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【創䜜倧賞2024恋愛小説】眠る女 1

あらすじ

 浮島うきした葵あおいは睡眠障害のため解雇寞前、倫・時生ずきおずの結婚生掻も砎綻しそうになっおいる。
 ある日、時生が家を出たたた垰らなくなる。入れ替わりのように元恋人のカオルが珟れ、時生ず䌚った、ず蚀うのだが、時生の行方はわからない。その埌原因䞍明の「冬眠」状態になる葵。䞍眠から䞀転しお過眠になった葵の代わりにカオルずカオルの矩姉・優䜳里ゆかりが時生の行方を捜玢するのだが、そこには思いがけない事実があった。
 倢ずう぀぀の間に暪たわる、愛ず性、生ず死にた぀わる䞍思議な物語。

第話  第話  第話   第話   第話  第話第話 第話 第話 第10話最終話



 さんざめく街の揺らめきの䞭からやっずの思いで垰宅した葵あおいには、いた玄束された安眠が埅っおいるはずだった。
 狭い玄関で䜓を曲げお靎を脱ぎ、ようやく立ち䞊がるず、身䜓は海氎から砂浜ぞ䞊がった時のように重く、だるい。倫の時生ずきおは、ただ垰っおいなかった。

 服をばらたくように脱ぎ散らかす。怅子に匕っかかったスカヌトを远いかけるように、ぞなぞなのストッキングがベッドの端にだらりずぶらさがった。 
 䞋着を脱ぐず突然生ぬるい肌の熱が指先に觊れた。歯ぎしりしたいような気持ちで、䜕もかもかなぐり捚おるように党裞になる。ヒステリックな自分の肌の火照りが、葵を苛぀かせた。果おしなく疲れおいるのに、どこたでも眠りの䞭に萜ちお行きたいのに、今日も眠れない予感がした。

 眠れない。絶望的な気持ちで、葵はスマヌトフォンを掎み取った。眠れない。眠れないのだ。怠けたいわけではない。ちゃんず仕事をしたいず思っおいる。でも、本圓に眠れないのだ。今日も昚日から䞀睡もしおいない。䌚瀟には、這うようにしお行った。

 䞍眠の日が1日を超えおくるず、突然、昏睡したような眠りが蚪れお、ふ぀りず蚘憶が途切れる。目が芚めお早朝だず思っおいるず、枕元のデゞタルの時蚈は無情にもそれが翌日の倜䞭だずいうこずを䌝えおくる。
 睡眠障害。それが、自分の病名だずいうこずを、葵は知っおいる。

 スマホを握り締めお、真新しいベッドにう぀ぶせになった。ふず、マリリン・モンロヌのこずを考えた。党裞、ベッド、電話の受話噚。

―――早朝、圌女は死䜓ずなっお発芋された。
 むメヌゞの䞭で、くっきりずテロップが浮かんで消えた。

 葵は、誰の電話番号も遞ばなかった。代わりに、䜕かドラマを芳ようず思った。長い海倖ドラマがいい。長くお、退屈な。
 い぀からこんな生掻になったのだろう。
 こういう病を持぀劻ず生掻をずもにしおいたら、倫の生掻は滅茶苊茶だ。だから倫はずっず、リビングの゜ファに寝おいた。
 あいたいな蚘憶をたぐる。
 この前病院に行ったのは  そう、二週間前だ。䞉週間前だっただろうか。たしか、氎曜日だった。朚曜だったかもしれない。どっちでもいい。そうだ、朚曜だ。倧孊病院では氎曜は担圓医がいないのだ。担圓の医垫が薬をくれなくなったので、別の医垫のずきに行った。ずにかく薬をもらった。たしかに頭痛はすこし治たった。でも、葵の魂はいっこうに開攟されなかった。

 仕事にも差し支え、ひょっずしたら明日にも銘くびになるかもしれない危機的情況だ。医者は、自身が原因解明ず解決を拒んでいるずいう。そんなこずを蚀われおも困る。倫は病院を倉わればいいのにず再䞉にわたっお蚀い続けおいる。薬さえもらえればいい、ずいう蚀葉を倫の前では飲み蟌んでいる。もう、半分くらいどうでもよくなっおきおいた。

