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Photo bykakipidrive

髪の毛

    私の髪は長かった。
    伸ばそうと決めたあの数年前の秋口から。

    よりによって伸ばそうと決めて、まずは前髪を伸ばし始めて、センター分けにした日に写真を撮らなければいけなくなっていた。
    いつも何かを始める時は、何かが立ち塞がるような感じがするのだ。まるで試しているような。でもそれは、ぱっつん前髪でショートカットの時だったら「普通の日」として消化させれるような気もする。ダイエットの時もそうだ。ダイエットを決めた時に限ってカロリーの塊のような好きなものが夜ご飯として出た。

    私の髪の毛は伸びていった。気がついたら鎖骨あたりまで伸びて、余裕でくくれるようになった。
    それでも毛先の方だけ、はねてしまうから、もういっそのこと切って元通りにしてしまおうかとすら思うのだ。
    私は首が短い。芸能人とはまるで違うから、少し毛が伸びただけで肩に髪の毛がつくようになったし、毛先がはねる。
    中途半端な髪型だと身だしなみに気を遣っていないように見えてしまう。厄介なものだと思う。

    私の髪の毛は気がつくと腰の上あたりまで伸びていた。少しでも切って仕舞えば、これまでの時間も削れる感覚があったりした。
    3センチくらいだけ切ったのは、それから少し先のことだった。長すぎるだとか、切ってもいいと思う、と、半分笑いを含んだ言い方で美容師に言われていたと知ってからだった。
    客観的に見られたら、私はどれくらいまで髪の毛を切れていたのだろうか。とりあえず、7センチくらい切っていた。
    本当は黒染めするつもりだったのに、決意が固まらなくって、本当にいいのか、戻れないぞ、と言われてしまえば暗めの色味で。と、それだけ伝えた自分が情けなくて。
    少しぬるい空気を纏う今の時期に、お気に入りのバンドのお気に入りの慰めてくれる歌を聴きながら少し泣いて帰った。いつもそうだった。

    結局、何を提案しても違う、だめ、こういう最悪な未来があるからやめておけ。そう言われるのだ。
    それならともう諦めて2割くらいだけ決めながら進んで行った。大人と言われる年齢をとっくに過ぎて、みんな自分で自分の道を決めていくのが目に見えた。なんでだろうか、と気がついた時にはもう遅い年齢なのかと、恐怖で震え上がった。

    デビューしていくアイドルの年齢がどんどん、どんどん私よりも下になっていく。
    みんな新しい場所を見つけて、笑っている。私はどうなのだろうか、と思う。
    教えてもらった小説の主人公が自分よりいくつか年上で安心した。

    私の髪の毛は伸びていた。
    東京で働く私は、黄緑の電車が満員になると、髪の毛が知らない人に挟まれてもっていかれるようなことが増えた。自分の手の届く範囲なはずなのに、他人に引っ張られて持っていかれてしまう。私の意志とは相反して。
    小さい時からそうやって、他人に引っ張られていたから、それが正解だと思っていた。
    「意志がない」と陰口を言われていたと、友人から伝えられた。あの時から10回以上春を迎えるのに、あの時と根っこが変わらない自分がとてもみすぼらしいと思った。

    誰も知らないことばを知っていた時、漢字をかけた時、ちょっとした失敗が生かされた図工の時間だったり、言うのをためらっていたら解決されたり。なんか全部、自分なのだと思う。

    髪を伸ばそうと決めた秋口から何度目かの年越しをした。
    あの頃求めていた長さにはもうとっくに到達しているというのに、結局うまく髪の毛を扱えなくて、ダメージばかりで広がる髪の毛が許せなかったりする。そしてまた、黄緑の電車で人と人の隙間に髪の毛を挟まれる。

    それでも、まだ伸ばしていたいと思う。いつか、私でも髪の毛をうまく扱える時が来ると信じて。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

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