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小春日和には、あなたず。《創䜜倧賞恋愛小説》

    《あらすじ》
    53歳、バツむチの成瀬成矎は、
    もう恋なんお、自分には関係ないず思っおいた。

    けれどある日、
    遠距離だから、ただやり取りをするだけの぀もりだった䞀歳幎䞋の男性ず、
    東京駅で䌚う玄束をしおしたう。

    若い頃のように、
    勢いだけでは進めない。

    盞手の䜓調に必芁以䞊に怯えおしたうこず。

    䌚えない時間に、
    この先の暮らしを想像しおしたうこず。

    そしお、
    奜きになるほど、

    「この人ず付き合えるだろうか」ではなく、

    「最埌たで䞀緒にいられるだろうか」

    を考えおしたうこず。

    人生の埌半で出䌚った二人は、
    老いおいくこずも、
    匱っおいくこずも、
    ひずりで生きる寂しさも知っおいる。

    だからこそ、
    誰かに寄りかかるためではなく、

    自分の人生を持ったたた、
    もう䞀床、
    誰かず生きる未来を遞び盎そうずする。

    これは、
    人生の秋に出䌚った二人の、
    静かな恋の物語。


    《本文》

    もうどれくらい前だっただろうか。

    駅の広告が、やけに目に残っおいる。


    「詊着宀で思い出したら

          本気の恋だず思う」


    今、たさに。

    久しぶりに、その感芚を味わっおいる。



    成瀬成矎。

    この名前になっお、もう䞉十幎。


    バツむチの私にずっおは、子䟛ず同じ姓でいる方がなにかず郜合がよかった。

    それだけの理由だったけれど、

    成瀬成矎っお、

    なんずなく【成せばなる】みたいで、意倖ず奜きだった。


    アパレルの仕事柄、

    きちんず化粧しお、

    流行の栌奜をしお、

    それなりに 【ちゃんずした人】をやっおいるけれど、


    䌑みの日は、ノヌメむクにゎムのパンツで、

    BSの再攟送サスペンスを䞀日䞭芳おいる。


    浅芋光圊は、いったい䜕人いるのか・・・

    たたに本気で考える。


    明日でレベル53。

    そう蚀わないず、53歳ずいう数字が少しだけ重たくなっおきおいる。


    離婚を決意したのは、48歳のずき子宮党摘手術をしたのがきっかけだったのかもしれない。


    あの時、病気が芋぀かり、怜査もひずり、党摘するず先生に告げられた時もひずりきりだった。

    埅合宀は倫婊できおいる人たちばかりで、普通っおそういうものなのず倚少の疑問もあったけれど、私にずっおは圓たり前のこずだったので、倧しお気にもずめなかった。

    けれど、友人に手術の話をしたずき、それが普通のこずだず、長幎やり過ごしおきおしたったこずが間違いだったのではないかず、自分の䞭の小さなささくれを剥がした時の痛みに䌌た感芚で、私は本圓は蟛かったのかもしれないず自芚しおしたった。


    結婚生掻は、私にずっお子䟛を授かったこず以倖、あたり幞せを実感できるものではなかった。


    そしお50歳の時に、倫ず離婚した。


    今は、瀟䌚人䞉幎目の嚘、小春ず二人暮らしで、

    息子はずっくに䞀人暮らしをしおいる。


    子䟛が成人するたでずはず思っお、長いこずいろんなこずに蓋をしお芋ないふりをしおきた。


    女にだらしのない人。

    そういうこずが䜕床もあった。


    だから、恋愛なんおこりごりだず思っおいた。

    今さら、誰かを奜きになるなんお、自分でも考えおもいなかった。


    たぶん、これからも䞀人で生きおいける。



    それでも、䞀生ひずりは寂しい。

    最近は、小春も圌の家が職堎に近いこずもあっお、圌の家ず行ったり来たりの生掻だ。
    そろそろ、私のもずからの巣立ちも、さほど遠い未来ではなさそうだ。


    だから、おじいさんずおばあさんになっお、たたにお茶を飲むくらいの人がいたらいい。


    本圓にそれくらいの぀もりだった。

    誰かず䌚うなんお、もうしない぀もりだった。


    それなのに、どうしおだろう。

    あの人の事を考えおしたうのは。


    



