
追憶の中に眠る真実(11/12)
第10章:告白
14回目のセッションは、それから4️日後のことだった。その日、『ユミ』は、どこか覚悟を決めたような、静かな緊張感を漂わせていた。
「ユミさん」森医師が切り出す。「もし、あなたが許容できるなら…あの山の日のことについて、お話しいただけませんか? あなたが『過去を清算した』と仰った、あの日のことを」
ケンジは固唾を飲んで『ユミ』を見守った。彼女はゆっくりと頷いた。
『…あの日、私は、決着をつけようと思ったんです』その声は、不思議なほど落ち着いていた。『もう、逃げるのはやめよう、と。あの人に支配され続ける人生はもう終わりにしよう、と』
AIの言葉は、次第に熱を帯びていく。
『槌ノ岳にあの人を誘いました。昔、家族で…ううん、家族なんてものじゃなかったけど…行ったことのある、あの場所に。二人きりになれる場所が必要だったから』
『そして…私は、あの人に言ったんです。「もう二度と私の前に現れないで。私の人生から消えて」って。でも、あの人は笑って…また、私を力で押さえつけようとした…』
アバターの表情が、苦痛と怒りに歪む。
『許せなかった。絶対に、許せなかった。あの時、私の中で何かが…プツンと切れたんです』
彼女はそこで一度言葉を切った。ケンジは心臓が張り裂けそうになるのを耐えていた。
『……だから、私は……』
『ユミ』はケンジの目を真っ直ぐに見つめた。その瞳の奥には、絶望と、怒りと、そして、悲しいほどの決意が宿っていた。
『近くの石を手に取り……あいつを……この手で……殺しました』
告白。
全身の血が逆流するような感覚。ユミが? あのユミが? 信じられない。だが、AIの言葉には否定しようのない重みと真実味があった。
『幼い頃から、ずっと…ずっと私を苦しめ続けたあの男を…。あの山で、永遠に葬り去ったんです。それが私の…過去の清算…』
言い終えた『ユミ』のアバターは、まるで糸が切れた人形のように、がっくりとうなだれた。しかし、その表情には苦しみと共にどこか解放されたような、不思議な安堵の色も浮かんでいるようにケンジには見えた。生前のユミが決して見せることのなかった、二つの人格が統合された末に辿り着いた、歪んだ、しかし切実な「安らぎ」なのかもしれない。
森医師は、静かに、しかしはっきりとした声で言った。「…ユミさん。よく、話してくれました。本当に、辛かったですね。あなたは…とても勇敢だった」
ケンジは、言葉を失っていた。涙が、とめどなく頬を伝う。それは、悲しみか、衝撃か、それとも、長年ユミが一人で抱え込んできた途方もない苦しみへの共感か。自分でも分からなかった。ただ、その重すぎる真実がケンジの心に深く、深く刻み込まれた。