
No.2【2026年10月改正・実務判断編】借上社宅は見直すべきか?
― コストへの影響と、制度見直しの判断ポイント ―
※本記事は借上社宅制度の改正に関する解説です。
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■改正への対応と、制度の見直しを分けて考える
2026年10月1日から、
社会保険における住宅の現物給与価額と算出方法が変わります。
これまでの
「居住室の畳数×1畳当たりの価額」から、「住宅の総面積×1㎡当たりの価額」
へ変更されます。
[出典]日本年金機構|現物給与価額の改正について
借上社宅を運用する会社では、
・従業員の社会保険料は増えるのか
・会社の負担はどの程度変わるのか
・社宅使用料や社宅規程を見直すべきか
といった疑問が生じるかもしれません。
まず押さえたいのは、新しい評価方法への対応は必要ですが、
従業員負担額や制度全体を一律に変更する必要があるとは限らない
という点です。
評価方法への対応とは、
面積・単価・計算設定などを改正後のルールに合わせることです。
一方、制度の見直しとは、
会社が定める家賃上限、従業員負担額、対象者などを変更することです。
この二つを分け、まず現在の制度のままで影響を確認し、
その結果を踏まえて見直しの必要性を判断します。
本記事では、前回の改正内容を踏まえ、
「どこまで影響するのか」「何を基準に見直すのか」を整理します。

[参考]評価方法の変更内容や面積の確認など、改正の基本はこちらで整理しています。
▶【2026年10月改正|借上社宅の現物給与(社会保険)が変わる】
📅 制度改正について知りたい方
■最初に確認するのは、従業員負担額を反映した現物給与額
影響確認では、次の二つを区別することが重要です。
・面積と単価から計算する「住宅の現物給与価額」
・従業員負担額を反映した「報酬に加算する現物給与額」
本記事では、説明を分かりやすくするため、このように呼び分けます。
基本的には、住宅の現物給与価額から、住宅の対価として徴収している
従業員負担額を差し引き、報酬へ加算する額を確認します。差し引いた
結果がゼロ以下であれば、住宅について加算する額はゼロとなります。
従業員負担額が評価額を上回っていても、
その超過分を現金給与から差し引いて報酬を減らすものではありません。
[出典]日本年金機構|現物給与価額一覧表・Q&A
したがって、
改正による影響は、住宅の現物給与価額の差だけでは判断できません。
改正前後それぞれについて従業員負担額を反映し、
報酬に加算する額がいくら変わるかを確認します。
なお、給与から控除している住宅関連費用のすべてを、
当然に差し引けるとは限りません。社宅使用料と駐車場代などを区分し、
何に対する負担なのかを確認することも必要です。
[参考]「住宅の現物給与価額」と、従業員負担額を反映した
「現物給与額」の違いは、こちらで詳しく整理しています。
▶【Q&A|住宅現物給与価額と現物給与額は何が違いますか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
■同じ評価額の増加でも、報酬への影響は異なる
例えば、住宅の現物給与価額が、
改正前の月3万円から改正後の月4万円へ変わるとします。
以下は、従業員負担額を変更しない場合の仮定例です。
① 従業員負担額が月2万円の場合
・改正前:3万円-2万円=1万円
・改正後:4万円-2万円=2万円
報酬に加算する現物給与額は、月1万円増加します。
② 従業員負担額が月3万5,000円の場合
・改正前:従業員負担額が評価額以上のため、加算額はゼロ
・改正後:4万円-3万5,000円=5,000円
報酬に加算する現物給与額は、月5,000円増加します。
③ 従業員負担額が月4万5,000円の場合
改正前後とも従業員負担額が評価額以上のため、加算額はゼロです。
このように、
住宅の現物給与価額が同じ1万円増えても、報酬への影響は異なります。
「新評価額-旧評価額」を、そのまま全員の報酬増加額として扱わないことが重要です。
また、実際には新しい単価も使用するため、
すべての住宅で評価額が増えるとは限りません。
増加する人だけでなく、減少する人や変わらない人も確認します。
■現物給与額が増えても、保険料が直ちに増えるとは限らない
報酬に加算する現物給与額が増加した場合、次に確認するのは、
標準報酬月額への影響です。
健康保険や厚生年金保険の毎月の保険料は、報酬の実額に直接保険料率を掛けるのではなく、原則として等級ごとの標準報酬月額を基礎に計算します。
そのため、
現物給与額が1万円増えたからといって、
保険料も必ず「1万円×保険料率」だけ増えるわけではありません。
今回の現物給与価額の改正は、
随時改定における固定的賃金の変動に該当します。
ただし、月額変更届の対象になるかは、別途要件の確認が必要です。
一般的には、
・変動後3か月間の報酬平均額
・従前の標準報酬月額との原則2等級以上の差
・各月の報酬支払基礎日数
・固定的賃金の増減と報酬全体の増減の方向
などを確認します。
等級の境界を一つ超えただけで、
直ちに随時改定となるわけではありません。
また、随時改定に該当しなくても、
その後の定時決定などで反映される可能性があります。