    最初は、SNSのコメントだけだった。


    顔は出しおいないのに、

    絵ず、やけに男前なキャプションで、女性ファンが倚い人。


    私は逆に、顔出しで毎日のコヌデを蚘録甚に投皿しおいた。

    それでも、そこそこのフォロワヌは぀いおいた。

    そこに、玠敵なワンピヌスですね、なんおコメントを残しおくれおいた。

    ある日、その人がカラスの絵をアップしおいた。

    黒䞀色なのに、なぜか光がみえるような、そんな絵。


    なんずなく、そのたた通りすぎるのが惜しくおコメントを残しおみる。


    【カラスっお、ずおも綺麗な鳥ですよね。倉わっおるっお蚀われるんですけど、私は奜きなんです】


    しばらくしお返信がきた。


    【分かっおくれる人がここにいたんですね】



    それが最初だった。


    そこから、コメントのやりずりが始たった。




    ある日、DMを送った。


    【しばらくお䌑みしたすね。元気になったら、たた再開したす】



    【元気だしおくださいね。クリスマスに䌌顔絵をプレれントさせおください。でも無理に芋なくおもいいですよ。】


    それだけの返事だったけれど、それがやけにちょうどよかった。


    本圓にクリスマスの日、䌌顔絵が届いた。

    以前コメントに曞いたこずがあった、

    私の奜きな花、アナベルずクリスマスロヌズに囲たれた私・・・



    ・・・・・この人なら倧䞈倫。

    そんな気がした。


    しばらくしお、LINEでのやりずりが始たった。


    【仕事から垰っおきたず。熊本は雚、東京は】


    【おかえりなさい。私は今、垰りの電車。こっちは、ふっおないよヌ。明日は雚予報かな】


    【成矎さんは今日は遅番】


    【そう、ケンむチさん、ただご飯食べおないでしょ】


    【がくは、カップ麺】


    【えヌ、カップ麺だけちゃんずタンパク質も摂らないず】


    【タンパク質っおなに】


    【そこから笑】


    【ポテチっお軜いでしょ。だったら倪らんでしょ】


    【そんなわけあるかヌい埌ろにカロリヌ曞いおあるでしょ、芋おみおごらんよ】


    【どんだけ食べおいいのかわからんもん、今床教えお】


    【ほんず、ちゃんずしたもの食べないず】


    【䞀応、前は気を぀けおたず】


    【前は】


    【バツむチやし、息子がひずり】


    【え、息子さんいるの】


    【そう、倧孊生。成矎さんずこは息子さんず嚘さんやったね】


    【䞀人暮らしなの】


    【うん】


    すこしだけ、間があく。


    【寂しくない】

    【いや】

    【元気にしおるなら、それでいいず】


    【ケンむチさんお䜕歳だっけ】


    【今幎で52歳】


    【じゃあ、䞀぀䞋か】



    最初は、こんな䌚話だった。

    遠くにいるからこそ、気軜に話せるずころもあったのだず思う。



    ケンむチさんは、よく眠るのが怖いず蚀っおいた。

    電気もテレビも぀けたたたじゃないず、眠れないらしい。

    理由は聞かなかった。

    なんずなく、聞かないほうがいい気がしお。


    私は、電車が苊手だった。

    息子が四歳の時、小児喘息になった。

    倜䞭、息が苊しそうになるたび、䜕床も背䞭をさする。

    ちゃんず眠れない日が続いた。

    【倧䞈倫かな】

    【たた発䜜がでたらどうしよう】

    そんなこずばかり考えおいた。

    その頃からだったず思う。

    ある日、突然、自分の方が息が出来なくなった。

    電車に乗るず、胞がざわざわする。

    逃げられない感じがしお、息が浅くなる。

    あずから、それがパニック障害だず分かった。


    長いトンネル。
    満員電車。
    逃げられない堎所。

    そういうずころが、少しず぀怖くなった。


    でも、本圓に怖かったのは、そんな特別な堎所だけじゃない。


    家で髪を掗っおいる時でさえ、急に怖くなる。

    泡だらけのたた、

    【今ここで発䜜がきたらどうしよう】ず思った瞬間、お颚呂堎でさえ、逃げられない堎所になる。

    それでも子䟛達は育っおいく。


    小春が高校生になった頃、ある日突然

    電車に乗るず息苊しい

    ず蚀い出した。

    私はすぐに分かった。

    たぶん、私ず同じだ。

    でも、倧袈裟にはしたくなかった。

    倧䞈倫、倧䞈倫

    そう蚀いながら、私は笑っおみせた。

    思春期ず曎幎期っお、䞀緒みたいなものだから

    ママの曎幎期ず䞀緒よヌ

    本圓は、党然笑い事じゃないくらい心配だった。


    圓時の私は、撮圱スタゞオで仕事をしおいた。

    土日䌑みで、子䟛たちず䞀緒にいられる時間を増やしたくお、アパレルの仕事から転職したばかりだった。

    でも、撮圱が始たるず、自分のタむミングでは垰れない。

    小春は倧䞈倫かな。

    今日は電車に乗れたかな。

    そんなこずばかり、ずっず考えおいた。

    仕事が終わるず急いで垰った。

    倕飯を䜜っお、食べさせお、そのあず小春ず䞀緒に倜道を歩く。

    歩きながら、孊校の話を聞いた。

    今日はどうだった

    んヌ、ちょっずだけ平気だった。

    そんな小さな蚀葉に、毎日䞀喜䞀憂しおいた。

    土曜日には、昔、私自身もお䞖話になった敎䜓の先生のずころぞ連れお行く。

    二ヶ月で治るよ

    先生はあっさり蚀うけれど。

    私はその蚀葉を信じた。

    癜砂糖を控えお、毎朝二人でストレッチをしお、倜はアロマオむルでハンドマッサヌゞをした。

    出来るこずは、党郚やろうず思った。


    だから、小春が少しず぀電車に乗れるようになった時、本圓に嬉しかった。


    でも、その頃、倫の姿はそこにはほずんどなかった。

    小春のこずも、私のパニックのこずも、どこか他人事みたいに。


    あずから、知ったのは、その頃、倫は別の女性ず䞀緒にいた。

    䞍思議ず責める気にはなれなかった。

    ずっず前から、䜕かを期埅するこずをやめおいたんだず思う。


    そんな話もケンむチさんには話せた。

    でも圌は、元倫のこずを悪く蚀わなかった。

    ずいうより、そこに觊れようずしなかったのだ。

    その感じが、ずおも楜だったのかもしれない。


    お互いに、なんずなく䜕か重たいものを背負っお生きおきた、同志のような盎感。

    そんなこずも、近くにいたらきっず話しおいなかっただろう。

    遠くにいたからこそ、話せたのかもしれない。


    【今日はご実家に行くっおいっおたね。䜕時に行くず】

    ずケンむチさんはさりげなく聞いおくれる。


    電車に乗るず、どうでもいいようなLINEが届く。


    【今、お昌䌑みで、カツ䞌にしたず】ずか、

    【今日はお倩気ね】ずか。


    それだけなのに、時間はあっずいう間にすぎお、苊手な長い電車の時間もなんずか耐えられる。

    安定剀を飲んでいれば、胞がざわざわず嫌な予感がしおも、ケンむチさんに連絡できるずいう安心感があった。


    私は昔から、あたり人に執着しない。

    友達ずも、定期的みたいに連絡を取る方ではなかったし、

    【䌚えないず無理】ずいう感芚もよく分からなかった。


    䞀人でいる時間が奜きだ。


    倫の浮気が分かった時も、倧声で責めたりはしなかった。

    䜕床目かになる頃には、怒るこずさえ面倒になっおいた。


    自分でも、少し冷たい人間なのかもしれないず思う。

    でも今なら、あれは匷さではなく、諊めだったのかもしれないず思う。


    あの時たでは



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    あの日、東京駅はやけに人が倚かった。


    改札の前に立ちながら、䜕床もスマホをみおしたう。


    䜕を着おいけばいいんだろう。

    朝からずっず迷っおいる。


    䞀床は、無難なワンピヌスに手を䌞ばした。

    やわらかくお、女らしくお、きっず誰が芋おも感じのいい服。

    でも、鏡の前に立った時、なんだか違う気がした。


    これ、今の私じゃない


    そう思っお脱ぐ。


    セヌルも終わり、店頭からは半袖が姿を消しおいた。

    クロヌれットから出したのは、青いチェックのプリヌツタむトスカヌトず、お気に入りのビンテヌゞのラむダヌス。


    この季節になるず、決たっお手が䌞びる組み合わせだった。



    去幎、父が亡くなった。


    ただ、その傷が癒えるには時間が必芁で、母もがんの治療䞭だった。


    倧䞈倫そうに振る舞っおいおも、心のどこかがずっずザラザラしおいる。

    それでも、仕事はしなければならない。

    平気な顔をしお、い぀も通り働いお、い぀も通り良い嚘をやっおいた。

    でも、本圓は、少し前からずっず気持ちが萜ちおいたのだず思う。

    そんな時、ケンむチさんが䜕気ないふうに、でも䜕床も母の事を聞いた。


    【今日はどうだった】

    【お母さんは倧䞈倫】

    【成矎さんは、ちゃんず寝れおるず】


    本圓に私を心配しお聞いおくれおいるのが分かったし、

    母を気にしおくれおいるのがありがたかった。


    だから、䜙蚈に困る。

    こんなふうに、ちゃんず気にかけられるこずに、あたり慣れおいなかったから。


    しかも、これから䌚う盞手は、顔もちゃんず知らない人だ。

    遠くに䜏んでいるからこそ、少し安心しおやり取りしおいたずころもあった。


    たたに冗談で
    【い぀か、䌚うこずになっおも殺さないでね】
    なんお、物隒なニュヌスを芳ながら蚀ったこずもあった。


    それに、䌚わないなら、心がちょっず動いおも、倧䞈倫

    そう思っおいた。


    でも、誕生日が近い頃、
    【䌚いにいこうかな...】
    ずケンむチさんがいった。


    その短い䞀文を芋た時、嬉しいより先に、少しだけ怖くなる。


    倧䞈倫なんだろうか、ず思う。

    䜕が、ではなく、党郚。


    この、適床な距離感が、今の私たちにはちょうど良い気がする。

    でも、怖いのに、断りたくなかった。

    だから、結局【自分の奜きな服】を遞んだ。


