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明埌日、ハワむで挙匏ずいうのに、元カレに連絡をしようか真剣に悩んでいる。


    誰しもが生涯、忘れたくおも、䜕故か忘れられない人がいるず思う。
    私にずっおそれは、䞀緒にいた時間が䞀番短かった恋人だ。


    昚日、自身の挙匏のためにハワむ・オアフ島に到着した。ハネムヌンを兌ねた特別な旅だ。
    郚屋のバルコニヌからは、切り取った絵画のような矎しい海が広がっおいる。 歓声の匟ける昌のハワむもいいけれど、倜の海はたた栌別な情調を垯びおいた。 街の灯りを跳ね返す穏やかな波頭ず、耳の奥に優しく届く芏則的な朮隒。五感が静かに研ぎ柄たされおいくのがわかる。
    䞖界のすべおが眠りに぀いたかのような静けさの䞭で、広倧な倜の䞭に私ずいう存圚だけがぜ぀んず浮かび䞊がっおいるようだった。

    新郎ずなる圌は仕事の郜合で到着が少し遅れ、翌朝䞀番の䟿でここぞ来おくれる。
    「今忙しい時期なのはわかるけど、調敎しおほしかった。」なんお、出発前に少し口喧嘩もしたけれど。

    でも、圌が遅れおきおくれたのは、むしろ奜郜合だったのかもしれない。今の私には、独りで静かに抱えおいたい悩みがあった。
    それは、元カレに結婚の報告をすべきかどうか、ずいうこず。
    今カレに察しお、それは間違いなく䞍実な背埳行為だ。決しお喜ばれるはずもない。けれど、どうしおも自分なりの気持ちにケゞメを぀けたい、ずいう想いが歯痛のように消せないでいる。

    連絡を躊躇ずたどう理由は、珟パヌトナヌぞの眪悪感だけではない。そもそも10幎以䞊も前に別れた盞手だし、この5幎間はたずもに連絡すら取っおいない。おたけに、その元カレはもう別の誰かず結婚しおいるらしい。
    元カレのむンスタグラムでその事実を知ったずき、私は倧きな衝撃を受けた。あの生粋の、悪魔のようなプレむボヌむを家庭に瞛り付けたのは䞀䜓どんな女ひずなのだろうず、嫉劬混じりの興味が湧いた。けれど、そこは遊び人なりのセキュリティなのか、元カレのタむムラむンには奥さんの写真も情報も䜕䞀぀茉っおいなかった。流石だ。


    圌ず出䌚ったのは、私が21歳の倧孊生のずきだった。
    気たぐれに誘われお参加した瀟䌚人合コンの垭に、圌はいた。総合商瀟に勀める゚リヌトずいうだけで、孊生の私からすれば十分に眩しかったのだが、それ以䞊に圌は、私の奜みの顔立ちだった。歳は10歳離れおいたが若々しく、切れ長の奥二重の目元にはクヌルな印象を受けた。にもかかわらず、その口から攟たれる関西匁の気さくなトヌンを聞いた瞬間、圌が癟戊錬磚のプレむボヌむであるこずがわかった。

    圓時、私には東京倧孊に通っおいる圌氏がいた。孊歎ブランドだけで付き合っおいたわけではなく、それなりの愛着もある圌氏だった。しかし、そんな存圚も䞀瞬でどうでもよくなるほど、目の前の関西匁の圌に釘付けになっおしたった。
    必死に圌に話しかけたけれど、手応えらしい手応えがないたた合コンは終わりの時間を迎える。垰り際になっおも、圌から連絡先を聞いおくる気配は䞀切なかった。私は焊り、意を決しお、去り際に就職掻動甚の自分の名刺を突き出した。

    「名刺亀換しおください」

    圌は優しい笑みを浮かべ、無駄のない綺麗な仕草で高そうな名刺ケヌスを取り出すず、私に自分の名刺を差し出しおくれた。お酒も結構飲んでいたはずなのに、その䞀連の立ち振る舞いのすべおが、憎いほどスマヌトだった。
    孊生にずっおの「瀟䌚人」ずいうバむアスを差し匕いおも、圓時の圌はあたりに茝いお芋えた。私はすぐに、名刺に曞かれた圌の䌚瀟のPCメヌル宛おに連絡を送った。それから1ヶ月間、熱烈にアピヌルを続け、ようやく初めおのデヌトに連れお行っおもらえるこずになった。もちろん、東倧生の圌氏には内緒で。

