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Photo bychibiyuri5019

議事録の下書きを、関西弁で書いていた女 。

    数年前、半年だけの期間限定で事務をしたことがある。

    何年かに一度の重要会議のお手伝いであり、議事録の作成も含まれていた。

    以前、営業会議の議事録を2年ほど担当していたこともあり、「なんとかなるかな〜」と軽く思っていた。

    ところが、この企業の議事録は、後に一般公開される可能性があるものだった。

    そのため、誰が何を発言したのかを正確に記録しなければならない。

    そのための議事録だった。

    「水森さん、会議の発言内容を、パソコンにそのまま打ち込んでいってくださいね。」

    (えっ!なんですとっ?!)

    そんな瞬時に全部入力できませんけど?

    しかも当時は、今みたいにAIが手軽に文字起こしをしてくれる時代でもなかった。

    録音はするので、あとで聞き直せるのが救いだ。

    ひとまず、誰が何を話したかだけを簡単にメモすることにした。

    が!!!

    当たり前だけど、みんな喋るのが早い。
    その頃は、コロナの余波もあり、会議はマスク必須だからモゴモゴ聞こえる。
    白熱してくると、専門用語も相まって呪文のように聞こえる。

    これは…

    非常にまずい。

    初回は、ほぼ聞き取れず。

    入力はぐだぐだ。

    録音があって本当によかった。

    …と思った、その時。

    「水森さーん、ごめんなさい!最初の15分、録音ボタン押し忘れてた!」

    終わった。

    しかも、その最初の15分は、本部のやんごとなきお方のご挨拶ではないか!!

    そんなこんなで、第1回の会議は撃沈。

    でも、2回目の会議でふと思った。

    上司に提出するまで、誰も見ない。

    だったら、まずは自分だけが分かればいいのでは?

    …生まれも育ちも関西女の指が動いた。

    -----

    進行役 「今日は○と□決めるで」
    (本日は、○と□について候補を決めます。)

    課長 「これどう?図いいやん」
    (こちらはどうでしょうか。図解が非常に丁寧で分かりやすいです。)

    部長 「まじで?これ、16、見にくいやん」
    (そうでしょうか。16を見てください。文字が多く、少し分かりにくい印象です。)

    本部長 「もっと分かりやすいのないん?」
    (一見して、誰でも分かりやすいものはありませんか。)

    主任 「こっちの20、○○から見たらカラフルでええやろ」
    (こちらの20は、○○の視点から見ると、色使いも良く、言葉もシンプルで分かりやすいです。)

    一同「ほんまや」
    (そうですね。)

    進行係 「候補やな」
    (それでは候補に入れましょう。)

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    こんな感じで、とにかく関西弁。

    時には単語一つだけを入力しながら、話の流れだけを残していく。

    そして後で録音を聞き、資料と照らし合わせながら正式な議事録へと仕上げる。

    この方法が、意外とうまくいっていた。

    だが、ある日。上司が言ってきた。

    「水森さーん!昨日の議事録さ、まだ仕上がってないのは分かってるんだけど、下書きをちょっと見せてくれないかな?」

    (えっ?あれ…を?)

    「えっと……今の段階では、全く分からない文章なのですが……。」

    「あ!大丈夫、大丈夫!どんな流れだったか確認したくて。」

    (じゃあ録音聞いてくださいっ!)

    …とは言えず。

    「ほんとすみません……。ちょっと、関西風です。」

    自分でも何を言っているのか分からなかった。

    でも、それ以外に説明のしようがなかった。

    その上司は、表情を1ミリも変えることなく

    「……ありがとう、水森さん。」

    とだけ言って返却してきた。

    余計に気まずかった。
    せめて何かひとこと言うか
    “バカだなぁ“みたいな眼差しでもいいから欲しかった。

    あの日の下書きは、たぶん私以外、誰にも解読できなかったと思う。

    それでも私は、そのまま半年間を無事に走り切った。

    そして上司は、あれ以来、提出前に

    「ちょっと見せて」

    と言うことは、一度もなかった。

    今思えば、あれは上司なりの優しさだったのかもしれない。

     
     
    娘2人の母。思春期・反抗期・プレ更年期。 毎日いろいろありますが、あとから笑える話として綴っています。 暮らしと体を整える小さなセルフケアは、Substack「暮らしと香り」で発信中🌱 https://substack.com/@kurashitokaori

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