
陽太が猫になった理由(16)
16.人生舐めたらあきまへん(前編)
犬田との復縁を諦めた明美。
「本命は、レッドブリックスのエース、古畑正則さん。キープは目黒陽太君ね。」
明美はLINEのメモ帳に、今後の自分の作戦を、一人打ち込んでいた。
しかし、振られたての女にとって、本命は重すぎた。 なので、キープ(だと勝手に思っている。)陽太を、ターゲットにした。
明美は、変なところで頭が良かったので、自分に都合の良い豆知識だけは、豊富だった。
計算済みのラフプレイから巻き返しを図り、チームへの貢献をアピールする事で、レギュラーメンバーになれたのも、くだらない豆知識のお陰だ。
「統計を取ったところ、幼馴染を異性として見る事は、出来ないって言うから、今の陽太君だったら、ライバル不在だし、余裕でゲット出来るよね♡」
そして再び、顔を赤らめつつLINEメモ帳に打ち込む。
(サッカーで川崎キャッツアイ時代に、一世を風靡してた頃は、学校の成績が悪かったから、サッカー辞めた=問題外だったけどね。)
それからやや、鼻息荒く続きを打ち込む。
(けどサッカーのレギュラー辞退して、学業に専念してからは、校内成績ベスト10の常連なので、近づかない手はない。)
将来の夢は港区女子の明美さん。
(物になるかならないか、分からないサッカー選手よりも、やっぱり安定の陽太君よね。あれなら、最悪でMARCH、最高で東大も夢じゃないわ。)
そして、謎の上から目線でLINEメモを打ち続けた。
(そうよ。彼と同じ高校に行くためなら、美月に家庭科の宿題を手伝ってもらえば楽勝じゃん。私、頭いい。)
更に欲は膨らむ。
(陽太君に勉強を教わろう。毎日が図書館デートなんて、夢みたい。)
(美月はきっと、私の恋を応援してくれるよね。うん。大丈夫。ちょろいちょろい。それに、幼馴染はライバルじゃないしね。)
昔々、猫の写真集に「舐め猫」という写真集があり、「舐めんなよ!」がキャッチフレーズだったが、動物虐待でお蔵入りになった。
そんな風に、相変わらず人生を舐め切っている明美さんが、美月と陽太の前に現れた。
「幼馴染コンビのお二人さん、一緒にお茶しない?」
と、明美。
だが美月は、
「リュックに背負った猫と、これから獣医さんに行くので、陽ちゃんが相手してあげて。じゃあね。」
陽太、何だか嫌な予感。
「俺、勉強が忙しいから。それに俺は本当に、何の魅力もないただのガリ勉男だよ。じゃあ、バイバイ。」
しかし、腐ってもレギュラー。将来の夢はなでしこ入りと港区女子。 明美は陽太の肩をぎゅっと掴んだ。
観念した陽太は、
「話を聞くだけならいいよ。」
という事で、近くのファミレスに入った。
自己陶酔をしながら、何か喋っているようだったが、明美にバレないように、陽太は聞いている体で、スマホで曲を聴いていた。
(決勝戦祝いで監督から、チーム全員に送られた記念品の、最先端ワイヤレスイヤホン、本当にステルスタイプなんだ。すげえ。明美に全然バレてない。)
「話聞いてくれてありがとう。美月とも話したいから、ここで失礼するね。」
「あ・・・ああ。じゃあな。」
そして、家に帰って来た美月に、電話が掛かって来た。
「私たち、これからも友達だよね。ちょっと話を聞いてくれるかなぁ。」
美月はもう、関わりなんて持ちたくなかった。
(けれどももしかしたら、犬田君に振られたてで、慰めて欲しいのかな?)
という事で、泣きの一回を認めた。
そして明美が美月の部屋に入った瞬間、上着のポケットからスマホが滑り落ちた。床に落ちたスマホの画面が光り、福耳の肉球が“ピッ”と触れた。
次の瞬間――
福耳、まさかの“猫ハッカー術”で、明美への社会的制裁が始まった。
スマホが落ちたその時、Siriが勝手に起動した。