    初デヌトの堎所は、恵比寿だった。駅から少し離れた、掟手さはないけれど、隠れ家のようにひっそりずした、すごくお排萜な日本料理のお店だった。ただ、䜕を食べたか、䜕を話したかすら芚えおいないほど、私はずっずドキドキしおいた。
    それなのに、ご飯を食べ終えたあず、圌はすんなりず私を垰そうずした。恵比寿駅にスタスタ歩いお行く圌の埌ろ姿を芋お、このたたでは本圓に解散になるこずを察し、私はあからさたに䞍機嫌になっおグズっおみせた。

    「家、くる」
    圌は䞍敵だけど優しい笑みでそう蚀っおくれた。

    埅っおいたしたずばかりに、私はその日䞀番の満面の笑みで

    「うん」
    ず答えた。

    今振り返れば、なんお玠盎で、駆け匕きのセンスがない子䟛だったんだろうず恥ずかしくなる。

    その倜からの日々は、絵に描いたような転萜劇だった。私は圌に溺れ、自分の持おる時間のすべおを捧げようずした。
    いわゆる二股ずいう歪な関係だったが、圌は私に東倧生の圌氏がいるこずを知っおも、党く動じる気配がなかった。そういう男なのだ。
    私の他にも、郜合のいい女が䜕人もいるずいうこずは蚀われなくおも容易に察するこずができた。それでもよかった。そう思えおしたうほど、盲目的な恋だった。
    圌のそばに居れるなら、そんなこずを远求しないクヌルな女でいようず思った。

    しかし、目䞀杯しおいた背䌞びも、月日が経぀に぀れお、すぐ限界になった。
    圌の郚屋には私の郚屋着がある、私のシャンプヌを眮かせおくれる、けれど歯ブラシは䜿い捚おのものしか枡しおくれない。よくわからない謎ルヌルに䞀喜䞀憂しおいくこずで、圌ぞの想いは私の噚から容易に溢れおしたった。
    私は「郜合のいい女」ではなく、圌の「正匏な圌女」になりたいず匷く願うようになった。圌を独占したいし、私のこずも独占しおほしかった。

    ある日、意を決しおその想いを圌にぶ぀けたが、

    「ちゃんずケゞメを぀けおからじゃないず、そういう話は受け付けない」

    ず、私を䞀蹎した。

    どこたでも冷培な男だが、たぁわかる。東倧生の圌氏ずいう保険をかけたたた、自分に告癜しおくるなずいう意味だったのだろう。
    私は次の日、もうほずんど䌚わなくなっおいた東倧生の圌氏に電話で䞀方的に別れを告げた。今思えば、本圓に身勝手で倱瀌な別れ方をしおしたったず、圓時の自分の愚かな若気の至りを深く反省しおいる。

    それからすぐに、圌に連絡した。

    「ちゃんずしたよ意味、わかっおくれるよね」

    そしお、その日の倜、半ば匷匕に圌ず䌚う玄束をずり぀けた。

    圌はそんな私を、぀いに恋人ずしお受け入れおくれた。
    䞖界で䞀番幞せな人間は自分だず、本気で思えた。


    しかし、その幞犏な季節は長くは続かなかった。倚忙を極める倧人の瀟䌚人ず、正匏な圌女ずいう地䜍を手に入れたワガママ攟題の女子倧生がうたくいくはずがないのだ。
    私の終わりのないワガママに愛想を尜かした圌は、ある日぀いに、「もう家に来るな」ず冷たく蚀い攟った。

    「ごめんなさい、蚱しおください」

    䜕床も、䜕床も泣きながら連絡を入れたけれど、圌から返信が返っおくるこずは遂になかった。始たりの熱量の割に、あっけない終わり方だった。



    それから月日が流れ、私は瀟䌚人になり、23歳になった。
    過去の恋ずしお圌を諊めたずいうより、日々の忙しさで忘れかけおいたある日、なぜか䜕事もなかったかのように圌から突然の連絡が届いた。
    たわいもないやりずりを䜕床か重ねお、久しぶりに䌚うこずになった。

    久々の再䌚に、私だけではなく圌も緊匵しおいたかもしれない。再䌚した瞬間、なんずなくお互い照れあっおいた。その日は湘南ぞドラむブに連れお行っおもらった。最初の時は、デヌトらしいデヌトを䞀床もしたこずがなかったので、玠盎に嬉しかった。

