
雨と僕。
突然の雨に降られ、近くの東屋に駆け込む。
ペトリコールが体を包む。
「いやあ、降ってきたな。」
パラパラ、パラパラ。
取り出したハンカチで、濡れた髪や服を拭きながら呟く。
生憎、傘を持ち合わせていない僕は、しばらくここにお世話になることに決める。
「まいったな。雨は苦手だな。」
東屋のベンチに腰掛け風景を眺める。
そこには春が過ぎ、誰にも目を向けられなくなった桜の木と、緑の葉が生い茂る、これまた秋まで誰にも目を向けられない楓の木があった。
輝く瞬間だけ目を向けられるのはどんな気持ちなのだろう。
「飽きられる前に散る桜は聡明」だって誰かが言ってた。
同じく楓も飽きられる前に散る同じ類のものだろう。
確かにそうなのかもしれない。
でも、本当にそうなのかな。とも思う。
永遠なんてないから、永遠ほど退屈なものはないから。
声が出なくなる前に引退する歌手。体が動かなくなる前に引退するスポーツ選手。死に目を見せずにどこかに行ってしまう猫。素敵な姿でさよならを告げる。
少し飛躍すると、「自死を選ぶ人」も格好いいという対象になってしまう危険も孕んでしまう気がして、全てに頷けない曖昧な自分がいる。
一体何を考えているんだろうって思いながら、景色を見つめる。
ザーザー、ザーザー。
いつか自分の心と雨とが重なり、気持ちが安らいだ時のことを思い出した。
今は全くそんなこと思いもしないのに。
やっぱり、この世界は自分の内側に形成されているのだと知る。
どんなに広い世界も、宇宙も。はたまた元カノが結婚したとか、友人がいくら稼いでるとか、そんな小さな世界も。
全部。うん、全部。自分がどう感じるかで見え方は変わるんだって。
“嫉妬”って醜い感情じゃなくて、自分にもできることに対して反応する感情なんだと思う。
もっとポジティブに、「あいつにできるなら自分にもできるんだ」って思い込んでしまえばいい。
あ、また何を考えているんだろう。
ポツポツ、ポツポツ。
「なかなか止まないなあ。」
誰にも目を向けられない木々に目を預ける。
降る雨に揺られて、楓の葉が僕に手を振っていた。
その奥の桜はカサカサと音をたて笑っていた。
それに共鳴して、どこからかお散歩に来たカエルがゲコゲコと共鳴する。
心が安らぐ。落ち着く。雨に身を預ける。
「まいったな。雨も悪くないかも。」
雨ってみんなに嫌われてる気がする。みんなっていうと主語が大きいかもしれないけど、自分の体感の中でのみんな。
「遊びに行く予定だったのに」とか、
「お気に入りの靴が濡れちゃう」とか、
「セットした髪や上手くいったメイクが落ちる」みたいな。
生活に支障が出るイメージ。すごく分かる。
それでもこの時は、雨の音、葉が揺れる音、カエルのささやき、香りやそこに吹く風に心奪われた。
誰かと手を取り合い、雨に打たれながら一緒にダンスがしたいくらいには舞い上がっていたと思う。
しとしと、しとしと。
なんだか、さっきより雨が優しくなってきた。
僕の心の移ろいみたいで笑える。
この東屋ともそろそろお別れみたいだ。
雨は少しだけ、足だけじゃなくて思考まで立ち止まらせてくれた。