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まだ足りないに囚われた人向け:完璧なお菓子の女王だった者,チョコレート災害で全部壊れたので,自己肯定感ごと国を再建~甘すぎる監獄から脱出した不完全な幸福論~🍫💓異世界ファンタジー小説 自由発想㊻


    イチゴミルク色の空から、
    どろりと熱いチョコレートの雨が降る。

    バニラとストロベリーの香気が
    肺を焦がすほどに立ち込めるその国で、
    私はマカロンタワーの玉座に座り、
    自らのフリルを凝視していた。

    ​「左の袖口、レースのギャザーが0.5ミリ歪んでいるわ。……やり直し」

    ​ハサミを入れ、
    完璧に仕上がっていた甘々ピンクのドレスを躊躇なく切り裂く。

    私の瞳はきらきらと輝く
    ストロベリー・シュガー・クリスタル。

    けれどその奥にある視線は、
    自分を24時間監視し続ける冷徹な刃だ。

    誰よりも美しく、誰よりも稼ぎ、
    このピンクの国を支配しているというのに、
    胸の奥のまだ価値が足りないという強迫観念が、私の神経を四六時中やすりですり鉢にかけていた。

    ​トントン、とマカロンの城門を叩く音が響く。

    私は瞬時に顔を上げ、
    完璧なお人形の笑顔を貼り付けた。

    同時に、ドレスの陰で、薔薇の棘でできた護衛の槍に「いつでも突き刺せ」と無言の合図を送る。

    現れたのは、お菓子の妖精を自称する、
    この国の住人だった。

    ​「新しいレシピの相談が……」

    「その必要はないわ。私の計算した糖度と比率、論理的整合性に勝るものはないもの」

    ​私は冷たく笑い、
    彼らに最高級のアイシングクッキーを突き出した。

    これまでの住人たちは、
    このクッキーの完璧な美しさと、
    私の放つ威圧感に気圧され、
    一口も食べずに逃げ出していった。

    誰も私の城壁の内側には入れない。
    誰も信用しない。
    傷つくくらいなら、
    完璧な孤独の城に引きこもっていた方がずっと安全だから。

    ​妖精たちが怯えて去った後、
    静寂の中でクッキーを一口、自ら噛み砕いた。

    ……ひどく、塩辛かった。

    ​涙の味がした。
    完璧な比率、完璧な見た目。

    だけど私のレシピには余裕がない。遊びがない。食べる者の息が詰まる。私自身の息が、詰まっている時の味だ。

    その夜、イチゴミルクの空がどす黒く濁り、
    私の完璧なはずのシステムに致命的なバグが起きた。

    チョコレートの川が決壊し、
    街のマカロンやケーキが泥泥のシロップに呑まれていく。

    ​「どうして……私は完璧に計算したはずなのに!」

    ​お気に入りのピンクのフリルドレスを泥まみれにしながら、
    私は必死に堤防を築こうとした。

    けれど、抱えたクッキーの土台はもろく崩れ、
    私の手から滑り落ちていく。

    ​その時、雨に打たれる泥だらけのガラス窓に、
    自分の姿が映った。

    そこにいたのは、
    気高く完璧なお姫様ではなかった。

    髪は乱れ、泥とシロップにまみれ、恐怖に瞳を揺らしている、ひどく不器用で、間違いだらけの、ちっぽけな私だった。

    ​「私、完璧なんかじゃ、ないじゃない……」

    ​息を呑んだ。

    私が一生をかけて築いてきたピンクの城壁は、
    他人からの攻撃を防ぐためではなく、
    私自身の無能さと愛されたいという渇望を隠すための檻だったのだ。

    だけど、この泥まみれの自分の手を凝視したとき、五感が、脳内が、熱い衝撃で満たされた。

    ​バニラの甘い香り。泥交じりのチョコレートの重み。雨の冷たさ。

    完璧な計算を捨てた瞬間、
    私の五感は、初めて生きているこの世界の生々しさをダイレクトに受信したのだ。

    間違えてもいい。壊れてもいい。この不完全な私自身が、私の人生を新しく切り拓いていくリーダーなのだと、魂が震えた。

    ​じゅわ、と、私を縛っていた冷徹な自己監視の壁が、内側からの熱で溶けていく。

    ​「……さあ、やり直すわよ」

    ​私は泥に汚れたドレスの裾を大胆に引きちぎり、笑った。

    自分の手でスコップを握り、
    エラーを起こしたシステムを物理的に叩き壊し、ゼロから新しいピンクの土台を築き上げていく。

    誰の力も借りない。
    だけどもう、孤独への恐怖はなかった。

    ​嵐が去った翌朝、空はこれまでで一番甘い、
    濃密なショッキングピンクに染まっていた。

    私は、少しだけ破れたドレスを着て、
    新しく生まれ変わったお菓子の街を見下ろした。

    ​完璧な統治者としての私は、もういない。

    けれど、胸焼けするほど甘いお砂糖の香りに包まれながら、私は生まれて初めて、自分の不完全さを心から愛せるような、底なしの幸福に満たされていた。


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