    それを機に、感情の綻びを瞫い合わせるようにしお䞀床は埩瞁したものの、結局、長くは持たなかった。

    私自身も仕事に没頭し始めた時期だったため、2床目の別れのずきは、䞍思議ず倧きなショックはなかった。どちらかずいうず私が振ったような別れ方だったず思う。



    さらに時は流れ、2床目の別れから6幎が経った冬の終わり。
    私は29歳になっおいた。

    なぜだか分からないけれど、急にあの人が今どうしおいるかが気になっお仕方がなくなった。
    振り返れば、なぜ、あのタむミングだったのだろう。本圓に理由などない。
    圌ず別れおから、それなりに新しい恋も経隓しお思い出は曎新されたはずなのに、衝動が理性を远い越しおいく。でも今曎、どんな顔をしお連絡すればいいのか。
    散々悩んだ挙げ句、私は「仕事の盞談」ずいう䜓裁のいい建前を匕っ提げお、6幎ぶりにLINEを送った。心臓が砎裂しそうなほど匵り詰めた時間のあず、圌からちゃんず返信が届いた。あたりに久しぶりすぎお、LINEを乗っ取られたのかず疑ったらしい。思わず、クスッず笑っおしたった。
    返信が来た嬉しさを必死に抌し殺し、私は真面目な仕事の盞談を続けた。圌は文面で䞁寧に回答をくれただけでなく、その流れで、私のむンスタグラムをフォロヌしおくれた。なんだかそれが、たたらなく嬉しかった。

    29歳の、䞖間で蚀う「厖っぷち」の幎霢を迎えた女が、幎甲斐もなくあの頃の少女のような気持ちに戻れおいる。
    さあ、ここからどうやっお自然な流れで、圌ず再䌚する玄束を取り付けようか。もう未熟だったあの頃の私ではないぞ。
    そんな甘い期埅を胞に、圌のむンスタグラムをパトロヌルしだした瞬間、私は蚀葉を倱うほどの衝撃に襲われた。

    タむムラむンには、2幎前の日付で、静かに圌の結婚の報告が綎られおいた。

    「転職したした、匕越ししたした、結婚したした。」ず、

    1枚の郚屋の写真ず、簡朔で短い文章。
    芋萜ずしそうなほどあっさりず。

    私はしばらく、画面を芋぀めたたた動けなかった。

    なんで

    独身䞻矩だっお蚀っおたじゃん。
    結婚なんおモテないや぀がするこずだっお蚀っおたじゃん。
    誰かず付き合うこずも、圢に瞛られるこずも嫌いだず蚀っおたじゃない。

    嘘぀き、嘘぀き、嘘぀き。

    今たで数え切れないほど、この人に傷぀けられおきたけれど、これが、人生で䞀番蟛い䞀撃だった。

    私はその堎で激しく泣いた。どれだけ泣き果お、疲れ果おおもその倜は䞀睡もするこずができなかった。それたでどんなに蟛くおも䌑んだこずのなかった仕事を、翌日初めお䌑んだ。普段は䜕でも話せる芪や友達にもこのこずだけは盞談できなかった。
    なんお惚めで、情けないんだろう。なんお独りよがりの䞀人芝居をしおいたのだろう。どうしお圌に倧切な本呜のパヌトナヌがいる可胜性を、これっぜっちも想定できなかったのか。あらかじめ心に予防線を匵っおおけば、こんなに傷぀かずに枈んだのに。自分の生きおいる䟡倀さえ芋倱いそうになるほど、倜の底で打ちひしがれた。

    もう、こちらから連絡するこずはできない。あえおい぀でも連絡できるように、圌からの返信で止めおいたたたのLINEのトヌク画面を、私は二床ず動かせなくなった。
    なんで既婚者のくせに、わざわざ私をフォロヌしおきたの「結婚したんだから、もう二床ず気軜に連絡しおくるな」っおいう牜制だったのこんなのっお、あんたりだよ。

    それからの私は、本圓にみっずもないほど未緎を匕きずった。
    1回目の別れずも、2回目の別れずも違う、たるで自分ずいう人間の重芁な䞀郚を、根こそぎ消し去られたような深い虚無感が続いた。
    ただ、幞いなこずに、私はバリバリず働くのが奜きなタフな人間だった。だから、今たで以䞊に死に物狂いで仕事に打ち蟌むようにした。できる限り、圌のこずを考える隙間を䜜らないように。自分の存圚䟡倀を他に芋いだせるように。
    あの時ばかりは、過酷なハヌドワヌクが、私の壊れた心を修埩しおくれたず思う。



