父親の香水が臭い
父親の香水が臭い。ずっと同じ匂いで、ずっと昔から臭い。
スーツを着ている時、大体この香水の匂いがする。
最寄りの駅まで車で父親を送る車内。
助手席からその匂いが漂ってくる。
香水をつけるにしたって、なぜこれを選んだのだろう。いつもそう思う。
そもそも他の香水を知らないので、香水は全部臭いのかもしれないけれど。
誰の何のための香水なんだろう。
横でタバコを吸ってる父親を見て思う。
匂いに気を遣えるならタバコなんて吸わないだろうから、本人がその匂いを愛しているわけでもないだろう。
彼にとって香水とは、スーツの一部、大人の男のエチケットなのだろうか。
煙臭さですよ〜という顔をして、助手席の窓と、後部座席の窓を開ける。
なぜ、私は「その香水、臭いよ」と伝えないのだろうか。
それを言い出すと、全部伝えたくなってしまうからだろうか。
たしかに、この香水の前に、言いたいことが山ほどあるかもしれない。
そもそも、私が臭いと思っているのも、好き嫌いでしかない。
父親はこの香水が好きなのかもしれない。
小さい頃、野球に全く興味はなかったが、お父さんが楽しそうにするから、あえて野球の話を振ってみたりしていた。
今、臭い香水に何も言わないのも、あの頃の感覚の延長線上にあるのかもしれない。
この人にここまで育ててもらったのだから、個人の好き嫌いにケチをつけるのも違うとは思う。
最寄り駅に着き、父親が降りる。
ドアが閉まり、私は開けていた二枚の窓を閉める。
前の窓から漂っていた香水が抜けていき、後ろの窓からタバコの煙が消えていく。そんな気がした。
ふと、そろそろ父の日だな、と思う。
自分の好きな匂いの香水をプレゼントしてみようか。香水はどこで買うんだろう。父親はあんなものをどこで手に入れたんだろう。
いや、やっぱりプレゼントはやめておこう。
ちょっとまだ香水臭いな。
タバコも臭いかも。
灰皿に目をやり、もう一度窓を開けた。