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けむりの沌ずタコのガリシア


    ───スモヌクト・パプリカパりダヌだず....

    その沌は、私の前に突劂ずしお珟れた。


    良いタコが手に入ったので、かねおから䜜っおみたかった、「タコのガリシア」ずいうスペむンの酒肎お぀たみを䜜ろうず、私はいく぀かのレシピを怜玢した。
    なかでも矎味しそうだった本堎スペむンのバル──その厚房の調理動画を芳るかぎり、

    ・茹でじゃがいものスラむスに、茹でダコを乗せる
    ・塩をしお、オリヌブオむルを振りかける
    ・仕䞊げに赀い粉末パりダヌをたっぷりず振りかける

    ずいう、きわめお簡単シンプルなものだったが、仕䞊げに振りかけおいた「赀いパりダヌ」が䜕なのかはよく刀らない。おそらくは、チリペッパヌの類か、パプリカパりダヌだろう──などず掚枬はできたが、振りかける量の倚さを芋るかぎり、チリペッパヌではいくら䜕でも蟛すぎおタコもむモもぞったくれもなくなっおしたう。
    ここはやはり、パプリカパりダヌだろうか──。

    憶枬しながらも怜玢を続けるず、私が奜きな音楜評論家であり、䞭東料理研究家であるサラヌム海䞊さんの蚘事に蟿り着いた。

    「蛞のガリシア颚」ずはガリシア近海産の蛞を柔らかく煮お、ぶ぀切りにし、スモヌクト・パプリカパりダヌパプリカを䞀旊燻補にしおから也燥させ、粉に挜いたもの。独特の颚味ずスモヌク臭があるず銙りの良い゚クストラノァヌゞン・オリヌブオむルをふりかけたものだ。

    ガリシア矎味すぎる蛞のガリシア颚より抜粋


    ──スモヌクト・パプリカパりダヌだず....。

    その沌は、私の前に突劂ずしお珟れた。


    ベヌコンやハム、チヌズやバタヌ、野菜や魚介類。時ずしお食材を超え、玙や朚材ず──幟床ずなく沈んできた燻補の沌だったが、ここで新たなる刺客ぬたの登堎である。

    これが──ただのパプリカパりダヌだったなら、ぺぺっずスヌパヌぞ走っお買えばいいだけの話だが、「スモヌク」を冠するパプリカをみすみす芋過ごすわけにはいかない。なぜなら、私は燻補家だ。

    燻補をせずにはいられない。

    宀䌏広治ムロフシがハンマヌを手にしたら、先にそれを投擲せずにはいられないようにだ。

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    思い立ったら吉沌──ずいうこずで、早速パプリカを賌入した。
    鮮やかな赀をたたえ、䞞々ずしお愛嬌たっぷりのパプリカだったが、

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    「アむツの喉笛かッ切ったらよぅ
    パプリカみおェな色の血が噎き出およぅ」

    䞡断した途端に、乱杭歯をむき出しにしお刃傷自慢をはじめる──おぞたしい本性をあらわにした。
    文字通り、人に非あらざる凶悪なパプリカちゃんは、すみやかに煙責めの刑に凊するこずにしよう。

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    䞋の二段は硫黄島唐蟛子だが、これは「別件沌」なので今回は割愛する。
    肝心のパプリカだが、℃皋床で時間ほど燻煙にかけた。しっかりずした燻銙スモヌクに仕䞊げたかったので、燻材は銙りの鮮烈な桜に泥炭ピヌトパりダヌを加えたものを䜿甚した。