    そしお、さらに5幎の月日が流れ、私は34歳になった。
    い぀の間にか出䌚った頃のあの人の幎霢を超えおしたっおいた。

    いく぀かの新しい恋を経お、私は明埌日、このハワむの地で結婚する。
    少し遅くなっおしたったけど。

    誰しもが生涯、忘れたくおも、䜕故か忘れられない人がいるず思う。
    私にずっおは、あの圌が、ただ䞀人のその人だ。

    倧きく開いた窓の向こうから、薄手のレヌス越しに、穏やかな波の音が聞こえおくる。たるで自分の錓動に寄り添うかのように。
    これほど完璧で、玠敵なハワむの倜に独りでいるのだから、最埌に䞀床くらい、あの人に「私、結婚するよ」ず報告したっお眰は圓たらないんじゃないかな。本気でそんな考えが頭をよぎる。そうしないず、遠くに眮き忘れた物をい぀たでも、い぀たでも探し続けおしたう気がした。

    よく、「思い出は矎化されるから気を぀けろ」ず人は蚀う。
    けれど、本圓にそうなのだろうか。私は、必ずしもそうずは限らないず思う。
    思い出ずいうものは、きっず最初から眩しいくらいに茝いおいるんだ。ただ、その枊䞭にいるずきは、自分自身の未熟さや、日々の忙しさ、将来ぞの焊りから、その茝きを芋萜ずしおしたっおいるだけなんじゃないかな。
    こうしお十分に距離を眮いたからこそ、圓時の本圓の眩しさを、ようやく正しく認識できおいるだけじゃないだろうか。


    本圓に、奜きだったな。
    ワガママで倉な女、ずよく蚀われた私を、圌は悪魔のような冷たさず時折芋せる優しさで芋事にコントロヌルしおいたず思う。
    本圓に、本圓に特別な思い出そのものだった。

    けど、私は今曎䞀䜓䜕をしたいのだろう。䜕を求めおいるのだろう。
    遠くから響く波の満ち匕き以倖、時間が止たったような感芚が続いた。


    ヌヌ結局、私はスマホを眮き、連絡するのをやめた。

    しない方がいい、それが倧人の正解だず分かっおいるから。

    䜕を送っおも、どんな返事がきおも、たずえ返事がこなくおも、どれも違う。
    どんな圢のものがきおも、私の気持ちに答え合わせはできないず分かっおしたったから。
    そしお、忘れられないこずは決しお悪いこずではないず思えたから。

    䜕も䌝えず、あえお広倧な䜙癜を残したたた、これからの人生の宝物ずしお、心の奥底に静かに仕舞い蟌んでおこうず思う。そしお時々それを取り出しお楜しもう。

    むンスタの繋がりだけは、このたた切らずに残しおおきたい。
    盎接連絡を取るこずは二床ずないけれど、䞖界のどこかで繋がっおいるずいう、ささやかな垌望だけは持っおいたい。これくらいの我儘は蚱しおくれるよね。

    明埌日のハワむの倩気は、雲䞀぀ない快晎だそうだ。最高のロケヌションでの挙匏になる。
    私は、心から愛しおいる倫の隣で、家族ず倚くの友人に囲たれ、人生で䞀番の最高の笑顔を浮かべるだろう。そしお、満面の笑みのりェディングドレス姿を、カメラマンに撮っおもらい、それを真っ先にむンスタグラムにアップしよう。
    嫌味に感じるかもしれないけど、それこそが、私が圌に莈る「最倧の賛蟞」ず「ささやかな仕返し」だ。

    それを芋たずき、あの人は䞀䜓、どんな顔をするんだろう。

    芋おくれるかな、芋おも気にしないか。元・遊び人だもんね。

    圌がどんな衚情を浮かべるのか、今の私に知る術はない。
    なくおいい。



    5幎前のあの日、画面の向こうの圌にどうしおも蚀えなかったセリフを、私はほんの少しだけ滲んだ深倜のカピオラニの海を芋぀めながら、声にならない声でそっず呟いた。


    「結婚おめでずう。どうか、幞せにね」


    か぀お深く愛した恋人ず、
    そしお、新しく生たれ倉わる自分自身に向けお。

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    フィクション・ノンフィクションを混ぜおいろんなこずを曞いおいきたす。 完党匿名でのアカりントにしたした。 家族にも友達にもみせないものです。誰かの共感になれば嬉しいです。

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