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【日蚘34】皆既日食の黒い線ず、茹蛞二十八号1999幎5月五

五月二十四日月

今日は䌑み。

午埌二時半ごろたで寝おいた。䜕床か目が芚めたのだが、起きる気がしなくお目を぀ぶっおいるずたた眠っおしたった。

やっず起きあがっお、颚呂に入っおから、新聞を買いにセブンむレブンたで出かけた。読売ず日経を買っお、おぎやラヌメンでおぎやセットを食べおからマンションに戻った。

読売を読んでいたら、こういう文章に出䌚った。

父は今幎八十四で死んだが、東京の芪類蚪問をべ぀にすれば、それが父ずの生涯ただ䞀床の旅行であった。【海老沢泰久・名文句を読むより】

八十四で死んだ―この文を読んだずき、突然思い出したのだ。

今日芋た倢。

父は九十四歳。母は九十歳。ただ元気に生きおいる。しかしこの幎、私は死んだ。するず私はいく぀で死ぬこずになるのか。私は自分の死ぬ幎霢を知りたくお、倢の䞭で必死に蚈算しおいたのだ。非垞に難しい蚈算でいらいらした歯がゆさが長い時間、続いおいたようだ。結局、回答は埗られなかった。

今なら蚈算できる。倢が正倢であるなら、二十幎埌の六十五歳で私はこの䞖を去るこずになる。倢の映像は残っおいない。倢の䞭でこの事実が提瀺されおいただけである。西暊二千幎は来幎来る。このくらい確かなこずであった。悲しみが胞を締め付けおいたのだ。

葛岡の街を歩いおいた。盞矜町の県道を歩いおいる。孊校の垰りだろうか。䞀人の友達ず䞀緒に歩いおいた。だれだかわからない。现い路地を曲がった。牛山君の家の裏にでた。裏口から牛山君を呌んだ。出おこない。ふず芋るず、暪に階段らしい入り口があった。䞭に入っお階段を䞊った。幅の狭い階段。登りきるず廊䞋があった。巊手にドアが぀いおいた。䞭に入るず、広いお店であった。䞭華料理店である。本栌的なものだ。暪浜の高玚䞭華料理店䞊のお店である。客は䜕人もいなかったが、開業したばかりであるらしく、仕方ない。調理堎の奥の方に人圱が芋えたが、牛山君本人のようだ。私は圌のほうぞ近づいおいった。ずころで私は圌に䜕か甚事でもあるのであろうか。倧事なこずを蚀い忘れおいおそれを知らせに来たのであろうか。広い広い真新しい䞭華料理店で私は圌になにをしようずしおいるのか。

東京の目癜通りにいた。トラックの助手垭にいる。運転垭にはクロネコダマトの運転手。雚が降っおいた。私ず運転手は別の運送䌚瀟を探しおいた。特別な運送䌚瀟が私を安寧の地ぞ぀れおいっおくれるこずになっおいる。段ボヌル䞀個を私は膝に抱えおいる。孊生時代の䞋宿先の近くに確かあった。そのこずを思い出しお運転手に教えおやったら、道が现いし遠くだし、行きたくないらしい。それで私は雚の䞭に飛び出しおいった。トラックを眮き去りにしお運送屋を探しはじめたのだ。目癜通りをずんずん歩いおいった。道沿いにあった。広いがらんずした空き地があった。トラックは止たっおいない。みんな出払っおいる。事務所に行った。朚造の叀びた掘っ建お小屋。眠そうな老人が出おきた。頌むず承知しおくれた。私は走っおクロネコダマトのトラックが停めおあるずころぞ匕き返した。ずころがトラックはなかった。私の倧切な段ボヌル箱ずずもに消えおいた。その䞭に党財産はもちろんのこず私の過去のすべおが詰たっおいるのだ。私は䞀人、過去も党財産も倱っお郜䌚の目癜通りでこの先どうしたらよいのかず途方に暮れおいる。

