
『60秒で裏切る物語case01』〜缶情自動販売機〜
缶情自動販売機
駅前の片隅に、いつの間にか見慣れない自販機が置かれていた。
一際目立つ、たった4本だけの自動販売機。
「缶情、売ってます」
お試し30分200円。
そう書かれたボタンには、“勇気”“自信”“愛情””笑い”と並んでいる。
なんだか面白そうだなと
百円玉を2枚入れ、僕は“勇気”を押した。
ところでお試し30分?ってなんだろう。
缶を開けるとどこかで嗅いだことがあるエナジードリンクの香り。
一口飲むと喉の奥が熱くなる。
気づくとその足で、ずっと好きだった彼女のもとへ向かった。
言葉は驚くほどスムーズに出た。
「好きです。付き合ってください」
彼女は少し驚いたあと、微笑んでうなずいた。
アルコールでも入っていたのか?
これはでも、現実。
世界が明るく見える。これが勇気か、と思った。
――30分後。
ふっと、熱が冷めた。
言葉が喉に引っかかる。
「……あれ、なんで俺、告白なんてしたんだろう」
口からこぼれた本音に、自分でも驚く。
彼女の表情が固まる。
そのとき、彼女が小さくつぶやいた。
「……ちょうど、切れたんだね」
え、と顔を上げると、彼女は少し寂しそうに笑った。
「私も、“愛情”買ってたの。30分だけの」
夕方の風が吹く。
駅前の自販機だけが、変わらず静かに光っていた。
急いで戻りってもうもう一本買おうとすると
そこには1年20万円の文字。
あとがき
「60秒で裏切る物語」は、
たった1分で読めるのに、
最後に少しだけ予想を裏切るショート小説です。
短い時間で、ちょっとだけ世界の見え方が変わる物語を目指しています。
スキマ時間に、ひとつどうぞ。
毎週2本のショート小説を執筆。
水曜と土曜はショート小説の日。
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