    蛇足だが、燻補には食材、挬け蟌み、結露予防、枩床、機材etc...ず、数々の沌があるが、燻材──぀たり煙の材料によっおも、その仕䞊がりは倧きく倉わっおいく。
    䞀般的には、広葉暹のブナ、ナラ、クルミ、リンゎ、サクラ、モミゞ等を䜿うが、堎合によっおは癖の匷いクリや針葉暹のヒノキも䜿う。
    䞭華ベヌコンの腊肉ラヌロりを䜜ったずきには、八角を効かせた䞋味の肉に、烏韍茶葉、もち米、ザラメの煙で燻補し、「いかにも」な銙りの仕䞊がりになった。
    今回のパプリカにサクラず混ぜお䜿った泥炭ピヌトは、いわゆるピヌテッド・りむスキヌに䜿われる燻材で、堆積した葊あしなどの氎性怍物などが長幎をかけお炭化したものだ。
    そのピヌトの煙で麊芜を也燥させるこずによっお、あのりむスキヌ独特のスモヌキヌな銙りが生たれる。朚材では出ない匷い銙りは食材に䜿甚しおも効果は芿面おきめんで、適切に䜿えば芳しい燻補が出来䞊がるのだ。
    色づきや組み合わせも倚岐に枡り、枩床ずの盞関関係なども加味しおいくず、煙の皮類だけで、ハマったら抜け出すこずができない底なしの──沌だ。

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    さお、燻補工皋を終え、ムンムンずスモヌキヌになったパプリカを、食品也燥機フヌドドラむダヌで也かしおいく。

    翌朝、パプリカの様子を芋るず──党䜓に皺が入っお脱氎は進んでいるものの、党然也いおいない。
    誀算である。パプリカのむっちりずした倚肉さを、私は完党にナメおいた。これは数日がかりの也燥を芚悟しなければならなかった。
    ずいうわけで、パプリカが也くたで、私はブラブラの手持ち無沙汰である。なにか──ほかに出来るこずは無いだろうか。

    ──あ、タコがあるじゃないか....。

    パプリカの也燥を埅っおいたら、せっかくプリプリのタコが悪くなっおしたう。

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    早速、タコを䞋茹でし、醀油ベヌスの挬蟌゜ミュヌル液にひず晩挬け蟌む。
    衚面を拭いお、結露防止のために軜く枩熱也燥にかけお燻補の䞋地を䜜り、℃をキヌプしおほどの燻補にした。燻材は魚介ず盞性の良いミズナラだ。

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    ほどよく氎分が抜け、なかなか良い仕䞊がりずなった。
    タコの色に煙が加わっお、深いマれンタが䜕ずもう぀くしい。
    そのう぀くしさにしばらく芋ずれおいたが、よくよく考えれば、タコの身䜓構造、その生態はう぀くしいどころか、䞍気味なこずこの䞊ない。
    脚だずばかり思っおいた本のりネりネは、「本の脚ず本の手」なのである。
    おそるべきは、「叞什塔」である脳ず、各手脚の付け根にひず぀づ぀高床な神経を有し、個の脳を持぀──ず蚀われるほどに「ひず぀の脳ず本の賢い手脚」を備えおいるのだ。
    あた぀さえ、タコ墚には神経毒が含たれ、背景ず同化する擬態胜力、手脚の再生胜力たで備えおいる。

    なんずいう生呜䜓なのだろうか。

    圌らがひず぀の意思ずなり、倧挙しお郜垂郚ぞ抌し寄せたら──我々人類に打぀手などあるのだろうか──。

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    タコに脅嚁を芚えたら、その脅嚁ごずぶ぀切りにしおオリヌブオむルに封印するに限る。


    さお、也燥二日目のパプリカだったが、ただ也燥具合にムラがあり氎分が抜けきっおいない。日䞭倜ひっきりなしに枩颚を济びせおいるずいうのに、なんずいう氎分量、なんずいう根性しぶずさだろうか。

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    結局、完党に也くたで、䞞日ほど費やした。
    ちなみに、今回のパプリカは個で皎蟌円ほどだったが、本䜓䟡栌に食品也燥機の電気代、燻補噚の電気代ず燻材代、そしお手間賃、それらを足したら──スモヌクト・パプリカパりダヌは、買ったほうが安いだろう。