今日も終日、柿朚将棋で時間を぀ぶしおしたう。倫らしき人圱が、頑健な珟実の壁を構築しおしたい、小川さんを巡る倢想がむなしく萎えお 、行く手を阻たれる。

五月二十五日火

垰り、倜八時十分、巡回。

郚屋は明るかった。

小川さんの家を通り過ぎた。突き圓たりの角の䞀棟はたったく同じ䜜りになっおいる。䞭倮の郚屋が出っ匵っおいお、い぀もは簟のようなものが窓を被っおいるのだが、今日は違った。鍋やサラダボりルや玉杓子、そのほか现々ずした台所甚品が棚に䞊べられたり吊られたりしおいるのが、圱ずなっお映し出されおいた。台所の䜍眮はあそこで間違いないず、再床確認した。

マンションに戻っおからは倜䞭の䞉時たで柿朚将棋。

五月二十六日氎

垰り、倜䞃時半、巡回。

郚屋は明るかった。

柿朚将棋で深倜二時たで時間を぀ぶす。

小川さんは遠ざかる。

五月二十䞃日朚

垰り、倜䞃時半、巡回。

郚屋は明るかった。

柿朚将棋で深倜二時たで時間を぀ぶす。

小川さんは益々、遠ざかる。

「手玙」にかかずらうのが億劫になったから、柿朚将棋をするのだ。異垞なくらいに連続しおやっおいる。しかも盞手は六枚萜ちである。深読みしなくおも必ず勝぀。考えない。なにも考えないでただ時間が過ぎるのをやり過ごす。

五月二十八日金 

巡回せず。今日も柿朚将棋。

もう忘れおしたいそうだ。人はこうしお楜になる。

五月二十九日土  

今日は䌑み。

昚晩、寝る間際に日経を読んだ。

ネットで続々、公開䞭――なにを公開しおいるかずいうず、なんず、日蚘、である。

以䞋、生掻家庭欄の蚘事より、匕甚。

─むンタヌネット䞊で「日蚘」を公開する人が増えおいる。曞き手は䌚瀟員や䞻婊など。ごく普通の人たち。内容も生掻雑蚘からお受隓日蚘たで様々だ。互いの日蚘の感想をメヌルでやりずりする。䞀皮の〝日蚘コミュニティヌ〟たで圢成されおいる。芪にさえ芋せたくない「秘め事」だった日蚘が「公開型」に倉わった背景を探っおみた。

たず、ネットに日蚘を発衚しおいる原麻さん、近藀さん、の取材。

こうした「ネット日蚘」が集たっおいるのが「日蚘猿人」ずいうホヌムペヌゞ。日蚘のタむトルがずらりず䞊び、さしずめ日蚘専甚の本棚ずいったずころだ。

登録者の数は䞉千六癟人以䞊。

日蚘読み日蚘たで登堎。

ネット日蚘勃興の背景が探っおあっお、最埌に、埌䞖に残る名䜜が生たれるかもしれない、で、蚘事を締めおいる。

読み終えお、電気を消しお垃団の䞭で考えた。

私もやる。しかし、氏名を出すわけにはいかない。ペンネヌムは「茹蛞二十八号」にしよう。小川さんが小孊生の時、私に付けたあだ名だ。

題名は「恋狂い・ストヌカヌ日蚘」か、「倢う぀぀・ストヌカヌ日蚘」か、「倉態ストヌカヌ日蚘」か、「狂恋ストヌカヌ日蚘」か、「ストヌカヌ狂恋日蚘」か、「倉態ストヌカヌ狂恋日蚘」か、「四十五歳童貞ストヌカヌ狂恋幻想倢う぀぀日蚘」か、どれがいいかな。          

小川さんの氏名は○○。

私の氏名は●●。

ほかの登堎人物の氏名は、男が▲▲、女が△△。

地名は××。

瀟名店名等は□□。

このように蚘号化しおしたえば公開も可胜である。

やはり他人に読んでもらいたい。

䌝えたい。

哀れな䞭幎男の存圚を知っおもらいたい。

倢ず幻想ず、蚘憶ず日垞、を知っおもらいたい。

今日も○○さんの家は巡回せず。 

五月䞉十日日

日蚘の題名は、「恋狂いストヌカヌ倢幻日録」ず、ずりあえず名付けた。

さらに蚈画が膚らんだ。

「新朮」「文孊界」「すばる」「文芞」「矀像」等、文芞雑誌に「手玙」の断片を投皿する。没になったものをむンタヌネットで売文する。私は真実の恋を売り物ずする卑劣な売文家あるいは女衒ずなる。これで皌いで䜕ずか生掻を維持しおいく。非垞に恥ずかしい行いではあるが、金を皌ぐ手段をほかに思い぀かない。駐車堎係の仕事では老い先に黒い怪しい雲が埅ちかたえおいる。幎金だけではずうおい家のない私にはやりくりがおっ぀かなくなるのは目に芋えおいる。幎金の䞊積みずしお生掻の足しに䞖間からお金をいただきたい。

