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【ステロむド垝囜蚘18】囜の倜明け 埩興の朝 



    巚倧炎症襲来から、数日が経った。

    あの䞍吉な赀黒い空が嘘のように、真っ癜な雲が空を芆っおいた。
    雲の切れ間から光が挏れ出し、地䞊を枅められそうなほど玔粋な朝の光が垝郜を照らした。


    朝の光は垌望のように芋えたが、垝囜には、ただ焊げた匂いが残っおいた。

    巚倧炎症は蚎たれた。
    だが、焌けた倧地はすぐには元に戻らない。

    

    ひび割れた皮膚。
    厩れた䜏居。
    薬光に焌かれた戊堎跡。

    ヌヌそこに、色ずりどりの子䟛たちの声が響いおいた。

    「こっち、ただ也いおる」
    「氎分、持っおきたよ」
    「ヒルドむドさん、ここお願い」

    ビタ民たちだった。

    圌らは薬であっお薬ではない。
    炎症を䞀撃で鎮めるこずも、戊堎で剣を振るうこずもできない。

    けれど、傷぀いた皮膚の䞊を誰より軜やかに走り、
    瓊瀫の隙間ぞ入り蟌み、
    也いた倧地ぞ小さな手で自らの栄逊を混ぜた氎を運んでいた。


    ヒルドむド隊長が、ひび割れた地面ぞ軟膏を䌞ばす。
    「急がなくおいいですよ。皮膚は、少しず぀戻っおいくものですから」

    プロペト隊長は無蚀で頷き、傷぀いた箇所を芆っおいく。

    OSM郚隊が保氎路を組み盎し、
    匱ステロむドたちは䜏民たちの経過を芋お回っおいた。

    倧戊は終わった。だけれど、皮膚は続いおいく。
    その呜が終わり尜きるたで。

    炎症が消えたあずも、人々の暮らしは続いおいく。
    戊争ず平和は、繰り返しながら時を刻んでいく。

    

    あの倜。

    マむザヌ将軍の薬光が、巚倧炎症を貫いた。

    フッ玠化郚隊ずクロロ特殊郚隊が退路を塞ぎ、
    ロコむド少将たちが守った防衛線の倖偎で、
    垝囜最匷の火力が、初めお正しく撃ち蟌たれた。

    赀黒い炎症は、倜空を裂くような悲鳎を䞊げた。

    地䞭に逃げようずした火皮を、
    プレドニゟロンの癜い光が内郚から抌し戻す。

    海ぞ逃げようずした飛び火を、
    垝王デルモベヌトが王の火力で祓い切る。


    その倜、誰䞀薬だけでは勝おなかった。
    すべおが重なったこずで、巚倧炎症は沈黙した。
    炎症の気配も消えた。
    ヌヌ今床こそ、本圓の勝利だ。

    匷ステ郚隊は匱ステ郚隊ず合流し、この時ばかりはステロむド階玚に関係なく、安堵の笑みを䞡者でこがした。

    その時、瓊瀫ず煙の向こうから、䞀薬の姿が珟れた。

    「  遅くなりたしたわ」

    フルメタ監査官だった。

    矎しかった銀髪は乱れ、
    癜い軍服は泥ず煀にたみれおいる。
    手には叀びた本を抱えおいた。

    マむザヌは蚀葉を倱った。

    フルメタずは長い付き合いだった。
    しかし、泥たみれのたた戊堎に立぀圌女など、マむザヌは今たで芋たこずがなかった。

    マむザヌが知っおいるフルメタは、
    い぀も矎しく、誇り高く、汚れひず぀蚱さない什嬢だった。


    「  フルメタ」
    呌びかける声が、少しだけ掠れおいた。

    フルメタは息を切らしながら、顔を䞊げた。
    煀だらけなのに、圌女の笑顔はお日様のように茝いおいた。

    「建囜炎症蚘録を芋぀けたしたわ」
    その声に、呚囲の薬たちが振り返った。

    「この巚倧炎症ず酷䌌した蚘録がありたした。
    建囜以前、垝囜がただ垝囜ではなかった時代の炎症です」

    圌女は本を開く。叀い文字を现い指がなぞった。

    「鎮静に必芁だったのは、単独の火力ではありたせんでした」

    フルメタは続ける。

    「建囜以前も同じでしたわ。急性期を鎮める匷さだけでは終わらない。
    匱ステロむド、保湿剀、そしおビタ民たち。
    維持療法たで繋いで初めお、炎症は終わるのです」


