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【自給自足連載】「知らぬままでは終われない」第1回:シングルライダー

    「生活という名の愛おしい試練」(KADOKAWA)を出版した帆坂悠による自給自足連載。本を売りたいという願いを込めて勝手にスタート。連載テーマは「好奇心」です。体験し、どう感じ、どうやって生活に還元していくのか。そして好奇心旺盛太郎の生活は続く。担当編集がいない中、締め切りを守ることが出来るのかも見ものです。

    毎月「9」の付く日に2回更新予定。

    こちらから購入可能です!みなさま🐈🌴



     
     先日、仕事で大阪へ行く機会があり、翌休日に一人でユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行った。

    大阪・一人・休日の三拍子が揃えば行く場所はここしかないのである。そして目的としては「シングルライダー」を知ることだ。

    この動機となったのは『SixTONESのオールナイトニッポン サタデースペシャル』での松村北斗の知る人ぞ知る伝説のエピソードトークである。休日に一人でユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行き、シングルライダーになって生き生きと話す姿を聴いて、一度は体験したいと思っていたのだ。

    ディズニーランドの夢世界より富士急ハイランドの現実絶叫で育った僕なので、テーマパークではもっぱらアトラクション(ジェットコースター)が好きだ。そして関西の人が好きだ。理由はあまり言語化できないが、関西が好きなのである。好きに理由なんていらねえ。

    関西の代名詞である大阪で、そのテーマパークとなれば致死量の関西弁が聞けるに違いない。僕は目的とは別に不純に胸を躍らせていた。

    現地に到着する。

    ユニバーサルシティ駅という駅名を授けられていてディズニーランド最寄りの舞浜駅より世界観演出に役を買っている…と思ったが、ディズニーは「ディズニーリゾートライン」というディズニーのために公共の路線を買収開拓し、窓やつり革がミッキーマウスの形に変形を遂げ、偶像として祀られたモノレールが通っていることを思い出した。こんなところで資本主義社会を感じたくない。

    時刻は15時ちょっと過ぎを回っていた。

    今日の自分はシングルライダーだし17時からのナイト・パス(5,300円)を購入すればアトラクションはほとんど乗れるだろう、と余裕綽々に駅前のサイゼリヤでチキンのサラダを食べながら公式サイトを眺めていたところ、7月1日からの期間限定チケットなことに気づく。

    ええ!安く入場したかったのに!と嘆くもトワイライト・パス(6,200円)なるものもあってテーマパークの間口の広さに感銘を受ける。

    これもシングルライダーの醍醐味だ(?)

    早速チケットを買って入場すると、意外にも平日なのに人が多かった。一人でテーマパークにいるな〜と思ったのも束の間で、すぐに慣れて楽しくなってくる。やはりシングルライダーのポテンシャルを秘めておったか。

    まずは松村北斗が「はしゃぎすぎて一緒に乗っていた海外のファミリーにドン引かれた」というアトラクション、フライングダイナソーに乗ろうと思い、歩を進める。

    がしかし、歩けど歩けど一向にジュラシックパークエリアに辿り着かない!

    同じ場所を行ったり来たりして、場末のスナックみたいな建物とジョーズに何回遭遇したか分からない。途中でサンリオピューロランドにいるはずのキティさんがいて、なんで?と思ったがここは関西のユニバーサル。もうなんでもありや、と思ったらどうでもよくなった。20分程歩き続けてさすがに時間がもったいないと思い、ようやく見つけたキャストの人に聞くことにした。


    「すみません、フライングダイナソーに乗りたいのですが…」

    「アーハン…。ジュラシックパークエリアにあるザ・フライング・ダイナソーのことだね! ここを真っ直ぐ、あそこを突き当たれば見えてくるはずさ!」

    「あ、ありがとうございます…じゃあここは…?」

    「ここは魔法の世界の入り口。この森を抜けた先には…!」

    「なるほどぉ…ありがとうございます!」


    なんで。まさか夢の国の住人みたいな立ち回りでくるとは思わず、社交的なお礼をして足早にその場を立ち去る。

    僕はどこかで勝手に期待していたのだ。

    「おおきに!兄ちゃん、一人?おもろいことしてるやん。あっち行ってこっち行ってこうやで。わからへんかったらまた戻ってきや!いつだって僕はここにおるから!」

    のような人情味溢れたバリ関西弁の返答を。

    いやキャストの人はまっとうに職務を遂行しているだけなのだが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに夢の国要素はいるのだろうか???関西弁LOVERとしては非常にもどかしく、なんだかもったいないなあという気持ちになっていた。アーハンって、何?

    教えてもらった道を歩きながら、そういえばユニバーサル・スタジオの本家ってアメリカのロサンゼルスということを思い出して妙に納得する。キャストなりのハリウッド演出のアーハンだったらしい。

    しばらく歩くとジャングルっぽい光景が見え、無事エリアに入ることができた。ほんまありがとうアーハン兄ちゃん。上空からは絶叫する声が聞こえて、ここが私のアナザースカイ!と胸を広げてワクワクする気持ちが抑えられなくなる。そしてついに今回の目的である「シングルライダー」の扉を開けることになるのだ。

    入場口の待ち時間の電光掲示板を見てみると「ザ・フライング・ダイナソー 65min」「シングルライダー 40min」と表示されていて、シングルライダー自体が掲示板の貴重な一枠を有していた。実は立派な市民だったのだ。同時にはたと気づく。

    シングルライダーは乗り方ではなく、生き方そのものであったか………

     テーマパークは誰かと楽しむものである、という考えを前提としていたら気づかないことだった。奇数グループで行き、一人が溢れて「じゃあお前シングルライダーな(笑)」と嘲笑し安直な発言をするグループとは離れなさい。たとえシングルライダーとなった場合でも「お前のことを…誇りに思うよ」と背中をそっと押してくれるグループと共に生きなさい。

    電光掲示板に勝手に思いを馳せていると、受付のキャストが僕に気付いた。

    「何名さまでしょうか?」

    この質問を待っていた。
    顔をあげ、恥じらいなんて概念が最初からなかった世界に生まれた紳士の如く淑やかに答える。

    「…シングルライダー…」

    遂に念願を叶えたのであった。

    そこから先はマリオカートの加速床に乗ったみたいにグングンと進み、通常列を追い越していく。これがシングルライダーか… 一度体験したらこの快感を忘れることは難しくなりそうだ。

    そして40分も並ぶことなくわずか10分ほどで乗れることとなり、搭乗口の列に案内される。すごいぞシングルライダー…!