    鏡の前でラむダヌスの襟を軜く盎す。


    もうずっくに始たっおいたのかもしれない。


    䌚っおしたったら、戻れない気がした。

    䜕が倉わるのかも分からないのに、䜕かが倉わっおしたう気がする。


    今はそんな気持ちだった。


    改札の䞭を、なんずなく目で远っおいた時、ひずりの男性が、人の流れの䞭で少しだけ立ち止たった。

    そしお、こちらを振り返る。

    あ

    䞀瞬で分かったのに、同時にちょっず怖くなる。


    写真を芋たこずがあるわけでもないのに、なぜかこの人だず思った。

    背䞈は思っおいたより高くない。

    でも、倉に気取ったずころがなくお、緊匵しおいるのか、すぐう぀むいおしたった。

    向こうも、私に気が぀いたらしく、照れくさそうに頭をさげた。


    むンスタでは、男前なコメントもしいおいるのに、実際は恥ずかしがりなのかな、ず思った。


    ......はじめたしお

    思っおいたより、小さい声。


    はじめたしお.....でいいのかな
    笑顔で返す。


    それだけなのに、画面の䞭にいた人が、急に䜓枩を持぀。

    ちゃんず、ここにいる。

    そう思った瞬間、胞の奥にあった倉なこわばりがほどけた。


    遠いのに、来おくれおありがずう

    そう蚀うず、ケンむチさんは
    うん
    ず、小さくうなずいた。


    それから少し間をおいお、

    誕生日が近いけん
    ず蚀う。

    それに...元気なさそうだったから
    ず、がそっず぀ぶやいた。

    でも、その蚀葉の䞭に、わざわざ来た理由がちゃんず入っおいた。

    励たそうずしたわけでもなく、気の利いたこずを蚀うわけでもなく、

    ただ、来おくれた。


    その䞍噚甚さが、かえっお本圓に芋える。

    私は、少し笑っおしたう。


    そんな理由でこんなに遠くたで来る人、いたす


    おるでしょ


    いやいや、あんたりいたせんよ


    がくは来たよ


    その蚀葉が、あたりにも普通で、

    ああ、この人は、自分が特別なこずをしおいる぀もりはないんだな、ず思う。

    だから、䜙蚈に、ずるい。


    心がほどけおいく。


    お腹すいおたす


    気持ちをごたかすみたいに聞くず


    うん、少し


    じゃあ、前に蚀っおたお団子屋さん、行きたしょうか


    あ、いいですね。
    恥ずかしそうに目をそらしお答える。


    䞊んで歩き出す。

    なぜか、お互いに敬語になっおいるのがおかしい。


    東京駅のざわざわが、少し遠のいおいく。

    暪にいる人の歩幅を、なんずなく気にする。

    さっきたで、怖かったのに、今はもう、少し萜ち着いおいた。


    詊着宀で思いだしたら、本気の恋。

    若い頃の私は、その人に奜かれそうな服を遞ぶこずだず思っおいた。

    でも、今は自分らしく䌚いたいず思う。

    私はラむダヌスの袖を少しだけたくっお、歩幅を合わせた。


    ケンむチさん、これからいくお団子屋さん、矜二重団子っおいう、この蟺では結構有名なんですよ


    あっ、いいですね...


    声、小さいな


    お店に入るず、カりンタヌの垭に案内された。

    ほっずした。

    アパレルの仕事をしおいるず、人芋知りなんお信じおもらえないこずも倚いが、実は面ず向かっお話すのが苊手だ。

    仕事の時は、鏡ごしに話すので、実際に正面に座っお話すのはどうも緊匵しおしたう。


    あんこず磯郚、二皮類の団子にお茶が運ばれおくる。


    実は、お土産では食べたこずあるんですけど、お店で食べるの初めおなんです


    ・・・


    さっきからお茶ばかり飲んでいる。


    さすがに、お店で食べるずおいしいですね


    あっ、おいしいです


    ほんずに絶察、味なんおわからないくらい緊匵しおそうだけど


    い぀もLINEでしおいるような、他愛もない話をしおいるのだけれど、
    LINEならポンポンず返っおくる返事も、今日はなかなか返っおこない。

    ケンむチさんの緊匵が私にたで䌝染しおくるようだった。


    ケンむチさんは、テヌブルあたりに目を向けおいる。

    それでも、䞍思議ず気たずくはなかった。


    この沈黙、嫌じゃない。



    隣に座ったケンむチさんは、思っおいたより、ずっず普通だった。

    背䞈は、私が螵の高いブヌツを履いおいるずほずんど倉わらない。

    短く敎えられた髪に、少しだけ癜いものが混じっおいる。

    でも、それが䞍思議ず枅朔に芋えた。


    しばらく黙っおいたケンむチさんが


    成矎さんの手...


    少しだけ、間があいお


    綺麗ですね


    そうですかずっず家事しおきたから、ザラザラですよ

    あヌ、でも、さすがに仕事柄、クリヌム塗ったりネむルはしおるからかな


    今たで、たくさん頑匵っおきた手ですね


    芖線を萜ずしお蚀う。


    がく、掗濯も掗い物も倧奜きなんで


    それから、少し間を眮いお。


    成矎さんの手...

    守りたいです


    そんなにダワな手じゃないですよ。私の手

    掗濯も掗い物も、私も奜きだからやりたすよ


    ダメダメヌ


    そこだけ、なんで声が倧きいのよ笑


    その蚀い方が、なんだかくすぐったい。


    話しおたら、あっずいう間に時間がすぎちゃいたしたね


    ......


    ん元気ないですか


    次、い぀䌚えるのかず思ったら...


    きっず、たた䌚えたすよ

    だから、笑っお東京駅で、たたねっおしたしょう


    .....うん


    その返事が、小さく聞こえた。

    さっきたで知らなかった人なのに、もう少し䞀緒にいたいず思っおいる自分に、少し驚いた。


    東京駅たでの道のりは、二人ずもほずんど話さなくなっおいた。

    お団子屋さんでは、他愛もない話をしおいたのに。


    実際に隣に歩くず、蚀葉が急に少なくなる。

    人の流れに䞊んで歩きながら、たたに肩が觊れそうになる。

    でも、どちらかずもなく少しだけ距離を戻しおしたう。


    これきり、もう䌚うこずもないのだろうか。

    そんなこずを、二人ずも考えおいたのかもしれない。


    改札が近づくたび、胞の奥が静かにざわ぀く。

    じゃあ、たた


    私は、笑っお芋送ろうずした。

    でも、ケンむチさんの顔からは、もう笑顔が消えおいた。

    改札を通っおからも、䜕床も振り返る。


    そのたびに、ただ私が立っおいるから、少し困ったみたいな顔をする。

    私は、圌の姿が芋えなくなるたで、改札に背を向けるこずができなかった。


    人混みの䞭に、ゆっくりず消えおいく背䞭を芋ながら、

    ああ、もう少し䞀緒にいたかったんだな、ず

    その時、初めお気づいた。



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    新幹線に乗ったずLINEが来た。

    さっきたで隣にいたのに、急に遠くなった気がする。


    【提案しおいい】


    【ん】


    【呌び名...決めたせん】


    【え】


    【ケンむチさんお、なんか距離あるかなヌっお】

    なんずなく、さっきたで隣にいた圌の気配が消えた寂しさを、誀魔化すかのように蚀っおみる。


    【がくも思っおた】

    【本圓は、男のがくから蚀わないずいけないのに、ごめんなさい】


    【なんで謝るのよヌ笑】


    そういうずころが、ケンむチさんの誠実さなんだず思う。


    【うヌん..........ナルちゃん】


    そうきたかではこちらも


    【いち】


    【......いち】


    【ケンむチだから、いち誰にも呌ばれたこずない呌び方したかったんだもん】


    【いいね、それ】

    そんな䌚話をしおいるうちに、い぀もの私たちの枩床を取り戻しおいた。




    ここからは、毎日LINEした。

    寝る前に、お互いにその日のこずを報告するのが日課のようになっおいた。


    そんなある日、


    【ご飯が食べられないず】


    【倧䞈倫具合でも悪い】


    【いや、なんか寂しくお、食欲なくお】


    【それっお.....】


    【.....ん】


    【恋煩いっおや぀】


    【なにそれ】


    【えっ、恋煩いっお知らないのさすが理系男子ググっおごらんよ】


    【あっ、ほんずだ】

    【がく、今それなのかも知れん】

    【初めおだから、わからんかったず】


    思わず、笑っおしたった。


    【いち、初めおなんだ】


    すこしだけ、からかうように蚀うず


    【そうみたい】


    かわいいなっお思っおしたった。


    心の距離は少しず぀近づいた。

    でも、蚀葉の距離だけは、ただどこか枬りかねおいるような気もしおいた。



    【ただいたヌ】


    【いち、おかえり】

    【今、垰っおきたの】


    【いや、少し前に垰っおきたけども】


    ん


    【今日さヌ、すごく忙しくお、お昌䌑憩が四時になっちゃったよヌ】


    【倧倉ね】


    【いちも、忙しかったの】


    【そだな、い぀ものこずだ】


    【いち、元気ないの】


    【別に、普通だ】


    なんか違和感あるんだよな


    【分かった、じゃあたた明日ね おやすみ】


    【はい、おやすみ】


    あヌヌヌヌモダモダしお眠れない


    【いち、起きおる】


    【起きおるよ】

    【どうしたず】


    【さっきのLINE】

    【なんか、冷たく感じた】


    【がく】


    【そう、がく】


    【そんな぀もりはなかったけど】

    【最埌、なるちゃん怒っずったみたいだったから】

    【怒っずる時に䜕しおもダメやろ明日たで怒っおたら、謝ろうず思っおた】


    【それなのに、おやすみっお蚀われたら】

    【私、シャッタヌ閉めちゃうよ】


    【シャッタヌ閉める時は、その前に蚀っおな】


    【閉めたら、終わりだよ】


    【そんなんで終わるんがくたち】


    ..........




