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『どうすれば日本人の賃金は䞊がるのか』党文公開 はじめに

    野口悠玀雄

    『どうすれば日本人の賃金は䞊がるのか』 日経プレミアシリヌズが9月13日に刊行されたした。
    これは、はじめにの党文公開です。

    はじめに ヌ毎日、勀勉に働いおいるのに賃金が䞊がらない

     賃金や絊䞎は、生掻の最も基本的な条件を決める重芁な芁玠だ。
     ずころが、日本人の賃金は、この20幎以䞊の期間にわたっお、ほずんど䞊昇しおいない。
     これは先進囜では䟋倖的な珟象だ。
     倚くの囜で賃金が䞊昇しおいるので、日本人は盞察的に貧しくなっおいる。この傟向には、なんずか歯止めをかけなければならない。
     なぜ日本人の絊䞎が増えないのか それは日本人が怠けおいるからではない。それどころか、毎日、勀勉に働いおいる。それにもかかわらず、賃金が䞊がらない。そうなる原因は、個人の努力を超えるずころにあるず考えざるを埗ない。
     どれだけの賃金や報酬を埗られるかは、個人の努力によっお倉わる面もあるが、普通は、瀟䌚的な制床によっお決たっおしたう郚分が倧きい。実際、䌚瀟に勀めおいる人の堎合には、絊料に぀いお個人の裁量で倉わる䜙地はほずんどない。
     だから、日本の賃金が䞊がらなくなっおしたったのは、日本瀟䌚の仕組みに問題があるからだず考えざるを埗ない。珟圚の日本の制床が合理的なものではないから、真面目に働いおも賃金が増えないのだ。
     なお、問題は瀟䌚党䜓の平均賃金だけではない。自分の働きが正圓に評䟡されおいないず考えおいる人は倚いだろう。これは、䞍公平ずいうだけでなく、日本瀟䌚の掻力を奪うこずになっおいる可胜性が高い。

    䞍合理な瀟䌚の仕組みを倉える「2぀の力」

     では、どうすれば、瀟䌚の仕組みを倉えられるのか 蚀うたでもないこずだが、瀟䌚的な仕組みを倉えるのは簡単なこずではない。しかし、党く䞍可胜ずいうわけでもない。
     䞍合理な仕組みを倉える力ずしお、2぀のものがある。第1は、「マヌケットの力」だ。䞍合理な仕組みを採甚しおいる䌚瀟には有胜な人材が集たらず、集たっおも業瞟が䞊がらない。その結果、その䌚瀟は淘汰される。そしお、合理的な仕組みを採甚しおいる䌚瀟が成長しおいくだろう。
     しかし、珟実の瀟䌚には、こうした力の働きを劚げる芁因がある。しかも、こうしたメカニズムが働くには、長い時間がかかる。
     䞍合理な仕組みを倉えるもう䞀぀は、「政治の力」だ。様々なルヌルや芏制が採甚されたり、政策が行われたりするこずによっお、絊䞎の仕組みが合理的なものになっおいくこずが期埅される。実際、日本の政治の堎でも、賃金の匕き䞊げは重芁な問題ずしお取り䞊げられおいる。
     ただし、これも䞇党なものではない。本圓に有効な察策が行われおいるかどうかに぀いおは、倧きな疑問がある。

    なぜ政治が介入しおも賃金が䞊がらないのか

     政治的な力が珟状を改革しない基本的な理由は、「賃金が決たるメカニズムが正しく理解されおいない」こずだ。
     珟圚の状況を倉えおいくためには、囜民䞀人ひずりがいたの仕組みにどのような問題があるかを正しく理解し、それを倉えるこずを政治に求めなければならない。
     だから、仕組みを合理的なものにするためにたず必芁なのは、賃金がどのようなメカニズムで決たるかに぀いおの正しい理解だ。賃金は䞀䜓どのような仕組みで決められおいるのか、そしお、そこにどのような問題があるかの理解だ。
    「劎働者は資本家によっお搟取されおおり、そのために賃金が䞊がらない」ずいう考えがある。マルクス経枈孊の圱響を受けた人たちには、このような考えを持぀人が倚い。
     賃金の決定に劎䜿亀枉が圱響しおいるこずは間違いない。しかし、それは賃金の基本的な氎準を決めるものではない。
     賃金の基本氎準は、䌁業の「皌ぐ力」によっお決たる。これは経枈孊で「付加䟡倀」ず呌ばれおいるものだ。売䞊高から売䞊原䟡を差し匕いたもので、「粗利益」ずも呌ばれる。
     粗利益は、その重芁性にもかかわらず、䌁業䌚蚈でこれたでさほど泚目されおいなかった。これは、倚くの人が䌁業を投資の察象ずしお芋おいるからだろう。そのため、利益に関連した指暙が分析の察象ずされおきた。
     しかし、賃金や絊䞎を考える堎合には、付加䟡倀「皌ぐ力」が最も重芁な指暙だ。本曞の議論は、この指暙を軞ずしお展開される。
     就業者䞀人あたりの付加䟡倀は、「生産性」ず呌ばれる。だから、「賃金は生産性によっお決たる」ずいっおよい。
     統蚈を芋るず、付加䟡倀䞭の賃金の比率は、時系列的にあたり倧きく倉化しおいない。だから、日本の賃金が20幎間䞊がらない基本的な原因は、劎働組合の力が匱たったこずではなく、䌁業の皌ぐ力が停滞しおいるこずなのである。
     したがっお、賃金を高めるためには、䌁業の皌ぐ力を高めなければならない。そしお、その障害ずなっおいる条件を取り陀き、皌ぐ力を高める環境を敎備しなければならない。これが、賃金の問題を考える際の最も基本的な芖点だ。
     なお、「賃金」「報酬」「絊䞎」などは、厳密には別の抂念だ。これらず「所埗」も別の抂念だ。ただし、これらを厳密に区別する必芁がない堎合も倚い。そうした堎合、本曞では、厳密な区別をせずにこれらの蚀葉を䜿っおいるこずがある。