    案内されたマシンに並ぶとなんと海外ファミリーの3人グループと僕1人の構成だった。はからずも松村北斗のシングルライダールートに乗り運命に似た何かを感じ、嬉しい気持ちになる。父親らしき人物のTシャツには「Mexico」と書かれておりスペイン語を話していたのでおそらくメキシコ人だったと思う。愛国心が強すぎるよ。

    マシンに乗り込み、うつ伏せの状態でスタートするのは初めてで今までかつてジェットコースターで感じなかった生命の危機を覚える。

    マシンが動き出した。

    ………………

    「WAHAHAHAHA!CRAZY!!!!!FUCKING CRAZY!!!!FUCKING!!!!!!!!!CRAZY!!!!!!!!!FOOOOOOOOO!!!!!!」


    乗っていた時の感覚はあまり覚えていない。
    でもメキシコ人父親によるファッキン・クレイジーは覚えている。その娘たちの爆笑とスペイン語での絶叫。そして、メキシコの情熱に呼応するように自分も際限なく叫び倒していたことは覚えている。


    そう、めちゃくちゃ楽しかったのである。 

    これは間違いなくメキシコ人ファミリーの影響だ。情熱のファッキンクレイジーの伝播と言ってもいい。初めての体験をこんなにファッキンクレイジーな思い出にしてくれてありがとう。しかしこのファッキンクレイジーを共有出来る人がすぐ隣にいないことが少し寂しかった。松村北斗さん、いつか一緒にファッキンクレイジーと叫んでくれますか?

    無事シングルライダーになった僕は、そこからはパーク内を闊歩していた。僕は自由だ。キャストにも気軽に道を聞きまくり、もうここには自分の怖いものなどなかった。計5つくらいアトラクションに乗り、最後に一番人気でヤバいと噂される「ハリウッド・ザ・ドリーム・ライド」に乗ってフィニッシュすることにした。

    時刻は19時を回りマジックアワーのように幻想的に空を染めている。他のアトラクションの待ち時間の傍ら、常連っぽい人が話していた「ハリドリは夜に乗るのが景色がサイコーなんよ」という言葉を信じて夜まで待って良かった。こんなの上空で見たら絶対綺麗だ。

    そして30分ほど並んで搭乗口に案内される。今回は関西弁を話す20代の女子グループとカップルと僕の構成だったが、もう何も怖気付くことはなかった。

    耳元のスピーカーからはドリカムの「大阪LOVER」が爆音で流れはじめる。のちに調べてみたところ、オリジナル音源ではないUSJ Editionなのだというが、MY音楽史にドリカムがいなかったので全然違いが分からない。

    前方のグループは「スキヤケド…スキヤノニ…スキヤカラ…スキヤンカ…」の呪文のようなリズムに合わせて腕を左右に大振りしていた。そういう宗教だと言われても信じるくらいの揃い具合である。さては常連なのだろうか。はたまた関西の学校では学生時代にドリカム歌詞講義があるのだろうか。サビが近づくにつれて天に登っていくコースターに、臓器が浮遊する感覚を覚えた刹那。


    くるで─────────!

    確かに聞こえた関西弁のありがたすぎる一声を皮切りに、上空で三半規管を壊してやろうというテーマパークの気概を感じる予測不能な動きで身体を振り回される。ユニバーサルの看板は伊達じゃない。熱唱するドリカム。息を呑むほどに綺麗な大阪の街、マジックアワー。絶叫そのものよりお互いの顔を見合って爆笑する女子グループ。FOOO!ではなくウワーー!に叫び声を変える順応性を見せる自分。

    振り回されて絶叫すること数分、

    「スキヤケド…スキヤノニ…スキヤカラ…スキヤンカ…」

    またドリカムは呪文を唱えていた。コースターは動作を止めようとゆるやかに徐行をはじめる。大阪LOVERは歌詞というよりずっと普通に話しすぎている。またリズムに合わせて腕を左右に振る女子グループ。ぐるぐると目が回っているせいか視界が蜃気楼のように儚く見える。

    ハリウッド・ザ・ドリーム・ライドから見た光景はまどろむ夢のようだった。感じたことのないすごい体験だ。

    堰を切ったように女子グループの一人が心底楽しそうに話し出す。

    「…ヤバい!!!!ほんまにウケる!!!!最高すぎほんまに!!!!!!!!!ハリドリの圧よりマイの顔で息出来んくなった!!!!!!!」

    夢から醒めた僕はふと思った。

    マイの顔。僕は自分がどんな顔で叫んでいたのか知る由もなかった。
    マイの顔。誰かの顔面崩壊した表情を見て自分が笑うことはなかった。
    マイの顔。上空ではない、陸の居酒屋でいつだって誰かと共有し合えるその時の感情がある。
    マイの顔。ハリドリの圧に勝つ顔っていったいどんな顔だったのだろう。

    シングルライダーを知り、僕はマイの顔を知りたくなったのだった。


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