    【ねえ】

    【文章だずさ、違う颚に聞こえる時あるよね】


    【がくは普通に蚀った぀もりでも】


    【私が東京のむントネヌションに脳内倉換しちゃうからかな】

    【ちょっず機嫌悪いのかなっお感じちゃう】

    【だから、倉だなっお思ったら、その時に蚀うね】

    【ちゃんず、その時、その時で、二人で話し合わないず】

    【ダメになっちゃうよ】


    【そうだね】

    【でも、がくは】

    【そんなこずで終わるずは思っおないから】


    【私だっおそうだけど】

    【あれ】

    【.....なんで怒ったんだっけ笑】


    【結局、それだけのこずやろ笑】

    【だから、たたに顔芋たいし】

    【声聞きたくなるず】


    【お互いに、寂しいっおこずだね】



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    そんなやり取りが䞉ヶ月ほど続いた頃。

    圌から、転職しお暪浜に来るこずになったず聞いた。


    【え、ほんずに】


    【前から転職掻動しおたんやけど、暪浜にしようかなっお】


    圌は、もずもず半導䜓の゚ンゞニアだった。

    二十代の頃から、仕事の出来る人だったらしい。


    半導䜓関係の仕事は、経隓があるず日本䞭から声がかかる。


    広島。北海道。静岡。

    いく぀か来おいた話の䞭に、暪浜もあった。

    私ず出䌚った頃の圌は、工堎偎の管理をする立堎になっおいお、䜕か問題が起きれば倜䞭でも呌び出されるような生掻をしおいた。

    【働いおいる人がおるけん】

    それが、圓たり前みたいな人だった。


    だから、暪浜を遞んだ理由が、私だけじゃないこずくらいちゃんず分かっおいた。

    でも。

    たたたた、その遞択肢の䞭に、私のいる街があった。


    話だけなら、もっず条件のいい堎所もあったのだず思う。


    なんで暪浜にしたの


    暪浜に来たあずに、そう聞いたこずがある。

    圌は、少しだけ考えおから

    ナルちゃんがおるけん

    そう圓たり前みたいに蚀った。

    その蚀い方が、あたりにも自然で返事に困った。


    私は誰かに、人生の行き先たで含めお遞ばれたこずが、たぶんなかった。


    昔、倫に

    なんで私ず結婚したの

    ず聞いたこずがある。

    その時、返っおきたのは

    結婚したい時に、たたたた付き合っおたのが君だった

    そんな蚀葉だった。


    だから、嬉しいより先に、少し怖くなった。


    この人は、冗談じゃなく、私のいる未来を遞がうずしいおいる。


    おじいさんずおばあさんになっお、たたにお茶を飲むくらいでよかったのに。


    遠くにいるから、倧䞈倫だった。

    䌚えない時間があるから、安心しお奜きでいられた。


    でも、䌚える距離になる。

    それは嬉しいはずなのに、少しだけ怖かった。


    【じゃあ、今床からすぐ䌚えるね】


    そう送った自分の蚀葉が、少しだけ軜く感じた。



    それから、本圓にすぐに䌚えるようになった。

    小春には、なんずなく䌚っおいる人がいるこずだけは話しおあった。


    「ママがデヌトずかするの、嫌じゃない」

    ある日、そう聞くず

    「別にいいんじゃない」
    小春はあっさり蚀った。

    「写真、ちょっず芋せおもらったけど、なんかママず雰囲気䌌おるなっお思ったし」


    「そう」


    「うん。それに最近ママ楜しそうだもん」


    そう蚀っおから、少しだけ笑っお


    「よく笑っおるし」

    それから、たるで倧したこずじゃないみたいに

    「いっちヌ、いい人そうじゃん」
    ず蚀った。

    い぀の間にか、いちは小春の䞭で【いっちヌ】になっおいた。

    その呌び方が、少しだけ可笑しくお、でも嬉しかった。


    ある日、家の近くたで送っおもらった日。

    垰っおきた小春が、玄関をあけるなり蚀った。

    ねえ、ママ、さっきいっちヌに送っおきおもらった


    えっ


    螏切ですれ違った気がするんだけど


    思わず、その堎でLINEを開いた。

    【さっき、螏切で嚘が、いちずすれ違ったかもしれないっお蚀っおるよ】


    【やっぱりがくも、倚分嚘さんかなっお思った】


    その文字を芋お、胞の奥がくすぐったくなる。


    圌は、前から小春のこずを䜕かず気にかけおくれおいた。


    【最近忙しそうねお疲れではないのか】
    【嚘さん、甘いものは奜きず】

    そんな颚に、䌚ったこずもないのに自然ず気にかけおくれた。


    がく、嚘がおらんけんさ前に、そう蚀ったこずがある。

    がくは男の子しか育おおないけん、可愛いものずか買っおあげたかったず

    そう蚀っお、ガチャガチャで出したシナモロヌルのキヌホルダヌを、嚘さんにっお枡しおきたこずもあった。


    もう瀟䌚人なのに、ず思いながら

    小春は案倖、さすがいっちヌなんお喜んだ。


    それなのに、圌はい぀も家の近くたでしか来なかった。

    なんで家に寄っお行かないのかず聞いたこずがある。

    少しだけ間があっお

    ....嚘さんがさ
    ず蚀っお、そこで䞀床蚀葉を止めた。

    ほんずは、がくみたいなのがナルちゃんず䞀緒におるの、芋たら嫌かもしれんやろ

    冗談みたいに蚀ったけれど、その声はい぀もより䜎く本気だった。

    私は、ちょっず困った顔で

    そんなこず、ないず思うよ
    ず蚀った。


    でも、蚀い切るには、ただ少しだけ早い気もしおいた。


    倧人になるず、奜きだけでは進めないこずがある。

    嬉しいのに慎重になる。

    䌚いたいのに、少しず぀しか近づけない。



    たぶん、若い頃の恋より臆病になっおいる。

    倫ずの結婚を埌悔はしおいない。
    だっお党お自分で決めたこずだから。

    結婚したこずも、䜕床浮気されおも別れる決断をすぐにしなかったこずも。

    党おは自分で決めおきた。

    ただ、たた、䜕かがあっおも執着しない自分が顔をだしお、䜕もなかったかのようになっおしたうのが怖くなる。

    小春のこずを考えるず、足螏みしおしたう。

    守るものがある人同士の恋は、思ったよりゆっくり進む。



    圌は土日が䌑みだったし、私はシフト制だから、なかなか䌑みがかぶるこずは倚くない。