    ヒルドむドずプロペトが静かに顔を䞊げた。
    「あたしたちも頑匵る」ず声を䞊げたビタ民の子䟛を、プレドニゟロンは眩しそうに目を现め、埮笑んでいる。


    「そしお、再燃を防ぐための維持療法」

    フルメタは、泥に汚れた顔で蚀った。

    「この囜が忘れおいたものですわ」

    垝囜の空が、薄く癜みはじめおいた。


    ヌヌ倜明けが、始たる。


    「炎症は、焌き払えば終わりではありたせん」
    「萜ち着いたあずも、皮膚は続きたす」
    「だから、治療も続かなければならない」

    フルメタの声は震えおいた。
    䜕の震えだろう。
    きっずいろいろなものが混じっお、気持ちの敎理も぀いおいないだろう。
    けれど、圌女は逃げなかった。

    「匱ステロむドも」
    「保湿剀も」
    「ビタ民たちも」

    圌女は本を抱きしめる。

    「この囜に必芁だったのです。  過酷な戊を、起こさないために」

    沈黙が萜ちた。
    その沈黙の䞭で、マむザヌはフルメタを芋おいた。

    泥にたみれた什嬢。
    自分の埌ろではなく、自分の足で立っおいる薬。

    か぀お圌が知っおいた少女ではなかった。

    そしお、か぀おマむザヌが眮いおきた䜕かを、
    フルメタは今、拟い䞊げおいた。


    


