
まっすぐに、いきなさい。エピローグ
郵便受けを覗くと、白い封筒が目に入った。
手に取り、送り主を見た。
美香からだった。
階段を駆け上がり、部屋の扉を忙しなく開けた。
封を切り、小さな写真に目を落とす。
凛としていた美香の面影は薄れ、少し目尻が垂れていた。
隣には、彼女より少し背の高い、眼鏡をかけた優しそうな目の男性が寄り添っている。
小さく歌を口ずさみながら、台所でやかんを火にかけた。
そして、その足取りで窓を開けた。
生あたたかい空気。
湿り気を帯びた風が、室内へと潜り込んだ。
突然、電話の音が鳴った。
早紀からだった。
受話器を耳に当てた。
「もしもし」
「もしもし!久しぶり!元気にしてた?結婚式、一緒に行こうよ」
変わらない彼女の声のトーン。
「駅前に新しい紅茶専門店ができたのよ。そこで会おうよ」
「由美は珈琲党だけど、今回は、我慢してね」
おどけた声にふたりで笑った。
紅茶が好きな早紀。
小さなカップにお湯を注ぎながら、あの日々のことを思い出していた。
そういえば、このカップはあの島への旅行で買った物だった。
あのサマードレスは、まだどこかに埋まっているだろう。
携帯を手に取り、ボタンを押した。
母は、一秒もしないうちに電話に出た。
「久しぶり」
声が少し上擦った。
そして、実家へ立ち寄ることを告げた。
「気をつけて、帰っていらっしゃい」
電話の向こうで、母の声がいつもよりほんの少し高く響いた気がした。
小さな部屋を隅々まで見渡す。
隅には、まだ開けていない段ボールが積まれていた。
急いで片付けなくていい気がした。
夜空を見上げた。
白く浮かぶ大きな月。
星はほとんど見えない。
けれど、この空は、あの空と繋がっている。
その時、耳元に音がかすかに聞こえた。
ーーシャリン。
窓をゆっくりと閉めた。
小さな椅子に腰かけ、ゆっくりと熱い珈琲を一口すすった。