
「うつは甘え」という言葉ってどう思いますか?看護師・養護教諭が教える、うつ病と『甘え』の決定的な違い
うつは甘え?
先日、Xで「うつは甘えである」という旨の投稿を見かけました。
一人二人ではなく同様の投稿を散見しました。
例
「うつは気持ちの問題。本人が頑張れば乗り越えられる」
「昔の人はもっと大変な環境でも働いていた。今の人は甘えている」
「嫌なことから逃げるために、うつ病という言葉を使っているだけ」
「薬や病院に頼る前に、自分の気持ちを強くすべき」
「誰だってつらい。うつ病の人だけ特別扱いするのはおかしい」
正直、例をここに書き出すだけでもはらわたが煮えくり返る思いですが・・
一旦それを抑えて、看護師、養護教諭の資格を持つ私がその状況を少しでも改善できればと筆を執った次第です。
上記の発言は医学的に正しいのか 説明していきたいと思います。
そもそも「うつ」とは何なのか
「うつは甘え」という言葉について考える前に、まず知っておきたいのが、そもそもうつ病とはどのような病気なのかということです。
うつ病は、「気分が落ち込んでいる」「嫌なことがあって元気が出ない」という状態を指すものではありません。
それは一般の人にもある自然な状態。
※抑うつ状態といいます。
この抑うつ状態(強い落ち込みや、これまで楽しめていたことに興味を持てなくなる等)が様々な理由で続き、睡眠や食欲、集中力、疲れやすさなど、日常生活にもさまざまな影響が現れることがあります。
ここで重要なのは、この抑うつ状態が続く、もしくはPTSD(語弊を生まずに簡単に説明するとトラウマ)のような強いショックがあると本人の気持ちだけで簡単に切り替えられなくなるということです。
例えば、
「明日は仕事に行かなければ」
「頑張らなければ」
「気持ちを切り替えよう」
そう頭では分かっていても、心身の状態によっては、それを実行すること自体が難しく、出来なくなります。
これは「やる気がないから」あるいは「楽をしたいから」と単純に説明できるものではありません。
抑うつ状態では精神的な症状だけでなく、睡眠、食欲、疲労感、集中力など身体面にも影響がでます。
通常の状態でも空腹が続けば力が出なくなる。
睡眠をとらなければ疲労は溜まります。
休息することでそれは回復できます。
しかし抑うつ状態が連続したり、大きなショックがあり、回復できないと、この疲労が溜まっている状態が続き、休息をとっても回復することが難しくなる「うつ病」となります。

だからこそ、「うつ=甘え」ではありません。
回復したくてもできないんです。
では「甘え」や「怠け」と、医学的な病気としてのうつ病には、どのような違いがあるのでしょうか。
ここからは、ここまでの知識をもとに、できるだけ分かりやすく書いていきたいと思います。
脳では何が起こる?
うつ病では、「気持ちが弱いから動けない」というより、
脳の働きやストレスに対する防御、睡眠・自律神経など複数のシステムがうまく調整できなくなると考えると分かりやすいです。
大きく関係するのが、感情・意欲・判断・睡眠などを調整する脳のネットワークです。
前頭前野(判断の司令塔):集中力、判断力、意欲を司る。機能が低下すると、物事を決められなくなったり、集中が続かなくなったりします。
扁桃体(不安のセンサー):不安や恐怖などの感情に反応。ここが過敏になると、ネガティブな思考が止まらなくなります。
海馬(記憶の整理):記憶やストレス反応を調整。ダメージを受けると、トラウマが解消しにくくなります。
報酬系(やる気の源):楽しさや達成感に関係。
ここがうまく働かないと、何に対しても意欲がわかなくなります。
その結果、
健康を保てないレベルのストレス負荷がかかる(イレギュラー発生)
↓
「あれがやりたい、やらなければいけない」と思考はできる
↓
でも、集中できない・行動に移せない
↓
好きだったことも楽しめない
ということが起こります。
「セロトニン(幸せホルモン)が足りないからうつになる」という単純な説明だけでは、現在のうつ病を十分に説明できません。神経伝達物質だけでなく、脳回路、ストレス反応、睡眠、免疫・炎症など、さまざまな要因が関係しています。
自律神経では
自律神経は、心拍・血圧・呼吸・消化・体温など、自分の意思とは関係なく身体を調整しているものです。
うつ病では、自律神経のバランスやストレスに対する身体の反応に変化がみられることがあります。
特に重要なのが、
ストレス → 脳がストレスを認識 → 視床下部 → 下垂体 → 副腎
という「HPA軸」と呼ばれるストレス反応のシステムです。

健康な状態であればこのような流れでホルモンが出てストレスを緩和しています。
