
扉を2つ開けた先に
あなたにとって「浮き足立つ」瞬間とは、どんな場面だろうか?私にとってのそれは、初めて訪れるサウナに入る時だ。
「浮き足立つ」を辞書で引くと 「恐れや不安を感じて逃げ腰になる。落ち着きがなくなる(スーパー大辞林3.0)」と出てくる。しかし今では、「喜びや期待を感じ、落ち着かずそわそわしている(令和元年度「国語に関する世論調査」、文化庁)」という、本来とは異なる意味で理解している人が6割近くもいるという。
言葉に関わる仕事をしているものの、私もプライベートでは後者の意味で使いがちな慣用句。ワクワクする気持ちが振り切れて、ほんの数ミリ地面から浮かぶような心地。「首を長くして待つ」よりも、身体感覚と一致しているかもしれない。
閑話休題。受付を済ませ、浴室の扉を開けた時、私にとっての「浮き足立つ」瞬間が顔をのぞかせる。銭湯であれば、ほんのり漂う湯気の向こうに、大きなペンキ画やタイル画が広がる。サウナ施設であれば、洗い場やさまざまなサウナの入口、内気浴のイスなどが一度に目に入ってくることも多い。
身体を洗い、湯船があればまずは浸かり、まだ見ぬサウナ室の中を想像する。ネット記事やサウナ関連番組、雑誌など、サウナ室内の写真や映像とともに、その魅力やスペックを紹介するコンテンツは数多くある。しかし、肉眼で、肌で、時には鼻や耳で感じるピュアな感動を求めて、普段から観たい気持ちをグッと抑えて、いつかの実体験に備える。
サウナ室の前に立ち、取っ手やサウナキーに手をかける。扉に取り付けられたガラスが大きい場合、開く前から中の雰囲気がうっすらとわかる。まさに、今にも「浮き足立ちそうな」気分。
待ちに待った、扉を2つ開けた先に広がる空間。明るさは、広さは、テレビやBGMの有無は、立ち上がるアロマは、どんなものだろうか。ほんの数秒の間に、造り手やサウナ施設運営者の意図をすっと感じ取る幸せ。
この扉の向こうには、どんな驚きが待っているのだろうか。そんな、抑えきれない「浮き足立つ」気持ちを抱えながら、今日もまた新しいサウナに足を踏み入れる。