
介護とは何か【介護崩壊を防ぐために】⑧私がたどり着いた介護観
◎介護とは何だろう
このシリーズを書き始めた時、私は一つの問いから出発しました。
「介護とは何か。」
病院で十年以上勤務し、その後特別養護老人ホームでも働き、多くの利用者さんと出会いました。
その中で私は、
「生活を見る」
「人として見る」
「安心とは何か」
そして、
「安心を支え続けることの難しさ」
について考えてきました。
振り返ると、その答えは最初から分かっていたわけではありません。
異業種へ転職し、生活が少し落ち着いた頃、不思議なことに、施設で介護士として働いていた頃の出来事が、まるで走馬灯のように次々と思い出されるようになりました。
利用者さんとの何気ないやり取り。
うまく対応できなかったこと。
心が揺れた出来事。
当時は答えが分からないまま過ぎていった一つひとつの経験が、改めて私の中で問いとして浮かび上がってきたのです。
そんな時、偶然図書館で高口光子さんの書籍を手に取りました。
読み進めるうちに、それまでバラバラだった私の経験が少しずつ一本の線としてつながっていくような感覚がありました。
そして、自分自身の経験と重ね合わせながら考え続ける中で、私なりの介護観が少しずつ形になっていったのです。
◎人は一人では安心できない
私は以前、
介護とは技術を身につける仕事だと思っていました。
もちろん技術は必要です。
しかし、それ以上に大切だったのは、
人が安心できる関係をつくることでした。
安心すると表情が変わる。
身体の動きが変わる。
食事が進む。
帰宅願望が落ち着くこともある。
私は病院や施設で、そのような場面を何度も見てきました。
そして、それは利用者さんだけではありません。
介護職員も、
家族も、
安心できる環境の中でこそ、本来の力を発揮できるのだと思います。
◎「強い人」が介護を続けられるわけではない
私は以前、
介護が長く続く人ほど精神的に強い人なのだと思っていました。
しかし今は違います。
むしろ、
相談できる人がいる。
休める。
失敗を責められない。
チームで支え合える。
そうした環境がある人ほど、介護を続けやすいのではないかと思っています。
人は一人で安心を支え続けることはできません。
だからこそ、
支える人にも支えが必要なのです。
◎職場で感じた違和感
私は介護や病院で働く中で、
厳しい言葉が飛び交う場面も見てきました。
経験豊富な職員ほど仕事ができる一方で、
新人が質問しづらい雰囲気になってしまうこともありました。
もちろん、
すべての人がそうではありません。
しかし、
忙しさや責任の重さの中で、
人は少しずつ余裕を失ってしまうことがあります。
私は、それを個人の性格だけの問題とは思えなくなりました。
安心を失った環境では、
誰でも防衛的になってしまう可能性があります。
だからこそ、
介護崩壊を防ぐためには、
利用者さんだけではなく、
働く人が安心できる職場づくりも必要なのだと思います。
◎介護とはチームで支える仕事
私は、このシリーズを書きながら、
介護職だけで介護を支える時代ではないと感じるようになりました。
医師。
看護師。
リハビリ職。
管理栄養士。
社会福祉士。
ケアマネジャー。
そして、
心理職。
それぞれ専門性は違います。
しかし目指すものは同じです。
利用者さんが安心して生活できること。
家族が安心できること。
そして、
支える人も安心して働けること。
そのためには、
一つの専門職だけでは限界があります。
互いの専門性を尊重しながら支え合うことが、
これからの介護には必要なのではないでしょうか。
◎私がたどり着いた介護観
私は今、
介護とは、
食事や排泄を援助する仕事でも、
認知症に対応する仕事でもなく、
「安心を支える仕事」
なのだと思っています。
そして、その安心は、
利用者さんだけに向けられるものではありません。
家族にも。
介護職にも。
そして、
支援する専門職同士にも必要です。
人は安心すると、
本来の自分を取り戻しやすくなります。
その安心を、
一人ではなく、
多くの人が支え合う。
私は、それが介護の本質なのではないかと思っています。
◎おわりに
このシリーズでは、
高口光子さんの介護観を手掛かりに、
私自身の経験や心理学、そして神経系の視点を重ねながら、
「介護とは何か」
について考えてきました。
ここに書いたことは、
一つの答えではありません。
私自身が現時点でたどり着いた、一つの介護観です。
これからも現場で働く方々や、介護を受ける方、ご家族、そして心理職をはじめとするさまざまな専門職との対話を通して、この問いを考え続けていきたいと思います。
もし、このシリーズが、介護という仕事を少し違った視点から考えるきっかけになれば、とてもうれしく思います。