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「試させてください」と誘われた話

    さくらまりか

    「試させてください」
    「今日ですか?」
    「はい。カラダの相性、大切にしたいので」
    「いえ、今日は帰ります」

    今日は動物づかいのアキラさんとのお顔合わせだった。
    ウチから10kmのところにあるスタバで待ち合わせた。
    彼は、白い欧州車のコンバーチブルで登場。
    思ったとおり、お好みど真ん中の細マッチョ。
    まりかの中の獣が反応する。
    危険な匂いがする。

    革ジャンの下が、ピタピタの黒Tなのは、絶対に狙っている。
    厚い胸板とがっちりした二の腕、ぎゅっと絞られた腰回りが強調されて、ああこの腕に抱かれてみたいな、と思わせる。
    ありきたりだけど、すごくセクシーだ。
    ああ、このまま彼の腰に手を回して、抱きしめられたい。
    少し硬くなったものを密かに感じながら。
    ああ、まりかはただの1匹のメスライオンである。

    仕事のこと、ワンコのこと、ネコのこと。
    小一時間、ありふれたことをテラス席でお話したところで、駐車場の彼のクルマに移動した。
    スポーツカー、座席が低い。
    お尻がすぽっとはまり、けっこう無様な姿を晒してしまった。

    「人がいるところだと、できない話もあるでしょ?」

    私はまあ、かまわないのだけど。

    と思ったら、彼から飛び出したのが、お試しの話だ。
    要は、カラダが合うかどうか、一度してみましょう、という提案。
    しかも、何ならこれからこのまましに行っちゃわない? というお誘い。

    この人、男性ホルモンをぶんぶん振りまいている。
    どうだ、俺に抱かれてみたいだろう? と言わんばかりに。
    そして、それが嫌味ではないから不思議だ。
    父の夕飯と、ワンコの散歩がなければ、きっとついて行ってしまっただろう。
    今日はヘアのお手入れが不十分だったのに。
    そんなのどうでもいい、と思わせる魅力が彼にはある。

    「いえ、今日は帰ります」

    「その、するのは嫌いではないんだよね?」
    「何がですか?」
    「その、エ ッチするのが」
    「そうですね。いままで淡白な人としかつき合って来なかったから、たいてい相手が自分だけ気持ちよくなって終わり、でしたけど」
    「舐めたりとか、大丈夫?」
    「大丈夫です。あまり上手ではないと思うけど。気持ちよくなってくれたら私もうれしいし」
    「みんなそう言うよね。でも俺、あれしろこれしろって絶対に言わないから。
    一生懸命、してくれているのがいいんだ」

    なかなかの理屈である。

    「もういい歳だし、しばらくはお友だちでっていうの、絶対に時間の無駄だから。
    つき合ってみないと、してみないとわからないじゃん」

    そうかな。

    「それに、自分だけイッちゃってっていう男の心理、わからないな。
    俺は、女性を何度もイカせて、本当に気持ちよくなってくれれば、自分はどうだっていいから」

    2文め、前半は本当だとしても、後半は絶対に嘘。

    「私ね、二番目の夫とは不妊がわかってからセックスレスだったんです。
    軽いトラウマ。女として魅力に欠けるのかな、って」
    「そんなことないですよ。何なら、まりかさんとこのままつき合いたいって思ってますよ」

    すごい勢いで口説くわね。

    「私ね、躁うつ病っていう精神病、持っているんです。精神科に通院中」

    さすがの彼も、少し口籠る。

    「それからぶっちゃけついでに、ほかにお会いしてみましょうという人がいるんです」

    これは、まりかが少し盛った。
    私は会いたいと思っているし、メッセージは盛り上がっているが、まだお相手から明確な意思表示はない。

    「それ、少しショックだな。
    俺、一度に複数の人とやりとりするのは苦手だから。たとえLINEだけでも」
    「ごめんなさい、でも私、二度離婚しているし、少し慎重になりたいんです」

    それでも不思議と、彼のクルマという密室から逃げ出したいとは、思わなかった。

    「こうしてお会いしてみて、別の方とお会いするかどうか、正直少し迷っています」

    おっ、まりか、しおらしく言ったな。
    本当は、別の人とも会って、比べてみたいと思っているくせに。

    「いまので少し、持ち直したよ。別の人とは会わない、と言ってくれるのを待っていますから」

    と、彼は右手を差し出した。

    「キスだけでも、してみますか?」

    と、まりか。

    「いや、次に会うときの楽しみにとっておくから」

    彼はちゃんと白いクルマから降りて、隣の隣に停めてあった私のクルマまで送ってくれた。
    これは合格。

    「じゃ、LINE待ってるから。次の約束、待っているから」
    「連絡しますね」


    さくらまりか、今回のマッチングアプリ生活最大の山場を迎えようとしている。


    *2023年4月19日の活動状況
    ・もらった足あと:3人
    ・もらったいいね:1人
    ・やりとりした人:3人
    ・お会いした人:1人
    商社のリョウさん、いつの間にかブロックされていた。
    いい人見つかったのかな。

     
     
     
    気がつけば54歳。2度の離婚と大人の失恋いくつか、子宮全摘を乗り越え、躁うつ病と共存中。両親と子どものいない伯父夫婦の介護の傍ら、マッチングアプリにお見合い、合コン、五十路の恋活に励んだものの、ただいまおひとりさま満喫中。福祉専門誌のライター、社会福祉士。

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