[出典]日本年金機構|随時改定(月額変更届)
したがって、改正直後の保険料が変わらないことと、
今後も影響がないことは分けて考える必要があります。
[参考]借上社宅が社会保険上の報酬や標準報酬月額にどのように
関係するのかは、こちらで詳しく整理しています。
▶【第11回|借上社宅は社会保険料に影響するのか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
📖 制度の仕組みを知りたい方
■会社と従業員のコストは、変更前後の保険料で比較する
保険料への影響を試算するときは、
変更前後の標準報酬月額に対応する保険料を比較する方法が基本です。
健康保険と厚生年金保険では等級や上限が異なるため、
それぞれ確認します。加入する健康保険の料率や、介護保険の対象か
どうかなども結果に関係します。
例えば、説明のために、
・健康保険・厚生年金保険とも標準報酬月額が2万円上がる
・対象とする保険料率の労使合計を仮に30%とする
・その負担を労使で半分ずつとする
と仮定した場合、
増加額は合計月6,000円、本人・会社それぞれ月3,000円となります。
これは、標準報酬月額が2万円上がった場合の仮定例であり、
住宅の評価額が2万円増えた場合の計算ではありません。
実際の金額は、適用される保険料額表等で確認します。
会社の総費用を把握する場合は、
会社のみが負担する拠出金なども必要に応じて別途整理します。
さらに、年間影響を把握するときは、
月額だけでなく、保険料が変更される時期や対象人数も確認します。
一人当たりの増加額が小さくても、
対象者が多ければ会社全体の負担は大きくなる可能性があります。
■影響確認は、対象者全体を把握してから重点を絞る
今回の改正について、
最初から「影響は小さい」「一部だけ確認すればよい」と決めつけることは適切ではありません。
まず、対象となる社宅利用者全体について、
新旧の評価額と従業員負担額を確認します。
そのうえで、詳細な検討が必要な対象を絞ります。
特に確認したいのは、次のようなケースです。
① 改正前後で現物給与額が大きく変わる
住宅の広さだけで判断せず、
実際に新旧の方法で計算した結果を比較します。
② 従業員負担額が住宅の現物給与価額を下回る
改正前は加算額がゼロでも、
改正後に初めて現物給与が生じる場合があります。
③ 標準報酬月額が変わる可能性がある
現物給与額の差だけでなく、
現金給与や残業代等を含む報酬全体と、改定要件を確認します。
④ 収入に対する負担の割合が大きくなる
短時間勤務者などでは、同じ負担増でも生活への影響が異なります。
ただし、短時間労働者というだけで等級が変わりやすいと決めつけることはできません。
⑤ 面積・単価・従業員負担額の情報が不明確
試算の前提が誤っていれば、影響の大小も正しく判断できません。
適用単価は住宅所在地だけで決めず、勤務地や適用関係を確認します。
一括適用の支店等では、
それぞれの勤務地の価額を使用する取扱いにも注意が必要です。
[参考]現物給与評価を誤った場合に、会社と従業員へどのような影響が
生じる可能性があるのかは、こちらで整理しています。
▶【Q&A|現物給与評価を間違えるとどうなりますか?】
🏢 会社目線で知りたい方
[出典]日本年金機構|現物給与価額に関するQ&A
■平均額だけでなく、負担が集中する対象を確認する
会社全体の影響を把握するとき、
平均増加額だけでは実態が見えないことがあります。
例えば、多くの従業員は影響がなく、
一部の従業員に負担増が集中している場合、平均額は小さく見えます。
反対に、一人当たりでは小さな増加でも、
利用者の大半に影響すれば、会社全体では相応の負担になります。
そのため、試算結果は、
・現物給与額が増加・減少・不変となる人数
・保険料が変わる見込みの人数
・本人負担の月額と年間の変化
・会社負担の月額と年間の変化
・特定の勤務地や世帯区分への集中
などに分けて確認すると、判断しやすくなります。
「会社全体でいくら変わるか」と「誰にどの程度影響するか」の両方を
見ることが重要です。
また、報酬の変動などによって確定していない部分は、見込額であることを明確にしておきます。
■従業員負担額を上げる前に、手取りへの影響を比較する
現物給与額が増えると、
「社宅使用料を引き上げればよいのではないか」と考える場合があります。
しかし、従業員にとっては、社宅使用料の増加も直接の負担です。
保険料を抑えるための見直しが、
結果として従業員の手取りをより大きく減らす可能性があります。
例えば、
現在の負担額を維持した場合の本人保険料増が月2,000円と見込まれる
一方、社宅使用料を月1万円引き上げる案があるとします。
この場合、仮に保険料増を回避できても、
従業員は社宅使用料として月1万円を追加負担することになります。

そのため、比較すべきなのは、
・現在の社宅使用料を維持した場合
・社宅使用料を変更した場合
それぞれの社宅使用料と社会保険料を含む負担全体です。
会社についても、社宅使用料の増収だけでなく、
保険料、事務費用、採用・定着への影響を合わせて検討します。
社会保険上の現物給与額をゼロにすること自体が、
制度設計の目的ではありません。
住宅支援としてどの程度の会社負担を認めるのか、