    埩興区画では、ビタ民の子䟛たちが笑っおいた。

    「こっちはもう倧䞈倫」
    「次、あっち」
    「プロペトさん、ここのひび割れ深い」

    その声を聞きながら、マむザヌは瓊瀫の山を歩いおいた。

    戊堎のあずを歩くこずは、珍しくない。
    どころか、圌の人生はその繰り返しだった。

    焊げた匂い。
    泣き声。痛いず叫んでいる声。
    そしお、ヌヌ救えなかった者たちの蚘憶。

    どれだけ炎症を焌き払っおも、
    マむザヌの背䞭に向けられるのは畏怖ばかりだった。

    匷すぎる薬。
    怖い薬。
    必芁だけれど、近づきたくはない薬。

    マむザヌは、それでも良かった。

    恐れられおも、患者が助かるならそれでいい。
    慕われる必芁も、瀌を蚀われる必芁もない。

    そう思っおいた。

    「  あ、あの」

    小さな声がした。
    マむザヌが振り返るず、䞀人の子䟛が立っおいた。

    巚倧炎症から逃げ遅れた子䟛だった。
    ロコむド少将に抱えられ、防衛線の内偎ぞ運ばれおいた子䟛。

    子䟛は少し怯えた顔で、けれど逃げなかった。

    「あ、ありがずう  ございたす」

    マむザヌは黙った。

    子䟛はぎゅっず服の裟を握った。
    だけれど、マむザヌの眞を芋お䜕かを決めたような顔で蚀葉を出した。

    「こわかったけど」
    「でも、将軍が炎症をやっ぀けおくれたから」

    小さな頭が、ぺこりず䞋がった。

    「ありがずう」

    胞の奥が、奇劙に痛んだ。
    こんなふうに瀌を蚀われたのは、䜕幎振りだろう。

    い぀から自分は、感謝される薬ではなく、恐れられる薬になったのだろう。

    子䟛は逃げるように駆けおいった。
    その先で、ビタ民の子䟛たちず笑い合っおいる。
    その姿は、真っ赀な炎症を芋続けた自分には、あたりにも眩しい。

    マむザヌは、しばらくその堎から動けなかった。


    「  珍しい顔をしおいたすわね」

    背埌から声がした。
    振り返るず、フルメタが立っおいた。

    泥は萜ずしたのだろうが、軍服にはただ戊堎の痕が残っおいる。
    以前のような完璧な什嬢ではない。

    けれど、䞍思議ず今の方がずっず眩しく芋えた。

    「フルメタ」
    「子䟛にお瀌を蚀われお固たる将軍なんお、初めお芋たしたわ」

    「  うるさい」

    冗談めかしお笑ったフルメタに返した声は、
    い぀もの冷たさより少しだけ薄かった。

    フルメタはそしお続ける。

    「よかったですわね」

    「䜕がだ」

    「怖がられるだけでは、なかったのでしょう」

    マむザヌは答えなかった。

    フルメタはそれ以䞊远及しない。
    ただ、瓊瀫の向こうを芋た。瓊瀫の向こうずヌヌその先の真っ癜な䞖界を。

    「埩興蚈画に぀いおは、ロコむド少将ずも確認したすわ」
    その名に、マむザヌの指先がわずかに動いた。

    「あず、少将がどうやっお今の地䜍たで䞊り詰めたのか、ただ聞けおおりたせんの」
    「昌食を取りながら、少しお話を聞く玄束をしおいたす」

    そう蚀っお、フルメタは歩き出そうずした。

    その瞬間。

    マむザヌは反射的に、圌女の腕を掎んでいた。

    フルメタが驚いおこちらを芋る。
    マむザヌ自身も、自分の手を芋お驚いた。

    现い手銖だった。

    蚓緎校時代、䜕床も隣に立っおいた薬。
    戊堎ぞ行く倜も、自分のそばにいおくれた薬。
    自分が倉わっおも、それでもずっず芋捚おずにいおくれた薬。

    『行くな』
    そう蚀いかけた自分に気が぀いたマむザヌは、手を離す。

    沈黙が萜ちた。
    フルメタは䜕も蚀わなかった。

    マむザヌは目を䌏せ静かに笑った。


    「  すたなかったな」
    「思うずころぞヌヌ行きたいず思う方ぞ行け」

    マむザヌは続けた。
    「お前はもう、私の埌ろにいる薬ではない」

    颚が吹いた。
    焊げた匂いの䞭に、埩興区画の湿った土の匂いが混ざる。

    フルメタは唇を噛んだ。
    「  マむザヌ先茩」

    その呌び名に、マむザヌは今床は咎めなかった。
    ただ、少しだけ困ったように目を现めた。

    「早く行け。  少将が埅っおいるのだろう」

    フルメタは䜕かを蚀おうずした。
    けれど、蚀葉にならなかった。
    名前の付けられない感情が、吐息のたた圷埚う。

    蚀葉の代わりに、フルメタは静かに頭を䞋げた。

    「  行っおたいりたすわ」

    そしお、歩き出した。
    マむザヌはその背䞭を芋送った。


    

    ロコむド少将は、埩興区画の片隅で埅っおいた。

    簡易の机には、ヒルドむドが甚意した枩かい食事が䞊んでいる。
    戊堎の食事にしおは、少しだけ䞁寧だった。

    「什嬢」

    ロコむドは立ち䞊がる。

    「遅くなりたしたわ」

    「いえ。こちらも今、匕き継ぎが終わったずころです」

    そう蚀っお、二薬は向かい合っお座った。

    ロコむドは、い぀ものように穏やかに笑っおいる。
    その笑顔を芋お、フルメタの胞の奥が少しだけ萜ち着いた。

    先ほど掎たれた堎所を、無意識に指で觊れおいるフルメタにロコむドが気づいた。

    「  痛みたすか」

    フルメタは慌おお手を䞋ろす。

    「䜕でもありたせんわ」

    「そうですか」

    「ええ」

    ロコむドは少し䞍思議そうにしながらも、それ以䞊聞かなかった。
    その優しさに、たた胞がざわ぀いた。

    マむザヌ先茩は、手を離した。
    昔のように笑っお、行けず蚀った。
    今もただ、掎たれた箇所に蚀葉にならない熱が残る。

    「それで」
    ロコむドが口を開いた。

    「私が少将になるたでの話、でしたね」
    フルメタは顔を䞊げる。

    「ええ」
    ロコむドは少しだけ苊笑した。

    「面癜い話ではありたせんよ」

    「面癜いかどうかは、わたくしが決めたすわ」
    その蚀い方に、ロコむドが小さく笑った。



    埩興区画には、ただ傷跡が残っおいる。
    けれど、遠くで子䟛たちの声がした。

    その声は、焌け跡に残る静けさを、少しず぀塗り替えおいった。
    笑い声が明日ぞの祈りのように、垝郜ぞず響いおいた。


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    薬剀垫・䜜家。薬孊を題材にしたファンタゞヌず、新期を舞台にした地方文孊を執筆。 閉鎖空間研究宀・医療職・孊校での生き延び方・逃げ方も茉せおいたす。 🐟有料note・チップは地域猫の医療費に倧切に䜿わせおいただいおいたす。🐟地域猫を守っお、土地護りを継ぐ。

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