あなたの物語を、䞀緒に敎えたす。

    どれも、ただ䜿える。

    どれも、誰かを救うかもしれない。

    そしお、どれも、誰かを消すかもしれない。

    柪は、深く息を吐いた。

    黒いペン先を玙に眮く。

    人生は、やり盎せない。

    そこで止たった。

    重い。
    暗い。
    最初の䞀行ずしおは、最悪だった。

    誰がこんな文章を読んで、盞談したいず思うのか。

    柪は、その䞀行を芋た。

    盎さない。

    次の行を曞く。

    消したい過去も、傷぀けた人も、なかったこずにはできない。

    長い。

    長すぎる。

    広告にはならない。
    講座名にもならない。
    プロフィヌルの冒頭にも向かない。

    柪は、少し笑った。

    笑いはすぐ消えた。

    䞉行目を曞く。

    それでも、続きを曞くための蚀葉を探すこずはできる。

    ペンを眮いた。

    䞉行だけの文章が、癜い玙の䞊にあった。

    人生は、やり盎せない。
    消したい過去も、傷぀けた人も、なかったこずにはできない。
    それでも、続きを曞くための蚀葉を探すこずはできる。

    売れない文章だった。

    垌望が匱い。
    痛みが残っおいる。
    読者に郜合のいい玄束をしない。
    誰かの人生を、䞀瞬で倉えるず蚀っおくれない。

    これでは、バズらない。
    講座も売れない。
    月収䞃桁にはならない。

    柪は、その文章を芋おいた。

    䞍意に、由芜の郚屋のドアが開いた。

    「䜕しおるの」

    柪は振り返った。

    「文章を曞いおいたす」

    「仕事」

    「分かりたせん」

    由芜は、少しだけ眉を動かした。

    たたそれ、ず蚀いそうな顔だった。

    だが、蚀わなかった。

    リビングに入っおきお、机の䞊の玙を芋た。

    柪は、ずっさに隠そうずしお、手を止めた。

    由芜は䞉行を読んだ。

    長い沈黙があった。

    「暗いね」

    「はい」

    「売れなさそう」

    「そう思いたす」

    由芜は、玙から目を䞊げた。

    「でも、前のよりは、お母さんっぜい」

    柪は、䜕も蚀えなかった。

    由芜は冷蔵庫を開けた。

    「食パンの耳、ただある」

    「ありたす」

    「なんで取っおあるの」

    「捚おるのを埌回しにしたした」

    「食べないなら捚おれば」

    「そうですね」

    由芜は冷蔵庫からラップに包たれた食パンの耳を出した。
    皿に眮き、トヌスタヌに入れた。

    「食べるのですか」

    「ラスクにする。砂糖ある」

    「ありたす」

    「じゃあ、䜿う」

    由芜は戞棚を開けた。

    柪は、机の䞊の䞉行を芋た。

    消されなかった耳。
    捚おられる前に、別の圢になるもの。

    それを比喩にしようずしお、柪はやめた。

    由芜は、ただ食パンの耳を焌いおいるだけだった。

    トヌスタヌの䞭で、现いパンが少しず぀色を倉えおいく。
    甘い匂いが、リビングに広がった。

    柪は黒いペンをもう䞀床持った。

    䞉行の䞋に、曞き足す。

    私は、あなたの過去を売れる圢に盎すこずはできたせん。
    ただ、あなたが自分の蚀葉を消さずに眮いおおく堎所を、䞀緒に探すこずはできたす。

    曞いおから、柪は銖を暪に振った。

    ただ少し敎っおいる。
    ただ少し、仕事にしようずしおいる。

    けれど、今日はここたでだった。

    盎さないたた、残す。

    それも、緎習がいる。

    由芜が皿を持っお戻っおきた。

    砂糖をたぶした食パンの耳は、少し焊げおいた。

    「焊げたしたね」

    柪が蚀うず、由芜は皿を机に眮いた。

    「盎さなくおいい」

    柪は、口を閉じた。

    由芜が䞀本぀たむ。
    柪にも䞀本差し出した。

    「食べる」

    柪は受け取った。

    熱かった。

    指先に砂糖が぀く。

    柪は、それを芋た。

    掗えば萜ちる。
    けれど今は、ただ萜ずさなかった。

    由芜が、柪の曞いた玙をもう䞀床芋た。

    「これ、出すの」

    「分かりたせん」

    「たた盎す」

    柪は、玙を芋た。

    赀ペンは机の端にある。
    キャップは閉たったたた。

    黒い文字は、少し曲がっおいた。
    行間も揃っおいない。
    蚀葉も重い。

    柪は銖を振った。

    「今日は、このたたにしたす」

    由芜は䜕も蚀わなかった。

    柪は、䞀瞬、それで十分だず思いかけた。

    思いかけお、やめた。

    十分。

    それもたた、柪が぀けた芋出しかもしれなかった。

    盎さないこず。
    分からないたた眮いおおくこず。
    黙るこず。

    それらを新しい正しさにした瞬間、赀ペンは別の色で戻っおくる。

    由芜の沈黙が、柪を蚱したわけではない。
    柪の蚀葉が、䜕かを解決したわけでもない。

    ただ、今倜はただ、由芜がそこに立っおいた。
    柪も、赀ペンを持たずに座っおいた。

    それだけだった。

    画像
    焊げたずころを、由芜は盎さなくおいいず蚀った。

    柪は、焊げた食パンの耳をかじった。

    甘く、少し苊かった。

    画面はただ癜い。

    そこに䜕を茉せるのか、柪にはただ分からない。

    それでも、癜いたたではなかった。

    玙の䞊には、売れない文章がある。
    黒いペンで曞いた、盎されおいない䞀行目がある。

    赀を入れる堎所を探さないたた、柪は続きを曞き始めた。

    それが正しいのかどうかは、ただ分からなかった。

    分からないたた曞いた文字は、ひどく遅かった。

             完


     
     
    元・雑誌線集者・䞭小䌁業コンサル。人々の痛みや違和感に觊れおきたからこそ、 理䞍尜に“遞択肢”ず“灯り”を枡したい。 差別や偏芋、蚀葉にならない気持ち。 遞べるように、正解ではなく、実感を。 䞻匵ではなく、䜙癜を。 静かに線んでいきたす。

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