
「大丈夫」が上手になった日
「大丈夫?」
そう聞かれると、反射みたいに「大丈夫」と答える。
昔からそうだった。
転んでも大丈夫。
失恋しても大丈夫。
仕事で失敗しても大丈夫。
気づけば、「大丈夫」は自分を守るための言葉になっていた。
本当は大丈夫じゃなくても。
小さい頃、泣くのが苦手だった。
泣いたら困らせる気がしたし、心配をかけるのも嫌だった。
だから我慢した。
悲しい時も。
悔しい時も。
我慢しているうちに、自分の感情より先に「相手がどう思うか」を考える癖がついた。
大人になってからも、その癖は変わらなかった。
人間関係で疲れても。
恋愛で傷ついても。
「気にしてないよ」
そう言って笑っていた。
本当に気にしていない人みたいに。
でも、夜になると違った。
昼間は平気だったはずなのに、布団に入ると急に苦しくなる。
何気ない一言を思い出して落ち込んだり、返事が来ない理由を勝手に考えたり。
眠りたいのに、頭の中だけが騒がしい。
そんな夜が何度もあった。
ある日、友人に言われた。
「もっと弱音吐いていいんだよ」
その時、なぜか返事ができなかった。
吐き方がわからなかったからだ。
長い間、「大丈夫」を使いすぎて、本当の気持ちの出し方を忘れていた。
情けない話だけど、その時初めて気づいた。
自分は強いんじゃない。
ただ、弱いと言えないだけだった。
それから少しずつ、自分の気持ちを認める練習をした。
疲れた日は疲れたと言う。
嫌なことは嫌だと思う。
寂しい時は寂しいと認める。
当たり前のことなのに、最初は驚くほど難しかった。
でも、不思議だった。
弱さを隠さなくなったら、少しだけ生きやすくなった。
強くなったわけじゃない。
むしろ逆だ。
弱い自分を認められるようになっただけだった。
最近も相変わらず「大丈夫」と言うことはある。
でも、その言葉の意味は少し変わった。
昔は、本音を隠すための「大丈夫」だった。
今は、
「大丈夫じゃない日もあるけど、それでも生きていける」
という意味の「大丈夫」だ。
夜は今でも苦手だ。
不安になる日もある。
考えすぎる日もある。
それでも昔より少しだけ楽になった。
完璧じゃなくていい。
強くなくてもいい。
ちゃんと笑えない日があってもいい。
そう思えるようになったから。
もし今、この文章を読んでいるあなたが、「大丈夫」を言いすぎている人なら。
今日は少しだけ、自分に正直になってみてほしい。
大丈夫じゃないなら、大丈夫じゃなくていい。
その一言からしか、救われない夜もあるのだから。