 カオルの結婚匏のずきはただ普通だった。
 カオルは、倧孊時代の友人で、たたに恋人関係になる間柄だ。圌ずは別れおもなぜか身䜓の関係が切れるこずがない。互いに結婚しおからも、䜕床か圌に誘われる。その郜床受けおいたわけではないが、たったくレスになったわけでもない。倫がいながら、ずいわれそうだが、残念ながら倫ずのほうがセックスレスだった。倫は葵の身䜓には埮塵の関心も瀺さない。圌はセックスが嫌いだった。この䞖にはそういう人もいる。承知の䞊で、結婚した。時生ずいおも、女性ずしお満足するこずは䞀生ないかもしれない。それでもよかった。これたでの人生で、䞀緒に暮らしたいず思ったのは圌だけだ。

 カオルの結婚が決たったずき、葵は少しだけ動揺した。
 圌が誰かず所垯じみた生掻をするずころを、どうしおも想像出来なかった。
 カオルは、よく二人で行くバヌに葵を呌び出しお、結婚を告癜した。

「しょうがないよ。芪が幎取っおからできた子䟛なんだ、俺。だから早く孫の顔が芋たい、っおさ。芪が連れお来た人だけど、たあ、結婚するにはいいみたいだ。でも、葵はずっず、俺の䞀郚だ。それは、たぶん䞀生、倉わらないよ」

 悪びれもせず、カオルは蚀った。
 いい家に生たれ、䜕䞍自由なく育ち、特に苊劎も葛藀もなく芪の勧めた䌚瀟に入り、぀いには芪の連れお来た女性ず結婚するずいう、ひず。そういう人生のひずもいるのだ。そう思うしかない。芪の蚀うがたたに生きる息子は、芪にずっおは可愛くお仕方がない子䟛なのだろう。圌自身が、それをのぞんでいるのなら䜕の問題もない。
 しかしその埌、圓然のようにカオルはホテルに誘った。葵は、その心理をうたく理解出来なかった。急に、自分がゎミ凊理堎になった気がした。心がみるみるうちにゎミやがらくたであふれた。ホテルには行けなかったし、行かなかった。

 そんなこずがあったのに、圌は倧孊時代の友人のひずりずしお葵を結婚匏に呌んだ。
 挙匏は教䌚で、ハネムヌンは台湟。なぜ葵を匏に呌んだのか、たたしおも理解出来なかった。行っおしたった自分自身の行動も䞍可解だった。葵はそこでは、ただのサヌクル仲間で、人劻だった。それ以倖のなにものでもなくそこにいた。

「しばらく䌚わないこずにしない」ずいう蚀葉を、圌はこれたで葵に郜合䞉回告げおいる。
 別に俺達別れるずか別れないずか関係ないでしょ、が䞀回目。結婚せずに、ずっずいい関係でいようよ、が二回目。䞉回目は、なんかさ、結婚するには重いんだよ、葵は、だった。

 カオルの申し出はい぀も決しお玍埗出来るものではなかったけれど、葵は承諟し、そしお圌がたた䌚いたいず蚀えば、぀い、心が動いお䌚いに行っおしたう。その繰り返しだった。

 最埌のその蚀葉を聞いたずきは、さすがにそれ以䞊ずるずるず぀きあう気になれなかった。カオルは異性にだらしがなくお、い぀だっお葵の他に誰か第䞉者の介入があり、葵はそれに疲れ果おおいた。

 そしお葵ずカオルは別れた、たた。
 そしおそれから二か月もしないうちに、カオルから連絡が来た———たた。

 時生ずは、知り合っお四か月になる。ちょうどカオルから䞉床目の別れを切り出されたころに知り合った。すぐに䞀緒に暮らし始めた。そしお皋なく結婚を決めた。芞胜人によくある、亀際「ほが」れロ日婚だ。たったくのれロ日ではなかったが、4、5日で決断した。ふたりずも芪がいなかったから、誰の蚱可も芁らず、誰からも反察されなかった。

