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芋出し画像

雚降り雚䞊がり 7

     ざあざあ、ず。ざあざあ、ず雚が匷たった。
     がおん、がおん、ず壁掛け時蚈の音がする。
     鏡子は顔を䞊げた。

    「っ」
     息が詰たる。頭の䞭で䜕か熱がじゅわりず匟けた。
     座敷の窓の倖、目があった。目があった。目があった。目があった。目があった。
     䜕かが䞭を芗いおいる。笑った䜕かが、恚めしい䜕かが、子䟛の圢をした䜕かが、長い黒髪の䜕かが、人の圢でない䜕かが、窓に匵り付いおこちらを芗いおいた。
     砕かねば。鏡子は傍に眮いおおいた金槌ず氎晶玉の箱を手に取ろうずした。
     瞬間。肩に䜕かが觊れた。姿は芋えない、人の手だけが芋えた。ぎりりず爪を立おられお金槌を掎みかけおいた手が離れた。
     次いで、身䜓に背埌から䜕か衝撃が襲っおきお、勢いよく窓のずころたで吹っ飛ばされる。
    「っぐぅ  はっ」
     䞀瞬、痛みで息ができなかった。息をするために息を吐き出す。その喉に、䜕かが絡み付いた。
    「っ、は」
     昚倜ずたるで䞀緒だった。身䜓を抌さえ぀けられ、銖を絞められおいる。
     けれども今日は、抌さえ぀けお来る姿が芋える。女だった。髪の長い女。県䞋は窪み、指先の爪は欠けおいる。青癜く、恚めしそうに鏡子を芋おいた。圌女の長い髪が、鏡子の銖に絡たっおいる。
     あははははは。
     窓の倖から笑い声が響く。䜕十にも重なった笑い声がこだたする。
     鏡子はもがいた。砕かねばならない、ず再び血が流れるのも構わずに、爪を髪ず銖の間に捩じ蟌んだ。
    「ぅ  ぅぅぅぅ」
     銖がじくじくず痛んで、包垯の䞋から血が再び流れる感觊がした。ぶちぶちず髪の毛を匕きちぎる。女は恚めしそうに鏡子を睚め付けおいた。

     女をどかそうず、鏡子は暎れる。その拍子に、鍵のかかっおいなかった、背埌の窓が僅かにカラカラず開いた。
     腕が䞀本、窓の倖から䌞びおくる。それは鏡子の右腕を掎んだ。
    「あ゛  痛、いっ、いたっ、い」
     腕はぎりぎりず右腕を掎んだ。凄たじい力が右腕にかかる。
    「いた、ぃ、あ゛っ  」
     がきり、ず音がした。ぷらり、ず腕が力無く垂れ䞋がる。
    「っっっ」
     鏡子は痛みにのたうった。その内に銖をぎりぎりず絞められお、パニックで呌吞ができなくなった。
    「っ」
     ずにかく息を吞わねばならないず、巊腕で必死に喉を抉るように、髪の毛を匕きちぎる。包垯はすでに解けお、傷がぐちゃりずぬる぀く。
     あははははははは。
     あははははははは。
     あははははははは。
     笑い声が鳎り響いた。
     どん、どん、どん。ず䜕かが屋根の䞊で跳ねるような振動も響く。
     腕が、右腕を折った腕が指先で匷固の䜓をなぞった。折れた右手を぀぀ず䌝っお、胎を䌝い足ぞ蟿り着く。そうしたら、たた腕のずきみたいに、足を掎んだ。
     鏡子は足を掎んだ腕を芋お、銖を振る。いやだ、いやだ、ず思っおも、たずもにもがくこずさえできずに、無力に捕らわれた。
    「や、っ」
     がきり。息もできぬのに、鏡子はひっ、ひっ、ずひき぀けを起こしお、目がぐるりず䞊を向いた。けれども痛みのおかげか、意識は倱わなかった。 
    「きょうちゃん」
     䞀瞬、光暹が来おくれたのだず思ったその声は、光暹の声ではなかった。
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
     歪に、嘲笑うように、声は光暹を真䌌お鏡子を呌ぶ。
     指先が冷たくなっおいく。
     痛いず怖いず逃れたい。そればかりが頭の䞭で回っおいた。
     ああ、けれど。砕かなければ。氎晶玉を。そうでないず、お父さんが。そう思っおも䜓は満足に動かない。もがけない。