ホヌムペヌゞに日蚘を掲茉した末尟に、以䞋のような宣䌝文句を䞊べおおくのもよいであろう。

日蚘を通しお私に関心を持っおくれた方、是非、日本では䞀流の文芞雑誌で萜遞した、私の、「小説」をお買い求めください。生掻が苊しいのでただで差し䞊げられないのが、残念ではありたすが、この日蚘に毎日登堎する家、このおうちに䜏む、○○さんぞ圓おお発信された、通信玔文孊䜜品でありたす。

やはり無理だ。こんな事できっこない。人間のくずずなる。情けない。これほど玔真な想いが、真剣に突き詰めるほどに、䌝えたいずいう熱意が燃えたぎるほどに、むなしく空回りしお、薄汚い、倉態的な、嫌らしい、ずるがしこい、蚈算高い、商魂ず等しいものに堕しおしたう。

今日は勀務が早出だったので、倕方六時に回った。ただ電気は぀いおいなかった。人の気配はたったく感じられなかったが、駐車堎には車がぎっしり詰たっおいた。家の䞭にこもっおいるのだろうか。それずも、日曜の倕方だ、どこか行楜ぞ出かけたのか、わからない。掗濯物は、䞀枚も干しおなかった。歯がゆい。圚宅か、留守か、それさえわからぬたたに二呚した。道から二台目の駐車枠に停めおあった車の色が東島屋に乗っおきた車ず䌌おいたので、もう䞀床よく芋お確かめようずしたのだが、結局わからずじたい。

やはり、「狂恋ストヌカヌ日蚘」がいいか。

なお、今日は、子䟛甚の自転車をはっきりず芋るこずができた。党郚で䞉台あった。これたでは芖線の先に重なっおいたので台数も圢もよくわからなかった。今日はバラバラに離れお眮いおあった。二台は普通の自転車。これは小孊校の䞀幎か二幎の子䟛にちょうどよいくらいの倧きさである。色は黄色。女の子が奜む色である。最埌の䞀台は黒。背もたれのようなものが぀いおいる。手抌しのような圹目をするのか。倧人がそれに手を掛けお䞀人で乗れない子䟛のために抌しおやるのか。たるで「むヌゞヌラむダヌ」に出おきたバむクのようにかっこよい。幌皚園の子䟛にちょうどよいほどに小さい。どうもこれは䞉茪車のようである。

五月䞉十䞀日月

「恋闇日蚘」にしようか。

䌚瀟は䌑み。

午埌䞀時、芚める。小川さんの家は巡回せず。今日もたただらだらず䜕もせずに䞀日を終える。発信はこの二、䞉ヶ月手に぀かない。

手に぀いた。倜遅くになっお、発信をはじめた。およそ癟日ぶりか。原皿甚玙二、䞉枚分、曞きかけの末尟をカットしお、その分の話、最近身に降りかかった䌚瀟での虐め事件は埌の発信に回しおしたおうず決心したら、キヌをたたけるようになった。身近な問題でしかもロマンチックな話ではない、重い珟実は気が滅入る。だから先ぞ進たなかったのだ。時間を無駄にしおしたった。さあ、「手玙」にずりかかろう。

画面に向かう前に、机の匕き出しから叀いノヌトを䞀冊匕っ匵り出した。䞀九䞃五幎、二十代の私が曞き留めた倢日蚘である。ペヌゞを繰る。文字が黄ばんだ玙の䞊に蠢いおいる。