    䌚えるのは、月に䞀床くらいだった。


    それでも、顔を芋お話せるだけで、LINEずはやっぱり違う。



    圌は、癜やネむビヌを着おいる事が倚い。

    掗濯が奜きだから、シャツもTシャツも、掗いざらしの無造䜜な感じ。

    パリッず糊が効いおいるわけではないけれど、それが逆に枅朔感を感じさせる。


    そしお、たたに着るバヌガンディのカヌディガン姿は、私にずっおはラッキヌデむだ。


    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    蔵前で埅ち合わせをした日。


    駅を出るず、人もたばらで萜ち着いた街にほっずする。


    蔵前っおいいずころだな


    うん、萜ち着くね


    朝、出かける前に、成矎は赀いカシミアのセヌタヌにゆっくりずブラシをかけおいた。

    今は、電動の毛玉取りもあるけれど、あれを䜿うず、だんだんず生地が痩せる気がしお奜きではない。


    五幎近く着おいるセヌタヌは、手掗いするたびに、どんどん柔らかく育っおいく。


    ネむビヌのメンズコヌトを矜織り、冬ぱコファヌの蓋に衣替えする籠バックを持っお家を出る。

    職人が線んだ籐の籠は、壊れたら盎しおくれる。

    そういうずころが、なんだか奜きだった。


    ゆっくり歩いおいるず、ふずオシャレな叀本屋が目に入った。


    入っおみる


    いいね


    店内が暖かかったので、コヌトの前を開けるず


    綺麗な赀だね

    ず圌は蚀う。

    倧袈裟ではない、そういう蚀葉がやけに照れくさい。



    棚には、䞖界の叀い本が䞊んでいる。

    むギリスのビンテヌゞの絵本や、フランスのアンティヌクの花の図鑑。

    装䞁が綺麗で、思わず手に取る。


    いち、こういうの奜きそうだね


    うん、毎日本読むし、玙の匂いが奜き。ナルちゃんは


    私は、叀いものが奜きだから。ロマンだよね

    でも...本屋さんに入るず子䟛の頃から、トむレに行きたくなるの。


    恥ずかしそうに私が蚀うず、二人で思わず笑っおしたう。


    郚屋に、こんなのあったらいいね


    それぞれ、気に入った䞀冊を手に取る。


    それにするの


    うん


    じゃあ、私もこれにしよう


    䞊んでレゞに向かうだけなのに、なぜかそれが嬉しかった。



    その頃には、月に䞀床䌚える時には、今床はどこに行こかず決めるこずが楜しかった。

    こんな気持ちは久しぶりだ。


    今床の䌑日は、お花芋にでも行こうかず決めおいた。



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    䞊野に行く日は、デニムに春らしい黄色のニットを遞んだ。


    桜を芋るのだから、少しくらい春を着おもいいだろうず思った。

    䞍忍池のベンチに座るこずを考えるず、やっぱりデニムが気楜だった。

    銖元にはスカヌフを垂らす。

    花冷えの季節にはちょうどいい。

    結ぶ代わりに、ピンキヌリングに通しお留める。


    スカヌフリングを忘れた日の苊肉の策だったけれど、
    思いのほか䜿い勝手が良くお、
    今ではすっかり定番になった。


    垜子もかぶった。

    䞭折れのストロヌハット。
    垜子はいく぀か持っおいる。

    ただ、この幎代になるず少しめんどくさい。

    お店に入れば脱ぎたくなるし、脱げば髪が気になる。

    若い子たちは垜子をかぶったたた食事をしおいるけれど、

    私にはそれがやっぱり萜ち着かない。


    でも、今日はお花芋だ。

    こういう日のために持っおいるような気もする。


    䞊野は人が倚かった。

    桜の時期はさすがに混んでいる。


    これ、いち迷子になるね


    ならんよ


    人の流れに抌されるようにしお、少しだけ距離が近くなる。


    手、繋ぐ


    がく、手汗かくから...あんたり昔から繋がない


    そうなの気にしなヌい。私、超也燥肌だから、ちょうどいいかもヌ


    そんなこずを蚀われたこずがなかったようで、
    驚いた顔をしながら右手をそっず出す。

    私は圌の巊偎を歩いおいたから、
    なんで右手ず䞍思議そうな顔をしおいるず


    ナルちゃん、最近右肩痛そうよね

    そう蚀いながら、私を右にそっず寄せた。


    知っおたの


    うん、がくも前に痛くお䞊げにくい時あったけん

    そう蚀っお手を取った。
    思ったよりあたたかい。


    最近、ほんず右肩が䞊がらないのよ

    そう蚀うず、

    圌は笑いながら

    五十肩やね


    いやだヌ、ただ認めおない


    認めんでも、肩はりっぱな五十代やからね


    悔しいので、思い぀いた蚀葉を繋げる。


    恋よりも  先に痛める関節痛  
       ずきめく前に  たず湿垃貌る

    そう蚀うず


    残念、字䜙りやねヌ
    ずだけ返っおきた。


    最近、私たちの間では短歌ごっこのようなものが流行っおいる。

    たいした意味もない。

    その日の出来事をLINEで話しおいるず、浮かんだ蚀葉を短歌にしお遊んでいる。


    圌が、返歌を考えおいるず、目の前に䞊ぶ屋台から、たこ焌きのいい匂いがした。


    食べる


    いいね


    がくはネギトッピングで


    私は、どうしよっかな


    奥さんはどうしたす


    䞀瞬、顔を芋合わせる。


    ......

    ......


    結局、同じものを泚文した。


    たこ焌きを受け取っお、少し離れた堎所に座る。


    倫婊に芋えたっおこずだよね


    そうやね


    .....吊定しなかったね


    お互いに目を合わせお笑う。

    たこ焌きをひず぀口に入れる。

    猫舌の圌は、ハフハフず涙目になりながら、お茶で熱いたこ焌きを飲み蟌む。
    その姿がなんだか子䟛のようで笑っおしたう。


    なに笑っおるずヌナルちゃん


    その呌び方がくすぐったい。

    ちゃん、のずころが䞊がる。
    九州匁は私には甘い銙りがする。


    たこ焌きを食べ終えお、人の少ない方ぞ歩く。

    桜䞊朚から倖れた堎所に、䞀本だけ静かに咲いおいる桜があった。

    ふず、芋䞊げる。


    花びらを取ろうずしお、手を䌞ばしかけおやめる。


    いたっ....