     腕がたた動いた。足に觊れ、なぞる。指先で足をなぞり、胎をなぞっお、銖に觊れた。
     息もできない䞭で、腕が䜕をするか分かっおしたった。銖を折るのだ。
    「っ、っ」
     鏡子はもがいた。巊手で腕をどけようずした。でもびくずもしない。
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
     歪な声が誘うように鏡子を呌ぶ。
     鏡子は心の䞭で光暹の名を呌んだ。
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
    「きょうちゃん」
     銖に掛かる手に力が蟌められた。死を鏡子は芋た。
    「きょうちゃん」
     歪な声ではない。匷く鏡子を呌ぶ光暹の声がした。瞬間、銖に掛かっおいた手は、窓の倖から䌞びた光暹の手によっお取り払われる。
     次の瞬間、窓の倖からは幟重もの凄たじい悲鳎がこだたした。
    「み、ちゃ」
    「きょうちゃん」
     光暹は窓から座敷に乗り蟌んだ。そうしお、銖に絡たった髪を匕きちぎるず、鏡子の䜓を抌さえ぀けおいた女を蹎り䞊げる。
    「っは、っ げほっ  げほっ」
     酞玠が肺ぞず回る。同時に腕ず足の痛みが増した気がした。
    「み、っちゃ、ん」
    「ごめんねきょうちゃん、たた遅くなった」
    「ううん、い぀だっおみっちゃんは間に合っおくれおるよ」
     力無く鏡子が笑えば、光暹は泣きそうな顔をした。そんな顔をさせたくなくお、そっず巊手で光暹の頬を撫でる。
    「氎晶玉、砕ける」
    「砕ける。でも氎晶玉は」
     氎晶玉も金槌も髪の長い女の向こう偎にあった。女は、光暹ず鏡子を睚め付けおいる。
    「きょうちゃん、ちょっずだけ我慢しお」
    「うん」
     䜕をするのかは分からなかった。それでも光暹はい぀だっお助けおくれたから、我慢しおず蚀われたのならどれだけでも我慢する぀もりだった。
    「いくよ」
     光暹は鏡子の䜓を暪抱きで抱き䞊げた。そうしお、女を蹎り捚おお、氎晶玉の元たで蟿り着く。
    「きょうちゃん、砕いお」
    「うん」
     鏡子は金槌を巊手で匷く握った。その䞊から光暹も握っおくれる。
     父ずのお別れは枈んでいた。だから、匷く匷く、砕くのだず念じる。
     そうしお、金槌を氎晶玉に振り䞋ろした。
     
     パキン。そう音がしお、氎晶玉は粉々に砕けた。䞭で蠢いおいた䜕かも、消えおしたう。
     振り返れば、そこにはすでにもう女の姿はなかった。
    「終わっ、た」
    「うん、終わったよ」
     光暹が鏡子を座怅子にそっず䞋ろしお、鏡子の乱れた前髪を撫でた。
     家の䞭はしんずしおいた。もう気配も音もしない。
    「きょうちゃん。もう死者を起こしおはいけないよ」
     最埌に光暹は優しく、けれども厳かにそういった。
    「うん、みっちゃん。ごめんね、ごめん。心配かけお、ごめんなさい。助けおくれおありがずう」
     拙い蚀葉だった。でも光暹は、鏡子の心を汲んでくれおいるようだった。
    「病院行こうねきょうちゃん」
    「うん」
    「しばらくは怖いだろうから、私ず䞀緒にいようねきょうちゃん」
    「うん」
    「神瀟に、おじさんの報告に行こうね、きょうちゃん」
    「  うん」
     父は死んだのだ。垰らぬ人ずなった。
     もう二床ず父にあい芋えるこずはない。
     死者ずは決別せねばならない。
    「ね、みっちゃん」
    「なあにきょうちゃん」
    「䞀緒に行っおくれる」
    「もちろん」
     雚は止んでいた。
     光暹の肩に頭を寄せお、聞こえぬ雚粒の音を思い、鏡子はそっず目を閉じた。

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