
夢日記 一夢目
一夢目 〜杖の母〜(改訂版)
鳥の囀りが、ゆっくりと意識を引き上げる。
やわらかな日差しが頬に触れ、僕は静かに目を開けた。
遠くから声がする。
「早く起きなさい、アーノルド」
懐かしくて、どこか寂しい声だった。
そうだ——僕はこの世界で、「アーノルド」と呼ばれている。
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目を覚ますと、そこは古い西洋の屋敷だった。
重厚なカーテンの隙間から差し込む朝の光。
階段を下りると、焼きたてのパンの香りが鼻をかすめる。
いつも通りの朝。
何もおかしくないはずなのに、胸の奥に小さな違和感が残る。
リビングの扉を開けると、母さんがいた。
「おはよう、母さん」
そう言った瞬間、現実が歪む。
母さんの体は、首から下が存在していなかった。
細い杖のようなもので支えられ、首だけがそこにある。
それでも、美しかった。
白髪は静かに揺れ、穏やかな表情で僕を見つめている。
その姿を見た瞬間、胸が締めつけられた。
理由もなく、涙がこぼれる。
母さんは優しく微笑む。
「私たちは“まがいもの”だからね。学校では気をつけなさい」
その言葉は軽いのに、妙に重く響いた。
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学校は地獄だった。
生徒たちは異様なほど体格がよく、
僕を見るたびに、何かを見るような目で笑う。
体育の時間、更衣室へ向かおうとしたときだった。
「お前みたいな化け物の家族、消えろよ」
当たり前のように投げられる言葉。
僕は普通のはずなのに。
そう思っても、何も言い返せなかった。
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その日の体育は、校外を走る授業だった。
ただ走るだけのはずだった。
けれど、ふと視線を上げた瞬間、違和感が走る。
家の方向から、煙が上がっていた。
次の瞬間、炎が見えた。
嫌な予感が、全身を貫く。
気づけば、僕は全力で走っていた。
⸻
家は燃えていた。
炎が屋敷を包み、黒煙が空へと伸びていく。
「母さんと姉さんを助けなきゃ」
考えるより先に、体が動いた。
僕は炎の中へ飛び込む。
背後から叫び声が聞こえる。
「魔女は死ね!」
「消えろ!」
どうして、僕たちだけが——
その問いは、最後まで答えを持たなかった。
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炎の中で、母さんを見つけた。
僕はその顔を抱きしめる。
焼けるはずの熱の中で、不思議と温かさを感じた。
それは、守られているような、包まれているような感覚だった。
そして——意識が途切れた。
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どれくらい時間が経ったのかはわからない。
最初に感じたのは、風だった。
草が揺れる音。
土の匂い。
肌に触れる、自然の気配。
——生きている。
そう、確かに感じた。
けれど、どこかおかしい。
体の感覚がない。
重さも、温度も、鼓動も——何も感じない。
ただ、風と草だけが、やけに鮮明だった。
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違和感に気づいた瞬間、視界が歪む。
僕は、刺さっていた。
地面から突き出た細い何かに、
自分の“存在”が固定されている。
母さんと同じように——
首から下は、なかった。
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その瞬間、目が覚めた。
天井が見える。
自分の体もある。
呼吸も、鼓動も、すべて戻っている。
けれど——
あの草の匂いだけが、まだ残っていた。
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これは夢だ。
そう理解しているはずなのに、
あの感覚だけが、現実よりも確かだった。
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僕は、あの世界で——
確かに“生きていた”。