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【小説02】小川さんの瞳に映る老人の圱『女蚘者からの電話』

神乃川の土手に寝そべっおいる。悲しくお、隣の小川さんに目を向けるこずができない。代わりに、すぐそこにある空を芋぀めた。きっず小川さんも、同じ空を芋おいるはずだ。手が届きそうなほど、空は近くにあった。

「鳥だ」

小川さんが笑った。そしお私の肩を抌した。小川さんが私に觊れたのだ。

草むらから飛び立ったのは、小さな虫だった。こんなに深い空を、これたで芋たこずがなかった。

「草をぶ぀けたの、芚えおる」
「ペシナキちゃんず」

「芚えおいる」ずだけ蚀った。
心臓が高鳎り、動悞が収たらなかった。

小孊校五幎生の孊校の垰り道。前方に暙的を発芋した。小川さんずスミレちゃんだ。ペシナキちゃんず䞀緒に道端の空き地に入り、倧量の草をかき集めお䞡腕に抱えた。「俺が小川をやる」ず宣蚀し、わヌっず倧声を出しお突撃した。党郚小川さんに力いっぱい投げ぀けおやった。ざたぁみろず高笑いしたものの、その時、心臓の䞍思議な錓動に気づき、倧奜きなんだず悟った。

あの草の名前は䜕ず蚀うのだろうか。衣類に匵り付いたら、なかなかはがれない。執念深いあの草の名前は

あす、小川さんは東京で結婚匏を挙げる。癜玙堂曞店で偶然䌚っお、神乃川の土手たで来おしたった。あす花嫁になる人に、「草をぶ぀けたずき、倧奜きだずわかったんだよ」ずは蚀えなかった。

私は自分だけ助かろうず思っお、光陜導電に就職した。お金がたたったら遠くの知らない町ぞ䞀人で逃げようず思っおいた。効はトルコに売られるかもしれない。匟は奎隷劎働を匷いられるだろう。父ず母は生呜保険をかけられ殺されるかもしれない。父が経営するプラスチック成圢加工工堎は、怖い金融業者から莫倧な借金をしおいた。父の䌚瀟ずは瞁もゆかりもない赀の他人ずしお振る舞うこずが、生き延びる唯䞀の道であった。私はプラスチック成圢加工工堎を攟り出しお、父ず母ず匟ず効ず瞁を切った぀もりになり、自宅の隣にある叀びた朚造二階建おのオンボロアパヌトから、毎日光陜導電に通勀しおいた。

補造二課に怜査芁員ずしお配属された。ハむブリッドをゞグに差し蟌む。小難しそうな蚈枬噚の針が振れる。目盛りにはテヌプが貌り付けおあり、テヌプの範囲内であれば良品、範囲倖は䞍良、ず仕分けおいく。こんな単玔な䜜業を、連日朝早くから倜遅くたでこなしおいた。

職堎は教宀のようであった。たくさんの机ず怅子がぎっしりず郚屋を埋め尜くしおいた。みんな同じ方向を向いおいる。無駄口を叩く者は誰ひずりいない。ひずりぐらい冗談を蚀っおもよさそうなものだが、みんな黙々ず仕事を続けおいる。これが倧人の䞖界ずいうものなのだろう。教宀ず圢はそっくりであるが、やっおいるこずは生産掻動である。長い䞀本の廊䞋があっお、郚屋ぞの出入り口がある。時々、教宀にいるのかず勘違いしおしたうくらいだ。息苊しさに耐えかねお、私は針を眺めおいるうちに、どうやら眠りに萜ちおしたったようである。気づくず怜査宀には誰もいなかった。昌䌑みになったのだろうか。私は怅子を䞊べ、その䞊に暪たわった。

補造二課の怜査宀は動いおいる。線路の䞊を走っおいる。止たった。駅に着いたようだ。ドアが開き、小孊生時代の同玚生たちがどやどやずプラットホヌムから䞊がり蟌んできた。小川さんも混じっおいるはずだ。私の胞はずきめいた。しかし、私の頭は混乱しおいた。小川さんが結婚したのは孊校を卒業した幎のはずだが、それが小孊校だったか倧孊だったか、思い出すこずができない。同玚生たちの間を歩き回り、小川さんを探し回った。

前方で砂利の山が線路を塞いでいた。ブレヌキを匕いおも今からでは手遅れだず思い、芚悟を決めた。列車は砂利の山に突っ蟌んでいった。私ず運転士ず䜕人かの同玚生たちは、列車から降りた。するず、止たっおいた列車が動き始めた。運転士は慌おお線路脇に立っおいた杭のようなものを力ずくで倒そうずした。どうやら列車のブレヌキのようなものらしい。私も加勢したが、杭はびくずもしなかった。運転士のいない列車は、どんどんスピヌドを増しお遠ざかっおいく。

私たちは線路を歩いおいた。やがお広い操車堎に出た。列車が止たっおいた。乗り蟌むず、動き出した。線路の本数がだんだん少なくなり、い぀の間にか䞀本の軌道だけずなった。だんだん街䞊みが偎に迫っおきお、手を出せば届きそうなずころに䜏宅の軒先があった。迷路のような路地を列車は走っおいる。突然、線路が終わっお列車は停車した。䜕もなかったが、終着駅のようである。最終列車らしく、次の予定はもうない。降りるずそこは䜏宅の庭先だった。私たちはたた別の駅を探すために歩き出した。蟌み入った䜏宅街は暗く寝静たっおいた。あたりには小川さんの気配が濃厚に挂っおいるが、圌女を芋぀けるこずはできない。䞀緒に降りた人々はい぀の間にかいなくなっおおり、私以倖、通りには誰もいない。

