
陽太が猫になった理由(6)
6.陽太、謎の一言。
陽太の通うクラブチームの監督が、両親と陽太を、面談に呼び出した。
「最近、陽太君の腕が、めきめき伸びて来まして。うちのクラブのジュニアユースの、レギュラーに入れたいのですが。」
まずは結果から。しかもポジティブな提案から。定石ですね。
「但し、無条件ではありません。ご両親ならお分かりの通り、サッカーに必要なのは協調性です。」
それに対して、陽太ママはやや食い気味に言った。
「うちの陽太の取り柄は、真面目さと協調性です。それ以外は、本当にごく普通の男の子なんですよ。」
「サッカーのクラブチームに入れたのも、折れない心を作りたい。本当にただそれだけでした。」
覚醒した陽太は、陽太ママの知ってる陽太ではないからなぁ。
更に話を続けた。
「それに、スポーツ歴が長いというのは、就職面で有利に働きますし。」
続けて陽太パパも、
「あの子が練習熱心なのは、認めています。この話が本当なら、勿論応援してやりたいです。」
更に、”協調性”という言葉に、違和感を持った陽太パパの言い分。
「あと、陽太は何事に対しても、協力的な良い息子です。」
と、陽太を庇いつつも言葉を続けた。
「ここのクラブチームの、レギュラーになる才能が、本当に陽太にあるなら、何の異論もありません。」
「本人が、レギュラー入りを夢見て、熱心に練習している事だけは知っています。」
と、陽太パパは、知っている事実だけは伝えた。
その上で、監督の意向に任せる事にした。
「不安はありますが、無理矢理息子の夢を奪えば、私達は一生恨まれると思っています。」
子供がどんな職業に就きたいか。子供の意志を尊重する事は、子供がどんな生涯を辿るのかを決定してしまいます。
なので、ドリームキラー型の毒親は、「逝ってよし!」が作者の見解です。
まあ、そういう親に限って、「人生は修行だ。」という立派そうな事を言いますが、要するに「自分と同じくらい不幸になりなさい。」が、本音です。
いくら家族だからと言っても、親の自己憐憫人生に、付き合わされる子供の方は、たまったものではありません。
話を戻そう。両親の協力と理解を取り付けたところで監督は、
「それではこれから、補欠同士の紅白戦が行われた動画を見て頂きます。」
その動画を見た大人たち全員が、感動した。
全米のご機嫌なんて、どうでも良いほど感動した!
特に、陽太の両親は感動した!
「この急成長ぶりはひとえに、目黒さんご夫婦の教育の賜物です。」
監督はまずは陽太の両親の育て方を褒めた。
「しかし懸念点があります。彼のミラクルプレイは、ほぼスタンドプレイです。」
反論できない陽太の両親。その豹変ぶりには戸惑うばかりだ。
「なので、レギュラーとして、やって行けそうになければ、また補欠に戻すつもりですが、それでも良いですか?」
そういう、言いにくい事を、ここに来て言うのか・・・。
「私は監督として、多感な少年を相手に、非情な賭けに出ようとしています。」
まあ、令和の青少年には、過酷かもしれませんね。
「折角のレギュラーの座を、却下せざる得ない事になった場合には、無条件の愛が必要です。」
ここから畳みかけるように、
「どうか暖かく、迎えてあげてくれませんか?」
それに対して、陽太パパが答えた。
「大丈夫です。その時は是非、彼の夢を供養させて頂きます。」
「我が家のモットーは、”勝ったら祭り。負けても祀り。”です。」
と、いきなり思い付いたように、もっともらしい家訓を述べた。
「いずれにしても美味しい物を食べて、飲んで騒いで忘れます。」
陽太パパは更に話を続けた。
「陽太の覚醒は嬉しいですが、真面目な子供がある日突然、悪に目覚める事も知っているので。」
令和の子供特有の危うさには、どこのご家庭も懸念を抱いています。うん。大人は分かってる。
「強い立場を得た事がきっかけで、悪い方向性に豹変する可能性も、充分視野に入れて育てて来ました。」
陽太ママも話を続けた。
「親としては、ー実るほど頭が下がる稲穂かなーの教えで向き合っています。」
「それでもダメなら、一緒に悲しんで、一緒に乗り越えるつもりです。」
何だか、良い話になって来たなぁ。
監督は陽太に向けてこう言った。
「ご両親は、こう口添えしてくれているが、お前自身はどうしたいんだ?」
「ちゅーる食べたい。」
想像の斜め上を行く発言をする陽太に、
「こんな大切な話し合いでふざけないの!」
と、監督はついツッコミを入れた。
「ふざけてない。僕はちゅーるがあれば生きていけるの。」
監督は驚きと共に、
陽太の両親に疑念を抱いた。