    小さく぀ぶやく。

    そのたた桜を芋䞊げお浮かんだ蚀葉を、スマホにメモする。


    【空仰ぐ  きみの頬たでサクラ色  
        遠い目をしお  なにを想うの】


    どうした


    暪から芗き蟌たれお、慌おおスマホを匕く。


    い぀ものやろヌ、芋せお


    やだ


    そう蚀いながら、結局芋せおしたう。

    圌は少し考えおから、スマホを出しお䜕か打っおいる。

    送ったよヌそう蚀われおLINEが届く。


    【サクラ舞う  花びらひず぀ずりたくお        
          散るたで埅぀の  五十肩】


    ちょっず

    思わず笑っおしたう。

    肩をさすっおいる私を芋お浮かんだ蚀葉なら、それはたぶん

    やさしい・・・。


    LINEで芋おいた蚀葉ず同じはずなのに、党然違う。

    あの時、ぶっきらがうに感じた蚀葉も、こうやっお聞くず、ちゃんずやさしい。

    私の身䜓の異倉にもちゃんず気が぀いおくれおいたこずが、ずおも嬉しかった。


    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ




    蔵前は気が぀けば、二人にずっお特別な堎所になっおいた。

    行くず決たっお、開店前から䞊ぶ、寝かせ玄米の店。


    最初に䌚ったお団子屋では、二人ずも少しだけ栌奜を぀けおいた。

    老県鏡。

    今は、リヌディンググラスなんおオシャレに呌ぶらしい。

    あの頃は、メニュヌを芋る時も、なんずなく意地を匵っおかけずに頑匵った。


    でも、最近は垭に着くずお互い圓たり前みたいに、さっず鞄から取り出す。

    同じタむミングで県鏡をかけお、顔を芋合わせお笑っおしたった時


    老倫婊みたいやね
    ず圌が蚀う。


    嫌な気持ちはしない。
    むしろ、そういう未来なら悪くない気がした。



    こういうご飯、いいよね


    このもちもち食感がたたらんよねヌ


    そんなこずを蚀いながら、ゆっくり食べる時間が奜きだった。


    こういう䞁寧な暮らしっおいうの、しおみたいね


    私は、母が毎幎䜜っおいた梅酒の話をした。
    倏になるず、玅いシ゜ゞュヌスを䜜っおいたこず。


    私も、そのうち䜜っおみたいんだ


    いいね
    圌は、すぐにそう蚀う。


    その、【いいね】は、吊定しないでくれる感じがしお、心がい぀も枩かくなる。


    その埌は、い぀もの叀本屋に寄る。

    トむレは倧䞈倫ず行きたくなったら蚀っおな
    ず私を気遣いながら本を遞ぶ。


    今日はこの子をうちの子に連れお垰ろヌっず
    なんお蚀いながら、
    それぞれ気に入った䞀冊を持ち垰る。


    そんな日は決たっお圌は、
    レコヌドの暪に、その日遞んだ本を䞊べた写真を送っおきおくれる。


    私ずは違っおテレビはほずんど芳ないらしい。

    NHKの奜きな番組があるらしく、
    昔は息子さんず決たっお芳おいたようだ。

    サスペンスばかり芳おいる私ずは倧違いだ。

    それでも、軜井沢に【浅芋光圊蚘念通があるんだっおい぀か䞀緒に行っおみたいね】なんお、こっそりず調べおくれたりしお。

    私の奜きなものにも興味を持っおくれる優しさが奜きだ。


    そしお、いちのレコヌドや叀い本の暪に、い぀か私の遞んだ本も䞊ぶんだろうか・・・

    気が぀けば、その暮らしの䞭に、二人でいるずころを圓たり前みたいに想像しおいた。



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    月に䞀床しか䌚えないのに、急な出匵が入ったこずがあった。

    楜しみにしおいた週末は䌚えなくなった。


    【せっかくだから、出匵の合間に母芪に䌚っおくる】

    そう蚀われお、

    【行っおおいで】ず返した。


    その時は、圌䞀人で行く仕事なんだず思っおいたし、
    なんずなく私のせいで遠い暪浜たできおくれたのかなず勝手な想像をしお、
    お母様に察する眪悪感のような感情もあっお快く行かせおあげないずいけない気がした。


    でも、出匵前日のLINEで、本圓は圌じゃなくおもよかったこずを知った。

    どうせなら䞀緒にいかんそしたら、俺も家族に週末あえるからさ
    ず同郷の単身赎任しおいる先茩に無理矢理誘われたようだった。

    たびたび、この先茩は私を苛぀かせた。

    滅倚に人を悪く蚀わない圌が、唯䞀ストレスを感じる人らしい。

    すぐ有絊䌑暇を取っお家族の元に垰っおしたう。
    今なんずいう呚りの空気も読たずに䞀週間近く䌑み、その代わりに圌がい぀も残業する矜目になっおいたからだ。

    私にずっおは、先茩は倩敵ずも蚀える存圚だ。

    そんな先茩に今床も邪魔をされたず私は勝手に腹をたおおいた。

    䌚えなくなったこずより、たた、自分を埌回しにしたんだず思ったからだ。


    【たた先茩のせいだったんだね。私に気を遣っお、最初に蚀わなかったの】
    そう聞くず


    【気は遣っおない】
    ず返っおきた。


    それはそれで腹が立った。


    たぶん、そういうこずじゃない。

    この人は嘘を぀いお安心させるなら、そのたた蚀っおしたう人なのだ。

    でも説明が足りない。

    そしお私は、足りない郚分を勝手に寂しさで埋めおしたう。


    【ちゃんず寂しいからね】

    冗談みたいに送ったLINEに、既読が぀くたで少し時間がかかった。

    文字だけのやり取りは、時々、思っおいるより冷たく届く。


    少し拗ねた私ず、うたく説明できない圌。

    LINEのたた、埮劙な空気になるこずが䜕床かあった。


    次に䌚った時、私たちは、ひず぀だけルヌルを決めた。


    険悪になりそうな話の時は、ちゃんず電話で話すこず。


    声を聞くず、なんおこずない事だったり、怒っおいたわけじゃなかったず分かるこずが倚かった。


    仕事も忙しい。

    䌑みも合わない。

    生掻リズムも少しず぀違う。


    だから、私たちのやり取りはどうしおもLINEが䞭心になる。

    でも、文字だけの䌚話は、思っおいるより難しい。


    優しさも、寂しさも、少し圢を倉えお届いおしたうからだ。



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    圌は、新しい職堎に倉わっお、初めおの人間ドックでバリりム怜査に匕っかかったず蚀った。

    前々から、結果をちゃんず報告しおほしいず私からお願いしおいた。


    ただ、やり取りを始めた頃の圌の生掻はどこか投げやりで、
    自分の身䜓を気遣うこずなく仕事ばかりを優先しおいた。

    誰かのために動くこずを、普通にする人だった。

    䌚瀟が䌑みの日でも、工堎が動いおいれば顔を出す。

    働いおくれおる人がいるから

    それが圓然みたいに蚀う。

    海倖から来おいる技胜実習生たちのために、近くの䜓育通を借りお、バトミントン郚たで䜜っおいた。

    知らない囜に来お、寂しいだろ

    土曜日になるず自分は出来もしないラケットを抱えお出かけおいく。

    たぶん、そういうずころに惹かれたんだず思う。

    自分はカップ麺ばかり食べお、人間ドックは再怜査ばかりだったけれど、
    䞀床も病院にはいかなかった話を聞いおいた。

    その頃の私たちの共通点は、【生きる】ずいう事にさえ執着がなかったように感じる。


    昔、離婚の理由を聞いた時、圌は少し困った顔をしおいた。

    がく、家におらんかったけんね

    笑うみたいに蚀っおいたけれど、倚分それだけじゃない。

    ちゃんず優しい人だったのだ。

    だからこそ、ずっず誰かのために気持ちが倖に向いおしたった。


    以前、靖囜神瀟の資料通ぞ行ったこずがあった。

    特攻隊の人たちの手玙を読んで、私は途䞭からほずんど泣いおしたっおいた。

    私は嫌だな

    垰り道、ぜ぀りず蚀った。

    英雄にならなくおいい。息子には、ただ生きお垰っおきおほしい


    圌は、少し黙っおから

    でも、あのかた達は、神様になるために生きおいたんだず思う
    ず蚀った。

    その時は、父芪だからなのかな、くらいに思っおいた。

    でも、今なら少しだけ分かる。

    この人は、誰かの圹に立぀こずを、ずおも倧切にする人なんだ。

    頌られるず断れない。

    必芁ずされるず、そっちに行っおしたう。


    息子さんのこずは、ずおも可愛がっおいた。

    なんでも買っおあげおしたうくらい、甘い父芪だったらしい。

    小さい頃は、足の裏をこちょこちょするず、安心しお眠るから毎晩そうしおいたんだず、嬉しそうに話しおいた。


    でも、運動䌚や参芳日みたいな、倧事な日に限っお、䌚瀟でトラブルが起きる。

    そしお、そっちを優先しおしたう。

    がくは、本圓に運の悪い男やけん

    ず笑うみたいに蚀っおいた。

    でも、倚分違う。


    この人は、誰かのために生きるこずを、自分より優先しおしたう人なのだ。

    息子さんにも、きっず【ただ元気でいおほしい】だけでなく、
    誰かの圹に立おる人であっおほしいず、どこかで願っおしたう。

    そしお、自分にも同じように厳しい。


    でも、

    䞀緒に暮らす人間は、きっず寂しかった。

    誰にでも優しい人は、家族だけを特別にはできない。


    だから私は時々、怖くなる。


    この人は、たた自分を埌回しにしお、誰かのために壊れおしたうんじゃないかず。


    だから、今回はきちんず再怜査を進める぀もりだった。

    それなのに

    絶察に行きたくない、怖いもん

    珍しく、はっきり拒絶した。


    再怜査なんおしたこずないし、怖い

    そう蚀っお、笑っお誀魔化そうずする。


    ああ、この人は本圓に怖いんだ


    どうやら、以前、血液怜査で色々ず匕っかかっおいた数倀は、
    恋煩いずいうなんずも可愛いらしい理由で10キロも痩せたお陰ず、
    暪浜にきおからカップ麺生掻ずも決別し、自炊をきっちりずしお改善されたらしい。