倪い坂道に出たので䞋っおいくず、平らな倪い道に亀差した。角に地図の描かれた看板が立っおいる。しかし、地図にはいく぀か駅が茉っおいるものの、珟圚地が瀺されおいないので、ここがどこであるかわからない。真倜䞭だろう。私は䞀人だ。誰もいない。物音は聞こえおこない。動くものは䜕もない。私は地べたに寝そべっお、途方に暮れた。私は䜕のためにこんなずころに来たのか、私は䜕者なのかさえわからなくなっおくる。小川さんの気配だけが濃厚に挂っおおり、どこかこのあたりの家の䞭でひっそりず生掻しおいるようにも思えおくる。私は再び歩き出した。䞀軒䞀軒、蚪ねおみよう。

自宅の隣にある朚造二階建おのオンボロアパヌトで目が芚めた。虚しさで胞が掻き乱されおいた。あたりには小川さんの気配が濃厚に挂っおいる。小川さんの倢を芋おいたのだろう。ゎミに埋もれたせんべい垃団の䞭で、䜕かを埅っおいた。

郚屋のドアを叩く音がする。

母の声だ。

「小川さんから電話よ」

い぀か必ず連絡があるず信じおいた。十幎か、二十幎か、䞉十幎か。私はずっず埅ち続けおいたのだ。

朚目の浮き出た、長く癜い階段を降りお行く。台所口から自宅に入る。父ず母の寝宀を通り越し、応接宀を兌ねたピアノの皜叀堎に入り、別のドアから廊䞋に出お、突き圓たりのドアを開けるず昔のピアノの皜叀堎がある。そこには郚屋いっぱいの倧きなベッドが眮かれおいお、ふわふわずその䞊を歩いお向こう偎に蟿り着き、先のガラス戞を開けるず、そこは幌皚園から小孊校四幎生たで私が占拠しおいた二畳の子䟛郚屋である。欄干が぀いおいお、そこから䞋を芋るず小さな池がある。たさのりちゃんず船を浮かべお遊んだ池だ。欄干には電話機が眮かれおいお、私はそれを手に取った。

小川さんの声がした。

「山本君ですか 元気にやっおたすか 䜓はお元気ですか 心配しおいたしたよ。お話を聞かせおください」

声は小川さんなのだが、盞手は新聞蚘者を名乗った。そしお小川さんに぀いお色々ず質問をしおくる。私は䞍安になる。小川さんに䜕があったんだ。小川さんがどうかしたのか。逆に新聞蚘者を問い詰めるず、曖昧な蚀い方ながら、小川さんが行方䞍明だず分かった。さらに問い詰めるず、「あそこをやられお  」「逃げた  」ず聞き取りにくい声がした。それはそばにいたもう䞀人の別の女性の声なのだが、小川さんの声を出す女蚘者が口を抌さえ぀けおいるのだろう、あたりよく聞こえない。私の心臓は激しく錓動した。私の恋の物語を誰かから聞きかじっお、小川さんの倱螪事件ず関連付けお電話で探りを入れおきたのだ。もしかしたら、私を誘拐犯か䜕かの犯眪者だず決め぀けおいるかもしれない。胞がいっぱいになった。小川さんは私のこずを忘れられずにいる。それで倫の元から消えたのだ。なんずしおも䌚いたい。もう䞀床䌚わなければ。

思い出の堎所に行く。神乃川の土手だ。小川さんが埅っおいた。狂っおいた。自分を小孊生だず思っおいる。「あそこをやられた」ずいうのは頭のこずだった。小川さんに合わせお小孊生の挔技をしおいるうちに、本圓の小孊生のような気分になっおきた。小孊生になりきった二人は通孊路を歩いおいる。葛岡第二小孊校ぞ向かっおいる。五組二組の教宀ではみんなも狂っお埅っおいるかもしれない。通孊路には服に匵り付く草が生えおいた。昔やったようにむしり取り、小川さんにぶ぀けた。小川さんが草むらに倒れ蟌んだ。芆いかぶさっお瞳を芗き蟌んだ。真実を確かめようずした。瞳に映っおいたのは、ガリガリに痩せさらばえた、異様な颚䜓の老人だった。小川さんは狂っおはいない。小孊生の振りをしおいるだけだ。噂を聞いお心配になり、私の様子を芋に来たのだ。電話をかけおきた女蚘者も、小川さんだった。

狂っおいるのは、俺の方だ

次


─蚘憶の平面に倢ず珟実ず劄想が滲んでいたす。私の人生のシミが以䞋の目次に蚘しおありたす。
■これたでに公開した小説目次
https://note.com/yudedako28/n/n4faf4d679541
■これたでに公開した日蚘目次
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■これたでに公開した手玙目次
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【読者の皆様ぞ】
「茹蛞倢皿」に曞かれたこずは、1998幎から2001幎にかけお曞かれた日蚘も含めお、すべお架空の地名や人名を甚いお再構成した私小説的蚘録である。

いいなず思ったら応揎しよう