
第6話 遺伝という名の、鏡
- 割引あり
診察室を出た後、しばらく廊下で立ち尽くしていた。
次男——家族でノリゴリ隊長と呼んでいる——の検査結果を聞き終えた後のことだ。
感覚過敏。身体感覚の特性。自分の体の輪郭が掴みにくいこと。
その説明を聞きながら、僕はずっと、ある感覚と戦っていた。
知っている。
これを、知っている。
教室の蛍光灯が、刺さるように眩しかったという。
周囲の話し声が、刺さるように届いたという。
他の子が何でもなく過ごせている空間が、彼にとっては暴力のような場所だった。でも彼はそれを「普通」だと思っていた。みんな同じように感じているのに、自分だけが弱いのだと、ずっとそう思っていた。
違った。
彼の感覚は、他の人とは違う繊細さを持っていた。
体に何かが触れていると安心するという。だから壁にもたれかかる。厚着をする。自分の体の「接着面」を増やすことで、どこまでが自分なのかを確かめようとしていた。
自分の輪郭を、探し続けていた。
廊下に立ちながら、僕は自分の子どもの頃を思い出していた。
集団が苦手だった。感情の読み合いが難しかった。「みんなはどうしてそれがわかるんだろう」と、何度も思った。
人の心が理解しにくい部分。場の空気を読むことの難しさ。強い拘りと、特定のことへの過集中。
息子たちの話を聞くたびに、どこかで「わかる」と思う瞬間があった。でもそれを、自分のこととして正面から見たことはなかった。
診察室を出た後、僕はひとつの決意をした。
自分も、検査を受けよう。
子どもたちの「脳の取扱説明書」を理解しようとするなら、まず自分の取扱説明書を手に入れなければならない。無意識に妻を傷つけているかもしれない。子どもたちとのすれ違いの一部は、僕自身の特性から来ているかもしれない。
怖かった。でも、目を逸らすより、知った方がいい。
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