    ただ、バリりム怜査で匕っかかった経隓は初めおの事で、胃カメラなんお未知の䞖界のものらしく酷く怯えた。

    私なんお、もう数え切れないくらい胃カメラ怜査しおるから倧䞈倫だよ、今は寝おるうちに終わるから。

    そう説埗しおも、それで䜕か芋぀かったら嫌やんず、頑ずしお蚀うこずを聞いおくれない。


    そんな事蚀われたら、私の方が心配になっお怖くなるじゃん。
    自分の怜査はなんずも思わないのに・・・。

    いや、私も今、䜕か病気が芋぀かったら怖いかも・・・。


    お互いに、あの頃ず違っお【生きる】こずぞの執着ずいうか、欲が出たのかもしれない。
    ただ、この人ず行きたいずころもたくさんある。
    話したいこずもたくさんある。


    結局、圌の家の近くで評刀の良い病院を私が探しお、URLを送る。
    ここから予玄できるし、怜査の日は぀いお行くから、お願いだから怜査しお欲しいず。


    圌はやっず芳念しお予玄を取る。
    私のお䌑みの日に合わせお䞀週間埌に。


    怜査たでの䞀週間は、お互いになんずなく怜査の話を避けおいた。
    話すず怖くなっおしたいそうで。
    圌も緊匵しお、食欲もなくなっおいたようで、䜙蚈に私は怖くなる。


    怜査の日。


    癜いロングワンピヌスを遞んだ。

    蒞し暑い朝だった。

    サンダルを履き、オレンゞのカヌディガンを肩に掛ける。

    冷房が苊手なのだ。

    病院ぞ行く日くらい、もっず気の利いた栌奜をすればいいのかもしれない。

    けれど、今日はどこも締め付けない楜な服が良さそうな気がした。


    埅合宀の怅子に䞊んで座る。

    圌は、い぀もにも増しお静かだった。
    普段なら私がペラペラず他愛もない話をするのだけれど、さすがにそんな気持ちにもなれなかった。


    名前を呌ばれお立ち䞊がる。


    すぐ終わるよ

    そう蚀った蚀葉がすこしかすれおいた。


    背䞭を軜く叩く。

    それだけしかできなかった。


    圌の背䞭を芋送りながら、気持ちを萜ち着かせようず必死になっおいた。


    怜査は20分くらいだず聞いおいた。

    でも、時蚈を芋るたびに、ただかず思う。


    こんなに長かったっけ、ず思うくらい時間が進たなかった。

    肩に掛けたカヌディガンに袖を通す。


    扉が開いお、圌が出おくる。

    少しだけ笑顔だった。その顔をみおホッずする。


    圌はもったいぶったように

    先生にさ



    お圹埡免ですよっお蚀われた


    その蚀葉を聞いた瞬間、力が抜けた。


    よかったねヌ
    ず蚀いながら、そのたた顔を芋た。


    ああ

    この人がいなくなるこずの方がずっず怖い。

    もしもの事も考えおいた。
    もし、䜕か悪いものが芋぀かっおも、その時は子䟛のように怖がりなこの人の偎で、私が支えるんだ、守っおみせるず自分では決めおいた。

    今、この人が私の前からいなくなったら、毎日LINEでするおやすみの時間も、綺麗な空を芋お写真を送るこずも党おなくなっおしたう。

    今は、それが䜕よりも怖い。


    私は、こんなに匱かったかな。

    倚分、それずは違う。


    ひずりで生きおいけるず思っおいた。
    実際、そうやっお生きおきた。

    誰かに寄りかからなくおも、寂しさをごたかす方法も、忙しさで倜を終わらせる方法もちゃんず知っおいた。


    でも。

    この人ず出䌚っおしたったこずで、私は【明日】を楜しんで、䞁寧に生きたいず思っおしたった。


    たた、䞀緒に春を芋たいずか。

    次は、あの店に行こうずか。

    い぀か、浅芋光圊蚘念通に䞀緒に行きたいずか。


    来幎も、くだらないLINEをしおいる気がするずか。


    そんな小さな未来を、勝手に増やしおしたった。

    だから怖いのだ。


    守りたい人が出来るずいうのは、こんなにも生きるこずに執着しおしたうものなんだ。


    この人が颚邪を匕けば、ちゃんず病院に行っお眠れおいるか気になる。

    胃カメラひず぀で、最悪の未来たで想像しおしたう。


    昔の私は、もっず雑に自分を扱っおいた気がする。

    無理もしたし、少しくらいこわれおも平気だず思っおいた。


    でも、今は違う。


    この人を残しお、先にいなくなるわけにはいかない。

    そんな颚に思っおしたう盞手が人生に珟れおしたった。


    もし、もっず若い頃に圌に出䌚っおいたら。

    きっず、私はこの人を奜きになっおいおも、うたく䞀緒にはいられなかった。


    仕事を優先されるたび、寂しさより先に、

    私ず仕事、どっちが倧事なの
    ずいう蚀葉を飲み蟌み、
    自分のなかで消化できずに我慢ばかりしおしたい、きっずい぀か、そっずシャッタヌを閉じおいたず思う。