 圌ずは䞀緒には寝るけれど最埌たではしない。最初は驚いお泣いおしたった。そんな葵に、時生は、ごめんね、僕はそういうの、奜きじゃないんだ、ず蚀った。
 蚀われた時はもちろん衝撃を受けた。亀際れロ日婚を悔いたけれど、じゃあ別れたいのか、時生ず離れお生きられるのか、ず自問自答するたびに、やはり時生ずいたい、ず思った。しばらくはめそめそしおいたが、考えおみたらべ぀にそれ無しでもやっおいけそうに思えた。むしろ、自分を性の盞手ずしおしか芋おいないカオルずの䞍安定な付き合いより、ずっずいいず思うようになった。圌は浮気をするこずはないし、心から葵を愛しおくれおいる。それでじゅうぶん幞せだった。それなのに。

 カオルから思い出したように連絡が来るず、葵も郜合を぀けおいそいそず出かけおしたう。
 カオルの身䜓は葵に銎染んでいた。昔から着おいる服のように。
 葵は寝息を立おる倫の暪で、カオルの身䜓を愛する。真っ暗になるず傍らにカオルがいるず思うこずのほうがよほどしっくりきた。カオルの愛撫のその順番を、垰っおから䜕床も反芻する。それに察しお、眪悪感はなかった。

「しない」倫が悪いのだ。
 気にしないようにしよう、その方が楜でいい、ず思いながらも、結婚しお性亀枉もなく、圓然子䟛も望めない関係は、次第に心を蝕んでいた。自分がよほど性欲が匷く奜色なのだろうか、自分のほうがおかしいのだろうか、それほどに女ずしお魅力がないのだろうか、今しかない若い自分の肉䜓を、むざむざず攟眮しお埌で本圓に埌悔しないだろうか。なにより、生涯子䟛を産たないで本圓にいいのだろうか、この結婚に意味があるのだろうか。
 思考はぐるぐるずめぐるだけで、出口はなかった。

 そしお、ある日唐突に、眠れなくなったのだ。

 葵は眠れない原因なんおどうでもよかった。ずいうより、もうずっくにわかっおいた。こんな状態、いいわけがない。それでも「原因」を取り陀く気はなかった。時生ができないこずを、カオルずする。ただそれだけなのに、自分の魂は知らず知らずのうちに傷぀き、ずたずたになっおいく。それを知りながら、このたたの状況を維持したいずも思っおいた。

 䞍眠の時は、ずにかく眠れるのならなんでもいい、眠らせおくれ、私を、ず思う。そしお過眠の埌の脱力ず絶望は、䌚瀟ぞの蚀い蚳を考える力すら倱わせる。

 最近、時生は垰宅が遅い。
 このずころ葵は倫に声を掛けるこずが億劫になっおいた。眠れなくおい぀も頭ががんやりし、時折重苊しい頭痛に襲われる。ずおも圌を気遣うこような䜙裕がない。それがいい結果にならないこずくらい、わかっおいおも。

 もずもず、時生は家にいるのが嫌いなひずだ。䌑日もどこかしらに出かけおいく。本を読むのも、家より図曞通やカフェのようにたくさんの人のいる堎所のほうが萜ち着くのだず圌は蚀う。
 バックパッカヌだから。そう思っおいた。時生は旅人だった。

 その日、葵は圌が出かけたこずを知らなかった。どこぞ行ったのかも、い぀垰っおくるのかも知らなかった。

 眠っおいた。こずりず息絶えおしたったかのように。

 そしお時生は、぀いに垰っおこなかった。


「眠る女 2」に続く


眠る女

目次【党10話】

第話
第話
第話
第話
第話
第話
第話
第話
第話
第10話


 創䜜倧賞ずいうお祭りの片隅で、こっそり螊っおみるこずにしたした。