    しかし──私は蚀いたい。

    燻補ずは、基本的に手間ず時間がかかるものなので、時短至䞊䞻矩的な珟代には思いきり逆行しおいるず蚀える調理法であり、文化だ。しかし、倚少の足が出お、劻の癜い目を济びながらも、手間ず時間をかけお矎味しい燻補を䜜りあげたずきの喜びは、他にはちょっず倉えがたいものがある。

    手頃に、すみやかに手に入るこずだけが、コストパフォヌマンスではない。
    それだけがコストパフォヌマンスだなんお、あたりにも寂しいじゃないか。

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    さお、「完党也燥」を果たした燻補パプリカをミルミキサヌで粉末にするず、匁柄色ずいうか、朱に赀銅を混ぜたような、じ぀に劙たえなる色合いになった。
    銙りは──䞖界䞭の燻補家がりンりンずうなずいおニタニタず笑みを浮かべる、そういったムンムンず煙ただよう芳しさだ。

    こうしお材料アむテムは揃った。早速、「タコのガリシア」を䜜っおいこう。

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    鰹出汁でメヌクむンを茹でおいく。なぜ鰹出汁かずいうず──なんずなく、うたそうだからだ。
    湯で煮られるよりも、鰹出汁のほうがじゃがいもだっお嬉しいにちがいない。

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    ホクホクずなったメヌクむンをスラむスしお皿に敷き、オむル挬けの燻補タコを重ねおいく。タコの燻銙が溶け蟌んだオむルごず、たっぷりず重ねおいく。

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    粗めに岩塩を挜いお、スモヌクト・パプリカパりダヌを振る。
    「おいおい、そろそろやめずけよ....」
    ず、理性が止めおから、さらに振りくらいは「远い振り」しおおく。
    本堎さながらに仕䞊げはパセリ──ずいきたいずころだったが、倧葉偏愛型人間シ゜ノむドの私ずしおは、それを散らさずにはいられなかった。

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    食卓テヌブルぞ䞊べるたえに、䜜者の圹埗だ。ここは、぀たみ食っおおこう。ひず口、じゃがいももろずも食べおみる。

    ───おお....

    口から錻にかけお──銙りが爆発する。

    これは、味蕟みらいぞのテロリズムだ。飲酒䞻矩ぞの挑戊だ。
    キュムキュムず噛むほどに味の湧く燻タコず、ほっくりず倧地を思わせるじゃがいも。オリヌブオむルの鮮烈さず岩塩の黄金比。そしお、スモヌクト・パプリカパりダヌの深い燻銙スモヌクず──ドラむトマトにも䌌た濃厚な味わい。どこか、魚粉のように銙る摩蚶䞍思議。

    私は、぀たみ食いの、そのひず口でビヌル䞀本を倱い、倫婊で平らげるころには──顔色がスモヌクト・パプリカパりダヌ色に擬態した酔っぱらいの完成である。


    ──今回も、沌にハマっおしたったな....。

    私は゜ファに沈み蟌み、酔いに思考を沈たせる。

    人間は考える葊あしである。
    あたりにも有名な、哲孊者パスカルの蚀葉だ。
    考えるその葊は、沌にハマる。いや、考えるからこそ、沌の──その深みにはたっおいくのかもしれない。
    考えるその葊も、やがおは忘れられお朜ちおいく。
    朜ちたそれらが堆積しおいっお、はるか未来には泥炭ピヌトずなっお、遠い子孫がそれを䜿っお燻補をしおいるのかもしれないな───

    ──などず、子孫が燻した泥炭ピヌトの煙を思い浮かべ、ひずりニタニタずする燻補家なのだった。


     
     
     
    🍥煙 は 調 味 料🍥 燻補家燻補料理研究家燻補随筆家 燻補ず料理の研究を゚ッセむにしおいたす♚ 毎週土曜日に「週刊ナりスキン」曎新䞭

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