以䞋は䞀九䞃五幎䞉月十䞀日の倢である。

皆既日食

皆既日食の芳望䌚が葛岡第二小孊校の校庭で行われおいた。グラりンドには、升垭が組み立おられおいた。土俵ほどの狭い地面が䞭倮に残っおいるだけで、そこを升垭が段状に取り囲んでいるのだ。孊童ずその芪たちは、敎然ず正座し、これから始たる儀匏を厳かに埅っおいた。竹の棒で区切られた四角の垭の䞭で私は䞡手を぀いおいた。䞡足をたっすぐ䌞ばしお、足銖を埌ろの垭の竹の棒に匕っ掛けおいた。これから逆立ちでも始めようかずいう栌奜である。地面に立っおいた音楜の先生が、私を指差し、降りおくるように倧声で怒鳎った。私が地面に立぀ず、先生は身䜓怜査の準備を始めるように呜じた。私は服を脱ぎ始めた。人䜓が収たるほど倧きい奇劙な箱が運ばれおきた。箱の隙間から金属でできた円錐型の棘ずノコギリの歯が芋えた。その時、急に暗くなった。芋䞊げるず黒くなった倪陜が震えおいた。次の瞬間、倪陜を起点ずしお、空に倪い線が走った。これたでに芋たこずのない黒さだった。黒ずいう色が濃瞮されおできた最も黒い黒であった。宇宙の果おにある、光の届かない闇よりも、黒い黒であった。䞀瞬のうちに巊から右ぞ䌞びるずそこで止たっお震えおいたがたた急に動き出し、盎角に䞋に折れお䞉階建おの校舎の屋䞊たで降りおきた。屋䞊にしばらく留たり、がくんず萜䞋しおから二階の窓の䞊で止たった。幅二メヌトルほどの倪い線だった。たた方向を倉えお九十床に曲がるず空に描かれた線ず平行に窓を真っ黒に塗り぀ぶしお走った。校庭の呚りには、背の高い暹朚が怍えられおいる。線は、校舎を突っ切るず暹朚の腹のあたりの枝葉を黒く塗り぀ぶしおいく。さらに校庭の倖に出お遠くの街䞊みを黒で染めおゆく。突然急䞊昇しお倩頂で震えながら耇雑な動きを始めた。真っ黒な巚鳥が出珟した。それは矜ばたいお空を枡った。鳥の航跡は党お黒で塗り぀ぶされた。あたりは、どんどん暗くなっおゆく。

小川さんが隣に立っおいた。

「これはどういうこずなの 」

「䞖界が嘘っぱちだったっおいうこずさ」

遠くの山々も町䞊みも鉄塔も、雲も空も、すぐ目の前にある校舎の硝子窓も、桟敷垭を埋め尜くす芳衆も、私も小川さんも、芋えない腕が描くキャンバスでしかなかった。

私は小川さんの手を握った。次に描かれるキャンバスの片隅に身を寄せ合う二人が居るこずを願っお。

──四半䞖玀前、私はすでにこの黒に塗り぀ぶされた䞖界にいたのだ。二十四幎埌の今倜も、近所に居お、同じ女の幻圱を远っおキヌを叩いおいる。

──ほしいもの。スキャナヌ、プリンタヌ、ファックス付き電話機、デゞカメ、蚘録装眮。
 
早くスキャナヌを買っお小川さんがりェディングドレスを着おいる写真をパ゜コンに取り蟌んでおかないこずには色あせおしたう。今ではもう顔の茪郭がにじみはじめおいるのだ。

車で小川さんの家を巡回するずきデゞカメ片手にパチッずやっおみたい誘惑に駆られおいる。これをやれば本物のストヌカヌらしくもなるずいうものだ。犯眪性を垯びおくるから。

むンフォり゚ブ・クレゞットカヌドがやっず届いた。ただむンタヌネットはできない。あず䞀週間か、十日ほどしお、たたなにやら通知が来お、それからだそうだ。

むンタヌネットに接続できたら、早速、やるこず、──「日蚘猿人」のホヌムペヌゞを開く。──「秀䞞゚ディタ」をダりンロヌドする。それからパ゜コン呚蟺機噚の安いのをネット販売で買う。

─蚘憶の平面に倢ず珟実ず劄想が滲んでいたす。私の人生のシミが以䞋の目次に蚘しおありたす。
■これたでに公開した小説目次
https://note.com/yudedako28/n/n4faf4d679541
■これたでに公開した日蚘目次
https://note.com/yudedako28/n/n3290177d4910
■これたでに公開した手玙目次
https://note.com/yudedako28/n/na854e51a7a2c


【読者の皆様ぞ】
「茹蛞倢皿」に曞かれたこずは、1998幎から2001幎にかけお曞かれた日蚘も含めお、すべお架空の地名や人名を甚いお再構成した私小説的蚘録である。


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