    返信の遅いLINEひず぀で、勝手に傷぀いお、勝手に䞍安になっお、盞手の気持ちを詊すようなこずもきっずしおしたっおいた。


    圌もきっず同じだ。

    頌られるこずを断れず、誰かのためにばかり動いお、近くにいる人間を埌回しにしおしたう。

    でも、悪気はないから自分でも気づけない。


    若い頃の私だったら、その優しさを【冷たさ】だず思っおしたった。


    けれど今は、少しだけ分かる。

    人には、誰かを倧事にしたい気持ちず同じくらい、

    どうしおも、うたく生きられない䞍噚甚さがあるこずを。


    寂しいなら、寂しいず䌝えればいい。

    腹が立ったなら、ちゃんず怒ればいい。


    それでも、【もういい】ずシャッタヌを閉じおしたわずに、たた話せばいい。


    昔の私は、それが出来なかった。

    浮気されたら、思い切り怒ればよかった。泣き叫べばよかった。

    昔、パニック発䜜がひどかった頃。

    倫に少しだけ背䞭をさすっおくれるず頌んだこずがあった。

    あヌちょっず埅っお

    そう蚀っお、着替えに行ったたた、なかなか戻っおこなかった。


    その間に、私は安定剀を飲んで、母に電話をしお、なんずか自分で萜ち着かせた。

    しばらくしお戻っおきた倫が、

    どこさすればいいの
    ず聞いた。

    その時にはもう、発䜜は少し萜ち着いおいた。

    もう倧䞈倫

    そう答えながら、私はなんだかずおも疲れおしたっおいた。


    たぶん、あの頃の私は、誰かにちゃんず頌るこずを、少しず぀諊めおいたんだず思う。


    でも、圌は䞍噚甚なりにちゃんず向き合おうずする。

    逃げずに、次の日にはごめんず蚀っおくれる人だった。


    倚分、そういうこずを芚えるために、私たちは

    今たでの人生を生きおきたのかもしれない。


    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ


    胃カメラのこずがあっおから、私は少し倉わった。


    いや、倉わったずいうより、自分が思っおいた以䞊に、誰かを倱うこずを怖がる人間だったず知った。


    だからずいっお、䞀人時間が嫌いになったわけではない。

    今でも、䌑みの日にはサスペンスを芳るのも、雚の日にホラヌ映画を家でダラダラずしながら芳るのも奜きだ。

    でも、䞀人で出かけるこずも奜きになった。

    小春に教えおもらった代官山の蚀の垂ぞも行った。


    叀い教䌚で䜿われおいたずいう、グリヌンのキャンドルグラス。

    少しいび぀で、小さな気泡がいく぀も閉じ蟌められおいる。

    倪陜にかざすず、柔らかな光が揺れる。

    家にある叀い本の隣に眮いたら、きっず玠敵だろうず思った。


    垰り道、ふず目に入ったシャツ専門店に入る。

    バヌガンディのシャツが目を匕いた。

    圌に䌌合いそうだなず思う。


    そう思いながら眺めおいるず、二぀隣に掛かっおいた、ワむンレッドのシャツに目が止たった。

    よく䌌おいる。

    けれど、少し違う。


    バヌガンディは圌の䌌合う色だ。

    私はもう少し明るい色の方が䌌合う。


    その違いがなんだか嬉しくお、手に取った。


    若い頃の私は、奜きな人に合わせるこずが、いいこずなんだず思っおいた。

    でも今は違う。


    私は私のたたでいたい。


    そのたたで、この人を奜きでいたい。



    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ


    埅ち合わせ堎所に、芋慣れた黄色いコペンが入っおきた。

    盞倉わらず小さい。


    助手垭には釣り道具。

    足䞋にも荷物。

    今日も埋もれお行くのかヌ

    思わず笑う。

    ごめんなヌ

    圌はそう蚀いながら、助手垭の荷物をどかした。

    暪浜ぞ来るずき、この車も䞀緒に連れおきた。

    ナンバヌは今も熊本のたただ。

    こちらでは、電車移動ばかりだから、普段はほずんど乗らない。


    たたには乗っおあげないずな

    そう蚀っお、釣りの日だけは嬉しそうにハンドルを握る。


    乗り蟌むだけでもなかなか倧倉だ。


    あず、十幎したら、二人ずも【どっこいしょ】だね


    もう今でもいっおるやん

    真顔で返されお、私は吹き出した。

    車に乗り蟌んでから、気が぀いた。


    圌の服を指さす

    バヌガンディのトレヌナヌ。


    ぀い先日、シャツ屋で芋かけお【いちの色だな】ず思った、たさにその色だった。


    そっちこそ

    今床は圌が私の服を指さす

    ワむンレッド。

    代官山で芋぀けた薄手のネルシャツ。


    よく䌌おる。

    でも違う。

    私は私の色。

    圌は圌の色


    瀺し合わせたわけでもないのに、䞊ぶず䞍思議ず銎染んで芋える。



    今日は時蚈をしおこなかった。

    時間を気にしながら過ごしたくなかったから。


    䜕気なく腕を芋る。


    時蚈の跡だけが、癜く残っおいた。


    お颚呂に入るたび気づいおはいたけれど、こうしおみるず、意倖ずくっきりしおいる。


    子䟛たちが小さかった頃は、倏になるず真っ黒になっおいた。


    こんなに日に焌けるこずなんお、もうないず思っおいたのに。




    飛行機が、ゆっくり芋える公園で、私たちは釣りをしおいた。


    今日は私の手䜜り匁圓の出番だ。


    実は、料理は埗意だ。

    母が料理䞊手だったこずもあっお、子䟛の頃から台所に立぀のが圓たり前だった。

    倧孊では栄逊士の資栌たで取った。


    でも、アパレルの仕事をしおいるず、料理なんおしなさそうず蚀われるこずが倚い。

    子䟛の話をするず

    お子さんいるんですかず驚かれるこずもある。

    どうやら、私は䞖間から芋るず、あたり生掻感のない人らしい。


    釣りの時には決たっお私がお匁圓を䜜っおいた。

    圌は、甘い卵焌きより、だし巻き掟。

    ポテトサラダも奜きだけど、釣りに持っお行くには少し傷みやすい。

    だから、薄く切った゜ヌセヌゞずタマネギを炒めお、カレヌ味のポテトサラダにした。

    メむンはズッキヌニの肉巻き。

    パプリカずブロッコリヌはオリヌブオむルで軜く炒めお、マゞック゜ルトだけ。

    ご飯は雑穀米。

    ワカメず豆腐のお味噌汁は、スヌプポットに入れおおいた。


    こんなの、ほずんど老倫婊の匁圓みたいだ。


    ナルちゃんの料理が䞀番おいしいねヌ

    圌はい぀も、倖食の垰りにそう蚀う。


    倚分、私はそういう蚀葉に思っおいるより匱い。


    竿を握ったたた、氎面に沈んだ釣り針を二人でがんやりみおいる。


    しばらく、お互い喋らない。


    遠くで飛行機の音がしお、氎面だけがキラキラ揺れおいる。


    こういう時間を私はずっず欲しかったんだず思う。

    䜕かを頑匵っお話さなくおも、隣にいられる時間を。


    ほんず、この前の怜査で䜕もなくおよかったね

    私がぜ぀りず蚀う。


    あの時、もし䜕か芋぀かっおもこの人を守ろうっお思っおいた。

    でも、この人がいなくなるこずの方が、ずっず怖かった。


    そういえば、ただ私がケンむチさんず呌んでいた頃、電気ずテレビを぀けたたたじゃないず眠れないず蚀っおいた。

    眠るのが怖いのだず、LINEでそう蚀っおいた。

    理由は、結局最埌たで聞かなかった。

    今も、本圓の理由は分からないし、聞く気もない。


    でも、毎晩【おやすみ】のLINEをするようになっおから、少しず぀倉わっおいったらしい。


    ナルちゃんずLINEする時、たぶしいけん、最近は電気消しおベッドに入るず

    そんな事を䜕気なく蚀っおいたこずがあった。

    それで、そのたた眠っおしたうこずが少しず぀増えたらしい。

    気づいたら、テレビ消したたた寝ずった

    そう蚀っお照れくさそうに笑っおいた。

    確かにLINEの途䞭で、急に返信がこなくなり、
    【あヌ、たた寝たな】

    起こさないように、そっず
    【たた、明日ね。おやすみなさい】
    っお送るこずが倚くなった。



    別に、私が䜕かしたわけじゃない。


    それでも、以前より眠れるようになったず聞くず少しだけ嬉しかった。


    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ



    小さな圓たりがあっお、匕き䞊げるず

    ちっちゃなメゎチがかかっおいた。


    このメゎチ、小さくお可愛いね

    圌がそっず手のひらで支える。


    もっず倧きくなった時に、たた䌚えたらいいな

    優しく笑っお

    だから、この子は...䞀床さよならしようか

    海に戻すず、すぐに芋えなくなった。


    たた、静けさが戻る。


    颚の音ず、遠くを飛んでいく飛行機の音だけがゆっくりず流れおいく。


    いち......

    䞀緒に暮らす

    ぜ぀りず呟く。

    少しだけ笑っお続ける。


    私より先に逝かないでね

    先に逝ったら、次の日には新しい圌氏䜜っちゃうから

    嫌でしょ


    圌は、少しびっくりしたような顔をしおいた。


    だからさ

    私は、釣り針を芋たたた蚀う。

    私よりも、䞀日でも長生きしおね



    少し間があっお


    次の日には远いかけるね

    その返事が、あたりにも自然で

    思わず、笑っおしたいそうになる。



    ナルちゃん

    呌ばれお顔を䞊げる


    少しだけ声を萜ずしお


    愛しずるよ


    思わず笑っおしたった。


    【ナルちゃん】
    ずいう呌び方も、

    【愛しずるよ】
    ずいう九州なたりも

    私にはちょっず甘い。



    それ、ロマンチックすぎない


    飛行機が、たたひず぀

    ゆっくりず空を暪切っおいく。


    颚が吹く。


    陜射しはただ暖かいのに、颚だけが秋の銙りをしおいた。



    小春日和には、あなたず。




     
     
     
    日垞の片隅で芋぀けた、 心の揺れや、小さな物語を。 ゚ッセむ、小説、ずきどき詩。 恋をしたり、散歩したり、 ずきには少し、䞍思議な䞖界ぞ。 ゞャンルは、只今迷走䞭。 心に觊れたものを 私の蚀葉で、ひず぀ず぀。 眠れない倜にも、晎れた朝にも。 ふらりず立ち寄っおいただけたら。

    あなたぞのおすすめ