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お嬢さんの最後のお仕事⑧

    寄海一鹿

    そして

     あれから一年が経った。ぼくは勉強に勉強を重ね、薫子さんや龍弥さんの後輩になった。圧倒的な知識不足は薫子さんスパルタ教育でどうにかした。
     あの日、 ぼくは薫子さんにお願いした。最後まであなたに付き添いたいと。薫子さんは笑って流そうとしたが、ぼくが食い下がると、子分にならしてやってもいいと言った。そして、もし万が一、前の職場の後輩になったならば付き添うことを許してやってもいいもいいと言ってくれた。
     試験に合格したぼくは薫子さんを説き伏せて病院に入院させた。そして毎週土日は病院に入り浸っている。薫子さんは、専門分野の話になると饒舌になることがわかった。多分オタク気質なのだろう。
     お医者さんは、薫子さんはもってもあと一年くらいだろうと言っていた。ぼくは少しでも長く薫子さんと一緒に過ごすつもりだ。知識でもなんでもを吸収して、薫子さんがいなくなった後も、その知識とともに生きていく。
     翌年、薫子さんのお墓参りにきたぼくは、翔子さんとばったりあった。龍弥さんのお墓は、図らずも薫子さんの眠るお墓からそう離れていなかった。同郷なのだからこういうこともあるのだろう。
     ぼくは、翔子さんと一緒に龍弥さんのお墓に手を合わせたとき、心の中で「薫子お嬢さんの最後のお仕事は、緑川さんの無念を晴らすことではなくて、ぼくを一人前にすることだったんですよ」と呟いている自分に気付いた。ぼくは龍弥さんに嫉妬していたんだと自覚したとき、薫子さんに対する気持ちを再確認してしまい、湧き上がってくる涙を抑えられなくなった。
    (了)

    #創作大賞2025 #ミステリー小説部門


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