この調整が長期間うまくいかなくなると・・・
(車で例えるとガソリンが空なのではなく、アクセルやブレーキを調整するシステムそのものに不調が起きているような状態)
睡眠、食欲、疲労感、集中力など、心だけではなく身体全体の調子にも影響し、回復が困難になります。
心と体は繋がっているんです。
※もちろん、これは「うつ病なら脳や自律神経が必ずこの状態になる」という意味ではありません。うつ病は症状や原因、経過に個人差が大きい病気です。
うつは甘えではない
そのため休めば治る、本人の気持ちでなんとかなるといった最初の例にあげたコメントはこの脳の仕組み上、自分の力ではどうにもならないことを知らない知識不足であることがわかります。
自分もきついことを我慢しているのに・・と感じる人はもしかしたらあなたもこの「抑うつ状態」に一歩踏み込んでいるかもしれません。
適度なストレスは自身の成長にいい影響を与えることは事実です。
しかし、体調を崩すレベル(食欲不振、強い倦怠感、リラックスしたくても回復できない)は明らかに適度とはいえません。どんな病気にも言えることですが早期発見、早期治療が基本です。
放置すればするほど悪化するものです。ストレッサー(ストレス源)の除去をできる限り早く行いましょう。
(自分でできる対策、対処法、治療法等を知りたい!という方がいれば新たに記事を書きます。)
うつの人への声掛け
では、どう声をかければいいのでしょう。
大切なのは、励まして無理に動かそうとするより、「今の状態を受け止める」ことです。
うつの方に「頑張れ」という励ましは時に本人を追い詰めてしまうことがあります。
例えば、「頑張れ、応援してるよ」と伝えたとします。表面上は感謝されるかもしれませんが・・
物理的に行動できないうつの方の内心は(こんなに頑張っているのにまだ頑張れというの?しんどい)となります。
◎ かけてあげたい言葉の例
「無理に元気にならなくても大丈夫だよ」
「話したくなったらいつでも聞くよ」
「今日は休んでいいんだよ」
「一人で抱えなくても大丈夫だよ」
インターネットではなく身近な人に対しては、具体的な助けを提案するのも有効です。
本人が「助けて」と言うことすら難しい状態にあることもあります。
・「食事を持ってこようか?」
・「病院に行くなら一緒についていこうか?」
・「今日はゆっくり休もう」
など、本人が選べる形で具体的に提案するのも一つの方法です。
避けたい言葉の例
「誰だってつらいよ」
「もっと頑張れ」
「気持ちの持ちようだよ」
「甘えてないで働きなよ」
「考えすぎじゃない?」
「そんなことで落ち込むな」
「自分より大変な人もいるよ」
悪意がなくても、こうした言葉は本人に「自分が弱いからいけないんだ」と感じさせてしまうことがあります。
「励ますこと」と「支えること」は同じではありません。
うつ状態の人に必要なのは、無理に前を向かせることではなく、まず安心して休める環境をつくること。そして必要に応じて、医療機関など専門家につなげることです。個人ではなく、社会で支えるという認識を持ちましょう。
まとめ
うつ病は単に「気持ちが弱い」「頑張りが足りない」という問題ではありません。
私たちは、空腹が続けば力が出なくなり、睡眠が不足すれば疲労がたまります。通常であれば、食事や睡眠、休息をとることで少しずつ回復していきます。
一方、うつ病では、脳の働きやストレスへの反応、自律神経など、心と身体のさまざまな仕組みが関係し、十分に休んでもなかなか回復できない状態が続きます。
だからこそ、外から見て「何もしていない」「怠けている」と感じても、それだけで「甘え」と判断することはできません。
そして、うつ状態にある人への「頑張れ」という言葉は支えになりません。
「つらいんだね」
「今は休んでいいよ」
「何かできることがあれば言ってね」
そんなふうに、まずその人の状態を受け止めることが大切です。
症状が長く続いたり、日常生活に大きな支障が出たりしている場合には、医療機関など専門家に相談することも大切です。
「うつは甘え」という一言で判断するのではなく、その人の中で何が起きているのかを知ろうとすること。
それだけでも、誰かを傷つける言葉を減らし、必要な支援につなげるきっかけになります。
あなたなら、「うつは甘え」という言葉について、どう思いますか?
・・・正直この内容は多くの人が知っているかと思いました。まだまだ認知されていないものだと再認識しました・・・
さらに気になる方がいればその人の健康状態はどうなっているのか評価の仕方(身体、心理、社会、生活、医療)
という視点で書いていこうと思います。