
陽太が猫になった理由(2)
2.俺は福耳
愛猫福耳の事を間違えて、外に出してしまった美月パパ。慌てて外に出たら目の前から車が迫って来た。
パニックから、
「うわあああああああ!」
と叫んだまま、頭を抱えて動けない美月パパ。
それでも陽太の好判断で、福耳は無事生還した。福耳を美月の部屋に入れた後、美月パパが再び玄関を開けて、陽太にお礼を言った。
しかし、陽太の中に入っているのは福耳なので、意味が分からずきょとん顔である。
「そうか、とにかくありがとうね。」
面倒臭くなった美月パパは、それだけ言うと、家の中に入って行った。目白家の長女美月は、福耳の様子が、変わってしまった事に驚いた。
「福ちゃんって、こんな大人しい、静かな子だったっけ?」
やんちゃで手が掛かるが、積極的で甘えん坊の福耳なのだが、今の福耳は鳴く事もなく静かで大人しい。
「そりゃあ、車に轢かれそうになった直後だもの。怖い思いをしたから、大人しくなっちゃったんでちゅよね~。」
と、福耳に赤ちゃん言葉で話し掛けるパパ。
「パパも外に出る時は、福ちゃんが出て行かないように気を付けてね。」
「ああ。そうするよ。パパはやる事が多過ぎて、注意不足だったんだ。」
男性という生き物は、失敗しても言い訳ばかりで済ませてしまいます。
彼らは、謝ったらタヒぬと本気で思っているようです。
背後から、ママの厳しーいツッコミが入った。
「飲み会も多忙の一つなのかな?答えなさいパパ。」
更に、美月も畳みかけた。
「陽ちゃんが居てくれなかったら、福ちゃんはタヒんでたんだよ。それを考えたら、言い訳は良くないと思うよ。」
「二人共、手厳しいなぁ。それに唯一の趣味なのに、今ここでそこまで持ち出すかなぁ?」
「パパに言うなら今でしょう?健康診断の結果を、私が見過ごすとでも?」
数値は嘘を言いませんからねぇ。
「だからいつも控えていると、何度言えば・・・。」
屁理屈をこねて、粘るパパ。粘りが出るほどこねたなら、いいパンが焼けそうですねぇ。
酒飲みにとって、酒を控えるという事は、基本的に飲んでも良いと思っている。酒飲みの脳内あるあるです。
「休肝日も入れずに、どこを控えていると。」
ため息交じりのママ。
酒飲み同士の会話で、
「休肝日を入れて、他の日は泥酔するまで飲むのと、毎日飲むけど飲む量を抑えるなら、どっちがいいか。」
そんな論争が、あったとかなかったとか。
「とにかく俺は、糖質制限系に変えた。ビールとワインは辞めたんだ。そして、ハイボール5杯までと決めている。」
糖尿病の本では、糖質が少ないお酒を、許容の範囲にしているからという事で、それをあたかも「健康食扱い」する。酒飲みあるあるです。
「いっそ、全部やめちゃえばいいじゃない?その方が楽かもしれないわよ。中途半端に飲むから、蛇の生殺しになるのよ。」
美月ママが、芯喰った事を言った。しかし、
「会社の付き合いだ。放っておいてくれ。」
と、開き直るパパ。
「その付き合いが接待だけなら、考えなくもないんだけどねぇ。」
それを言われると、言い返せない美月パパ。
この頃の美月パパは、同僚との傷の舐め合いが唯一の趣味だった。失われた30年間は、いつまで続くんでしょうかねぇ。
そんな大人の会話を聞きながら、陽太が入っている福耳はさっさと寝た。
「福耳のこの大人しさは異常だわ。体のどこかが悪いのかしら。何か心配になって来たわ。夜の運動会もせずに寝るとか・・・。」
陽太的には、サッカーの練習に明け暮れ、飛び出した猫を助けた。更には猫の身体に、自分の心が入っているのだ。
これを過労と言わずに、何を過労と言うのだ。寝るしかないだろう。
何も知らない美月は、熟睡する福耳を見て、久しぶりに温かい気持ちになった。
(仔猫時代以来の、静かな寝息に可愛いへそ天だわ。まだ初期の頃Youtubeなら、バズるだろうなぁ・・・。)
と、思い見惚れた。
伸び伸びとリラックスした福耳は、美月が伸ばした膝の上で、全身を反らせてへそ天になっていた。ピンクの鼻を上に向け、気持ち良さそうだ。
(福耳も夢を見るのかなぁ。どんな夢だろう?ちゅーるを死ぬほど、たらふく食べている夢かな?)
美月は心の中でそっと話し掛け、愛おしく見つめた。
福耳の中に入っている陽太の夢は、W杯の日本代表に選ばれて、優勝する夢だった。
人生色々、夢も色々・・・。