
メロいって何?と聞いたおばさんは今
30代に入ってからだろうか。
自分よりも年下の人のことを、無意識に「若い子たち」と表現するようになった。
20代中盤あたりから症状をあらわしてきた"老けた俺カッケー"の延長かもしれないし、年齢的にそう表現しても違和感がないからかもしれない。
ただ明らかなのは、「若い子たち」と口にする時、私は彼らを「話が合わない別の生き物」として線引きしてしまっているということだ。
もちろん向こうからしても、私は立派な「おばさん」枠だろう。だからこそ、私はそうはさせないゾ!と、世代差を感じさせないフレンドリーな振る舞いを心掛けてきた。世代間で腫れ物に触るような空気感なんて、絶対に認めたくなかったからだ。
と、まぁそんな調子で無駄に気を張っているから、『あの話の続き』がいまだに切り出せないでいる。
あの話……。
そう。
職場で「若い子」に向かって、
『メロい、ってなんだと思う?』
と切り出した、あの時の話だ。
自身のポッドキャストでも若者言葉の『メロい』について考えていたため、リサーチも兼ねて話題を振ってみた。週例会議の休憩中、「雑談なんだけどさ〜」と空気を変えるつもりで軽妙に問う。
「『メロい』ってどういう時に使う?」
あ〜最近よく聞くそれね〜、と共感を得た空気を感じ取る。よしよし、いい手応えだ。すると目の前の若者Aが口を開いた。
「言ったことないんでよく分からないんですけど、たとえばアイドル路線じゃないアーティストが、指ハートでファンサしてくれた時とかですかね」
「ギャップ萌えってこと?」
「うーん。要は、沼る〜!みたいなことだと思います」
「……ほう。では、沼るとは?」
ダル絡みソクラテスと化した私に、根気よく付き合ってくれる若者A。
「無意識のうちにハマっちゃってた!みたいな感じですかね」
「じゃあメロいは基本ある行動を指していて、それが積み重なった結果、沼ることになるのかね」
──しまった。なんの話だコレ。
「ま、まぁそんな感じなんじゃないの」という生ぬるいリアクションと共に、不毛な雑談が終わろうとしていた。
冷や汗を滲ませていると、そこに若者Bが通りかかった。彼女は最年少で、かつアイドルオタクだ。うってつけの人材が現れた!キミだよ、キミを待っていたんだよ!
「若者Bはどう思う?」
「自分も使ってはいないですけど、メロいって思う事はありますね」
「えっ!メロいって思う事あるんだ!」
思わずおばさんは嬉々としておうむ返ししてしまう。
「最近メロかった出来事は〜」
最 近 メ ロ か っ た 出来事…!!
いまだかつて見聞きした事ない活用法に、私は胸を躍らせた。そう、彼女には推しがいる。今まさに私は、メロいの真髄に近付いている!
「推しがバラエティ番組に出てたときなんですけど、失恋した子になんて声かける?っていう質問に対して言った言葉が良くて」
「何て言ったの?」
「それが──」
プルルルルルルルルル!!!
近くにある電話が鳴った。最悪のタイミングだ。これがドラマなら速攻で「次のエピソードに進む」ボタンをタップしている。
彼女はそのまま流れるように電話応対(しかも長丁場)に入り、無情にもその日は終わってしまった。
そして、あれからもう2週間が経とうとしている。
今更「あの時のメロかった台詞、なんだったん?」が聞けないのだ。
いや、そこは聞けよ!と何度も自分を鼓舞したが、ダメだった。後に引けば引くほど、内容が内容なだけに「おばさんのキモさ」が増すように思えて仕方がない。
10歳以上も歳の離れたおばさんが、2週間も「若者の推しのメロい台詞」を気にかけ続けていたという事実。それはもはやただの雑談ではなく、異常な執着だ。
なんで私は「メロい」についてこんなに考えなくちゃいけないんだ。もはや、メロいの意味を正しく知るなんてどうでもいい。ただ、あの宙ぶらりんになった "to be continued" の先に辿り着きたい。ああ、もどかしい。
でも、やめとこう。
そのほうがいい気がする。
前日譚となるメロいについて考えたポッドキャスト回はこちら