その方針から考える必要があります。
[参考]税務と社会保険の違いを踏まえた家賃設定の考え方はこちらで整理しています。
▶【第10回|借上社宅の家賃設定、その決め方で本当に大丈夫ですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
🛠 制度設計を学びたい方
■税務と社会保険は、それぞれの基準で確認する
借上社宅は、税務と社会保険で住宅の評価方法が異なります。
使用人に対する社宅貸与の税務上の取扱いでは、賃貸料相当額と従業員から受け取る家賃との関係などが確認事項となります。
一方、社会保険では、現物給与価額と従業員負担額との関係を確認します。
社会保険上の現物給与が生じることだけを理由に、
所得税でも給与課税になると判断することはできません。
また、今回の社会保険の改正を、
そのまま税務上の評価方法の変更として扱うものでもありません。
[出典]国税庁|使用人に社宅や寮などを貸したとき
ただし、社宅使用料の変更と合わせて、現金給与や手当、契約形態なども
変更する場合は、それぞれの取扱いを確認する必要があります。
税務上の個別判断は税理士等へ、社会保険の取扱いは社会保険労務士や
年金事務所等へ確認し、制度全体の整合を図ります。
[参考]「税務上は非課税でも、社会保険では現物給与になる」という
違いを体系的に確認したい方は、こちらをご覧ください。
▶【第12回|税務上は非課税なのに、社会保険では「現物給与」、なぜ?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
■制度を見直すかどうかは、試算結果と制度目的で判断する
試算後の対応は、大きく三つに整理できます。
① 現行制度を維持する
会社・従業員への影響を確認した結果、住宅支援の目的や会社の負担方針に照らして、現在の家賃上限や従業員負担額を維持する選択です。
制度を維持する場合も、評価計算や給与への反映、必要な届出への対応は
行います。
② 一部のルールを見直す
特定の条件で負担が集中する場合などに、
従業員負担額の算出方法や経過措置を検討します。
ただし、対象者ごとの場当たり的な調整にならないよう、適用条件と理由を説明できる形にすることが必要です。
③ 制度全体を点検する
家賃上限、対象者、地域差、世帯間の公平性などに以前から課題がある場合は、改正をきっかけに全体を点検する方法もあります。
ただし、今回の評価方法の変更による影響と、従来からの制度上の課題は
分けて整理することが重要です。
従業員負担の増加などを伴う場合は、
規程の書換えだけで済ませず、労働条件との関係、必要な手続き、
周知期間等を専門家と確認しながら進めます。
[参考]借上社宅制度の見直しにおける社宅規程の役割と、
整備しておきたい項目はこちらで詳しく整理しています。
▶【第3回|借上社宅に社宅規程は必要?】
🛠 制度設計を学びたい方
■実務では、試算・判断・反映の順に進める
対応は、次の順序で整理すると進めやすくなります。
① 対象者と住宅情報をそろえる
面積、適用単価、従業員負担額、所属・勤務地等を確認します。
② 現行制度のままで新旧比較を行う
制度変更を先に織り込まず、まず改正そのものによる影響を把握します。
③ 標準報酬月額と保険料への影響を確認する
報酬全体と改定要件を確認し、見込額と確定額を区分します。
④ 制度を維持するか、見直すかを判断する
会社負担、従業員負担、公平性、住宅支援の目的を比較します。
⑤ 給与・届出・従業員説明へ反映する
担当者、反映時期、確認方法を明確にし、必要な対応を進めます。
改正時だけでなく、その後の転勤・転居・社宅使用料変更にも対応できる
よう、情報連携の方法も整えておくことが大切です。
[参考]借上社宅の入居から退去まで、制度がどのように運用されるのか
は、こちらで全体の流れを整理しています。
▶【第22回|借上社宅制度はどう運用されるのか?】
🏢 会社目線で知りたい方
■まとめ
2026年10月の改正にあたっては、まず新しい評価方法への対応と、
現在の制度における影響確認が必要です。
ただし、改正を理由に、
社宅使用料や制度全体を一律に変更する必要があるとは限りません。
判断するときは、
・従業員負担額を反映した現物給与額の変化
・標準報酬月額と社会保険料への影響
・会社全体の負担と、個々の従業員への影響
・住宅支援の目的や公平性との整合
を順に確認します。
重要なのは、「保険料が増えるから負担額を上げる」と直結させず、
現行制度を維持した場合と見直した場合を比較することです。
そのうえで、必要な実務対応を進め、
根拠を持って制度の維持・変更を判断することが求められます。
2026年10月の住宅現物給与改正について、改正内容・影響確認・制度見直し・実務対応をまとめて確認したい方はこちらです。
▶【2026年10月改正】社会保険の住宅現物給与まとめ|借上社宅への影響と実務対応
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著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家
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