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〈掌編小説〉花と散れ

    「デッサンのモデルなんて初めてだな。なんか、ポーズとか取った方がいいのか?」
    椅子に座りながら色々なポーズを模索する俺の友人。
    ここは俺のアトリエで、今日は作品のモデルになってもらうため彼を招待した。
    「いいや、ポーズはいらない。楽な姿勢で座ってくれ」
    「そうか?なら遠慮なく。にしても急なお願いだったが、何か理由でもあるのか?」
    椅子の上で胡座をかいて、物珍しそうに辺りを見渡している友人が問う。
    当然の疑問だろう。
    突然連絡をして、『デッサンを描きたいからモデルになってくれ』だなんて。
    理由も聞かずによくもやってきたものだ。
    「特別な理由は無い。ただ、久しぶりにお前に会いたかったのかもな」
    なんて、心にもないことを口にする。
    「なんだよ。可愛いこと言ってくれるじゃん」
    嘘かもしれない社交辞令的な言葉を、疑いもせずに素直に受け取った。
    俺の友人は、そういう奴だ。
    「なぁ」
    鉛筆一本を手に取り、キャンバスが純粋さを失った瞬間。
    俺は話を切り替えるように声を発する。
    「そのまま座ってるだけじゃ暇だろ。少し、話を聞いてくれないか」
    「いいぜ」
    そう言って友人は俺の方へ向き直る。
    俺はそのまま言葉を続けた。

    「まだ会ったことのない人間が、ごまんといるこの世の中で。
    世界中の誰よりあんたが憎かった。
    俺がどれだけ努力をしても、あんたは軽々超えてきた。
    なんて事ない顔をして。
    努力なんて知らないと。
    生まれ育ったものだけで。
    あんたは努力を超えてきた。
    でも生まれ育ったものにも限界はくる。
    ようやく俺は一度だけ、あんたを越えた。
    その時、どんな顔をしたか覚えてるか?
    アニメのヒーローを見るような、キラキラとした顔をしたんだよ。
    俺は確かにあんたを越えたのに、俺は一度もあんたに勝てなかった。
    それからあんたは努力を覚えた。
    醜く足掻くように努力した俺と違って、あんたの努力する姿は綺麗だったよ。
    同じ努力なはずなのに。
    俺は酷く苦しかった。
    ずっと首筋にナイフが当たっているような、力を抜けば首が締まるような、そんな感覚。
    でも、それが嫌だった訳じゃない。
    もちろん苦しかったしやめたいと思ったこともある。
    それでも、努力だけはあんたに勝てると思ってた。
    だから俺は嫌じゃなかった。
    でも結局、俺じゃあんたに勝てない。
    それに気づいてしまったから。
    楽しむことを忘れてしまったから。
    俺は全てを諦めた。
    それをあんたのせいにしたかった。
    事実あんたが憎かった。
    それと同時に、憧れた。
    本当に訳が分からない。
    それでも憧れてしまったものは仕方がない。
    まだ俺が楽しめることを探して、絵を描くことにたどり着いた。
    俺が綺麗だと思ったその瞬間を、収めて時を止めておける魔法。
    それを手にしたのが、今の俺だ。」

    あぁ、そうだな。
    こんな話をすればお前はそういう顔をするだろうな。
    それでいい。
    どうかそのまま、俺の大好きな姿のままで。
    世界で一番憎んだ姿で。
    花のように散ってくれ。

     
     
    作品は全てノンフィクションになります。 文章は短いものが多いと思いますので気軽に読んでください。 あんまり明るい話ではないのでそこだけご注意を。 あんまり短編掌編とかショートショートの分類がわかっていません。

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