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そばにいるよ

    わたしの名前はなつ。

    この名前を気に入っている。

    「夏に生まれたから、なつなんだって」

    きみこは前に、そんなふうに言っていた。
    きみこに名前を呼ばれるのが好きだった。

    朝、きみこは先に起きる。

    支度の音が、部屋の向こうから聞こえる。
    引き出しの音、食器の触れ合う音、水の流れる音。

    少しして、名前が呼ばれる。

    「なつー」

    わたしはその声で身体を起こす。

    リビングに行くと、きみこが振り返る。
    視線が合うと、短く言う。

    「ちゃんと食べてね」

    それだけ言って、身支度に戻る。

    わたしは用意されたものの前に座る。

    きみこが出かける時間になると、わたしは彼女を見送るため、彼女の後を追う。
    きみこは靴を履き、必ず振り返り、わたしの頭を撫でてくれる。

    「行ってくるね」

    わたしはその姿を見送る。

    扉が閉まると、部屋は一気に静かになる。

    光と影の位置がゆっくりと動いていく。
    わたしは時折、それをぼんやりと眺めていた。

    やがて、夜になる。

    鍵の音がして、わたしは顔を上げる。

    ドアが開く。

    待ちに待った瞬間だ。
    きみこが帰ってきた。

    今日は、いつもより少し雰囲気が物悲しく映る。

    「ただいま」

    声に少しばかり力がない。

    わたしは、すぐには近づかない。

    きみこが部屋に入って、ソファに体を預けるのを待つ。

    それから、そっとそばへ行く。

    きみこの手が、ゆっくりと伸びてくる。

    わたしは、その手の届く場所にいる。

    指先が、同じ場所をなぞる。
    何度も、ゆっくりと。

    きみこの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

    「なつがいてくれてよかった」

    優しい声だ。

    わたしは動かない。
    きみこがこの時間を必要としていることは、なんとなくわかっていた。

    きみこは、床に座り込んだまま、わたしをそっと抱き寄せた。

    “チリリーン”

    首輪についた小さな鈴が鳴った。

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