
第2話 リビングの、長い夜
- 割引あり
蹴った。
投げた。平手打ちをした。
路上で、深夜に、15歳の息子に対して、父親である僕がやったことだ。
この話を書くのは、簡単ではない。でも、書かなければならない。なぜなら、これが現実に起きたことだから。そして、この「手が出た夜」の本当の意味を、正確に残しておきたいからだ。
4月終わりの深夜。
エイリアン王子は門限を破った。ペナルティとしてスマホを取り上げようとした。彼はそれを拒否した。そして、靴下のまま——裸足で——家を飛び出した。
スマホのアプリで位置情報を確認しながら、僕は追いかけた。
画面の中の点が動いている。信号のない大通りを横切っている。次は、森の方へ向かっている。
車に轢かれるかもしれない。森の中で何かあるかもしれない。
その恐怖が、僕の胸を締め付けていた。
1時間、追いかけた。声をかけた。説得しようとした。でも、対話が成立しなかった。言葉が届かなかった。
その時、僕の中で何かが限界を超えた。
「イライラして殴った」というのは、正確じゃない。正確に言うと、「この子が死んでしまうかもしれない」という心配と恐怖に、耐えきれなくなったのだ。言葉が届かないなら、体で止めるしかない。そう思った瞬間に、手が出た。
叫んでいた。「そんなに家が嫌か」と。
その言葉は、息子への怒りじゃなかった。心配が、悲しみが、形を変えて出てきた叫びだった。
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