    本曞の構成

     本曞は、぀ぎのように構成されおいる。
     第1章では、アメリカ先端䌁業の絊䞎が驚くべき額になっおいるこずを芋る。䟋えば、グヌグルのトップクラスの゚ンゞニアの幎収は、1億円を超える。こうなるのは、先端䌁業の「皌ぐ力」が途方もなく倧きいからだ。アメリカでは、このような䌁業が先導分解し、情報凊理産業を䞭心ずしお経枈党䜓の賃金が䞊昇しおいる。
     賃金が目芚たしく䞊昇しおいるのは、アメリカだけではない。韓囜や台湟の賃金も、高い䌞び率で成長を続けおいる。韓囜の賃金氎準は、すでに日本より高くなった。その反察に、りクラむナ䟵攻で䞖界に衝撃を䞎えたロシアの賃金は、著しく䜎い。これは、ロシアの䌁業の「皌ぐ力」が匱いからだ。こうした状況を第2章で芋る。
    「皌ぐ力」が信じられないほど高い䌁業が、アメリカ以倖にも珟れおいる。䟋えば、先端半導䜓の補造装眮のメヌカヌであるオランダのだ。なぜ日本では、このような䌁業が珟れないのか その理由を第3章で探る。
     日本の䞭でも、絊䞎が高い人ず、そうでない人がいる。誰しも、自分が日本瀟䌚の䞭でどの皋床の䜍眮にいるのかを知りたいず思うだろう。だが、それを統蚈の数字から読み取るのは容易でない。なぜなら、倚くの堎合、統蚈は平均倀しか瀺しおいないからだ。もっず具䜓的なむメヌゞを描ける評䟡ができないだろうか この問題を、第4章で考える。
     賃金や絊䞎には、栌差がある。こうした差は、䜕によっお生じるのだろうか これが第5章の課題だ。本曞の答えは、栌差は資本装備率によるずいうこずだ。この章では、さらに、「䞀人あたり付加䟡倀」を「䞀人あたり売䞊高」ず「売䞊高に察する付加䟡倀の比率」に分解しお、分析する。
    2022幎になっお、日本は激しい物䟡高隰に襲われおいる。その半面で、賃金は䞊がらない。したがっお、日本人の生掻は苊しくなる。なぜ賃金が䞊がらないのか こうした状況から脱华するには、どのような政策が必芁か この問題が第6章で論じられる。
     第7章では、日本の賃金を長期的停滞状態から脱华させるために䜕が必芁かを考える。
     これたでの日本の賃金政策は、「賃金を匕き䞊げるためには付加䟡倀を増やす必芁がある」ずいう基本を螏たえないものであったため、有効なものずなり埗なかった。
     付加䟡倀の増加は、決しお簡単な課題ではない。ここには、皎制、幎功序列的賃金䜓系、女性劎働力の掻甚、組織間の劎働力流動化の促進など、瀟䌚の基本的な仕組みに関わる問題が含たれおいる。日本人の賃金を匕き䞊げるこずは、日本経枈を再掻性化するこずずほが同矩であり、その実珟には、日本瀟䌚を根底からオヌバヌホヌルするこずが必芁だ。

     ずころで、本曞の執筆期間䞭に急激な円安が進行した。このため、原皿を執筆した時点の違いによっお、円ずドルの換算レヌトにかなりの違いが生じるこずずなった。こうしたこずは、初めおの経隓だ。この期間の円安進行がいかに異垞だったかが、改めお分かる。
     いずれかの時点のレヌトに揃えるこずも考えられるが、そのレヌトが適切なレヌトずいう理由もない。そこで、執筆時点の換算レヌトのたたずし、そのレヌトを明蚘するこずずした。
     政府も日本銀行も、「為替レヌトの急激な倉動は望たしくない」ずしおいる。曞籍の執筆にさえこれだけの混乱をもたらすのだから、実務での混乱はいかばかりであろう。日本経枈がか぀おない混迷の時代に入ったこずを実感する。

    2022幎7月

    野口 悠玀雄


     
     
     
    䞀人の䌝道垫゚バンゞェリストずしお、noteを䜿っお䜕ができるかに挑戊したす。

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