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若返りの魔法なんてない。若く見える人の共通点

    月に一度、遊びに行くライブハウスがある。そこでオーナーと店長に会うたび、なぜか毎回のように笑われる。

    「来るたびに若返っていますね。どんな魔法を使ってるんですか」

    ありがたい話である。だが、あなたもお察しの通り、若返りの魔法なんてない。もし本当にそんな魔法が使えるなら、わたしはとっくにそれをビジネスにしている。若返り講座、若返りのお茶、若返りオンラインサロン。ついでに高額継続コースまで作って、今ごろは魔法御殿を建てているはずだ。

    現実は、ライブハウスが暗いだけ。シミもしわもたるみも、闇に紛れてくれているだけの話である。照明というものは、還暦間近の女にとってかなり優秀な味方である。

    とはいえ、ひとつだけ思い当たることがある。それは、「楽しい」が、全身から滲み出ているのかもしれない、ということだ。

    楽しいものは楽しい。それだけで顔つきが変わる。口角が少し上がる。目の奥に、「まだまだ遊ぶんだ」と光が戻る。

    若い印象を作るのは、案外、顔全体ではない。鼻から下である。口元がへの字に下がり、顎の下がたるんでいると、実年齢より先に「疲れた人」に見える。実際、コロナの頃、毎日マスクをしていたおかげでパート仲間の明らかに若いママさんからずいぶんタメ口で話しかけられたものだ。

    そして、もうひとつ。姿勢である。音楽は、猫背で聴いていられない。音が鳴ると体が勝手に動く。自然と胸が開く。気づけば背筋が伸びている。姿勢がよくなるのは、若返りたいからではなく楽しくて仕方ないからだ。知っている曲ならうれしいし、知らない曲でもなんとなく楽しい。大人になると、楽しいことにも何か理由をつけたがるが、音楽の前ではその小細工が通用しない。

    女の年齢は、髪と後ろ姿に出る。これは、わたしが長年生きてきて、絶対的な確信を持って言えることである。特に肩甲骨のまわり。背中に余計なもの(肉)がついたまま内側に丸まっていると、急に生活感が出る。顔はメイクでどうにかなる。髪も美容院でどうにかなる。だが、後ろ姿だけは油断すると、すぐ年齢をばらす。

    さらに年齢を重ねると、股関節にも出る。足の付け根の締まりがなくなり、立っていても座っていても、なんとなく外へ流れていく。長年の歩き方、座り方、気の抜き方が、しっかり形になって現れる。これは脅しでも説教でもない。わたしの細かな観察記録である。

    かつてアパレルの店舗コーディネーターをしていたころ、ショップスタッフ(ファッションアドバイザー=FAさん)に立ち振る舞いの研修をしていた。「キャットウォークを意識しよう」と。

    モデルのように気取れ、という話ではない。一本の線の上を歩くように、足を少しクロスさせて進む。そうすると、股関節が外に開きっぱなしにならない。横幅もスマートに見える。背筋も自然と伸びる。ランウェイのモデルの歩き方には、ちゃんと理由がある。たったそれだけで、立ち姿は変わる。すると見た目年齢がグッと若くなるのだ。

    若返りのお茶を飲まなくても、エステに毎週通わなくても、美容整形でリフトアップしなくても、若さはそれで手に入る。要は、心遣いの問題なのだ。

    しかし。還暦世代の体は、そんなに甘くはない。

    長年のクセは、長年のクセとして出る。背中を丸めてガマンしてきた人は、背中にその記憶が出る。笑うことを後回しにしてきた人は、口元に遠慮が出る。自分の喜びを雑に扱ってきた人は、体のどこかに「どうせ私なんて」が残る。

    若返りに魔法はないが、ちょっとした心遣いならある。口角をほんの少し上げる。肩甲骨を開く。歩くときに一本の線を意識する。好きな音楽を聴く。行きたい場所に行く。会いたい人に会う。おもしろいと思ったら、遠慮せずに笑う。

    もちろん、シミやしわが消えるわけではない。そこは正直に申し上げておく。ただ、「そんなものがあっても気にしない」と思えるくらいに楽しんでいるかどうかが大事なのだ。

    人は自分が喜んでいるとき、少しだけ若く見える。肌年齢ではない。雰囲気である。全身から「まだまだ行けるよ」の感じが出る。

    若さにしがみつくより、楽しそうに生きている人のほうが、ずっと魅力的に見える。若い頃と同じ顔に戻る必要はない。戻ったところで、今さら何が変わるというのだ。せっかくここまで山あり谷あり、それなりに面白い人生を生きてきたのだから、今の顔で、今の体で、もう少し機嫌よく遊びたい。

    笑いが一番。楽しいが一番。

    あなたは自分が本当に喜ぶものをちゃんと知っているだろうか。

    おわり


     
     
    デザインしたり組版したり文章を書いたりZINEをつくったりするフリーランスクリエイター。推しは保江邦夫と伊与原新。宇宙と水と鉱物が好き。京都生まれ大阪市在住。Amazonアソシエイト参加中

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