
結婚式で「化けましたね」と言われた花嫁
化ける。
これは、褒め言葉なのだろうか。
それとも、そうではないのだろうか。
調べてみると、
「化ける」にはポジティブな意味とネガティブな意味があるらしい。
ポジティブな意味では、大化け、急成長。予想をはるかに超えて、劇的に良い方向へ変化すること。
一方で、
ネガティブな意味では、欺く、誤魔化す、偽装する。狐や狸が人をだますという由来に近い意味もある。
つまり「化ける」は、褒め言葉にもなるし、毒を含んだ言葉にもなる。
なかなか繊細な言葉である。
たとえば、メイクや服装で普段とがらりと印象が変わった人に、
「化けたね」
と言うことがある。
本人に面と向かって言う場合は、たいてい、
「見違えるほどきれい」
「ものすごく素敵」
という意味の褒め言葉なのだろう。
ただし、陰で言われたら話は少し変わる。
「化けたねぇ」の語尾に、何か別の成分が混ざることもある。
このように「化ける」は、角度によって光り方が変わる言葉なのだ。
そんな「化ける」という言葉を、
結婚式の「祝辞」でいただいたのは、何を隠そう私である。
「今日は結万さんに、『化ける』という言葉を贈ります」
晴れやかにそう言ったのは、私の主賓として出席してくださった、当時の所属長だった。
祝辞の中で、所属長はこう続けた。
「『化ける』には、技が際立って進化するという意味があります。この一年の結万さんの成長ぶりは、本当にめざましいものがあり……」
たぶん、褒めてくださっていたのだと思う。
いや、間違いなく褒めてくださっていた。
所属長の中では、私の成長をたたえる、とても良い言葉だったのだろう。
しかし、祝辞を聞いていた当時の私は、なんとも微妙な心境でいた。
褒めてくれているのだろう。
それは分かる。
でも、なぜだろう。
あまり嬉しさが追いついてこない。
化けるって、なに…
技が進化するって、なに…
そもそも私は、職人だったのか?
声を張って意気揚々と祝辞を述べる所属長。
ニヤニヤしながら聞いている(ように見えた)参列者。
そして、微妙な表情の花嫁。
そこには、なんとも言えない空間が広がっていた。
しかも、所属長は祝辞の本題に入る前から、すでに言っていた。
マイクの前に立った開口一番。
「結万さん、化けましたね!」
会場は大ウケだった。
いや、分かる。分かるのだ。
普段ジャージ姿の私から見れば、文金高島田に白塗りの花嫁姿は、もはや別人である。確かにかなり化けている。それは認める。
開口一番だけならまだ事故として処理できる。
でも、祝辞の本題まで「化ける」だったということは、かなり前から、
よし。結婚式では“化ける”でいこう。と決めていた可能性がある。
花嫁入場前から、すでに上司の頭の中では、私は化ける予定だったのだ。
あれは「きれい」という意味だったのか。
それとも、バカ殿寄りだったのか。
何十年経った今となっても、判断に困るところではある。
ただ、会場はよく笑っていた。
笑顔の絶えない結婚式にはなった。
おめでたい席がなごやかだったのなら、
それはそれでよかったのだろう。
あのとき私は、褒められていた。
たぶん。いや、きっと。
かなり独特な方向から!
「化ける」という言葉は、今でも少し引っかかる。
でも、何年たっても忘れられない祝辞になったことは確かだ。
美しい言葉ではなかったかもしれない。
でも、記憶に残る言葉ではあった。
どうやら私は、人生の晴れ舞台でも笑いから逃れられないらしい。