
陽太が猫になった理由(14)
14.栄光は誰に輝く?
陽太は、猫の身体に入ったまま、その身体の使い方を、自らに叩き込んだ。
陽太が中身の猫は、専用のおもちゃだけでは飽き足らずに、ペットボトルの蓋や、その他の蓋などで、受け止め続けた。
そんな風に、コツコツと続ける事で、陽太は体得する事にした。人間と違って、猫の身体は身軽で柔らかい。
その身軽さと柔らかさが、最初は恐怖心でしかなかったが、そんな可動域が広い動きにも、次第に慣れていった。
猫の視力は弱いのに、それとは反比例する、動体視力の強さも、陽太にとっては違和感だったが克服した。
しかし、その状態に慣れるにしたがって、陽太も自信がついて来た。
人間とは全く違う体格に、最初は物凄い違和感を感じたし、そのバネの強さから、ジャンプ力の高さに戸惑った。
しかし訓練により、段々とその違和感に慣れて行った。
不安定で頼りない感じ方も、地面に落ちる時のふわっとして、不快や恐怖を感じる衝撃も、特訓を通して克服して行った。
とまあ、最後くらいは、スポ根っぽくしないとね♪
同じ事が、犬田家でも繰り広げられていた事を、後で本人から聞いた。
フリスビー、テニスボール、骨型おやつ、使わなくなったスリッパ、更には座布団まで使ったらしい。
そんな風に、家族全員でキャッチし合うゲームに、夢中になって行った。
こうして両家とも、我が子の晴れ舞台である、リアルタイム観戦が、もう途中まで進んでいる訳だが、両家にとっては、もはやどうでも良くなっていた。
両家共々、我が子の晴れ舞台が見たいよりも、愛猫、愛犬の、「遊ぼう」の催促に負けた。
それくらい中に入っている、陽太と犬田のいつになく真剣で、強過ぎる圧に屈した。
それぞれの家族は、
(仕方ない。後で録画を見直そう・・・。)
と、諦めざるを得なくなった。
こうして「モフモフの圧」に両家共々敗退した。
そうするうちに、家族たちが気付かないミラクルが、現場では起きていた。
陽太が猫らしい動きを体得した時、そして犬田も犬らしい動きを体得した時、奇跡は起きた。
ジュニアユースの決勝戦中、出場中の陽太と犬田の、中身がするっと入れ替わった。周囲は何も気が付かないが、彼らの心の中では、
「いつの間にか、いつの間にか、いつの間にか・・・。俺は猫じゃない。俺は陽太だ!」
「俺は、俺は、俺は犬じゃない!俺は犬田郁夫だ!」
と、心の中で叫び、更には心の声の勢いで、歓喜のガッツポーズを決めた。
中継カメラは突然のガッツポーズに驚き、二人のその姿をドアップで捉えた。そしてその事後処理は、放送席に丸投げされた。
「試合途中でどういう訳か、目黒選手と犬田選手が、いきなりのガッツポーズを決めました!」
更に続けて、
「自分自身を鼓舞しているのか、何かが心の中で燃えているのか⁈」
放送席のアナウンサーは、この場はとにかく熱く語るのが一番だと思った。
そのまま彼らは違和感なく動き、走りも止めず、躊躇なくボールを奪い続け、メンバーに貢献した。
「ちゅーる」の掛け声なんて、陽太にはもう必要がない。
犬田もおかしな掛け声になど、全く動揺せずに、チームの一人として空中戦に臨んだ。
二人の個性は、ジュニアユースの決勝戦とは思えないほど観客を魅了した。
そして最終的にどちらが勝ったのかは、読者の皆様のご想像にお任せします。
死のルーキーグループで、呆気ない負け方をした犬田が、決勝戦まで躍り出た事で、明美は手のひらを返し、復縁する事に決めた。
当然、復縁可能だと踏んだ明美は、小さな花束を用意して、横須賀ドッグランの選手用のバスの前で、ひたすら感動の再会を待ち詫びていた。