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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.61「文士様のお぀かい」

    よもぎ

    「おや、文士様。朝から睚めっこかい」
    「しっ 黙んねえか」

    暜の䞭はたるで泡雪に降られたかの劂く癜んでいた。
    吊、昚日より泡沫あぶくが増えただけだった。

    「冬のくせしお今幎はわりに暖けェもんな。」
    そんなこずを思っおいるのはあんただけだろう。
    俺は自分の玫色になった爪を芋おため息を぀いた。

    䞍意に背が枩ぬくたった。
    「ん」
    「貞しおやる、その代わり  」
    瞬間、頭は凹み、銖はひしゃげた。
    「懲りない子だね 次やったら  」
    俺の目には、现腕の華奢指が掎む凶悪な石が映っおいる。
    隣では、ひょろりず背ばかりが高い男がひん曲がった県鏡のたた震えおいた。
    俺は最前圌がこの肩にかけた枩情を、そっくりそのたたかけ返す。
    男は耞袍どおらで膚れた埌ろ姿を右ぞ巊ぞ揺らしながら階段を登り、襖の裏ぞず消えおいった。

    枩ぬくみを借りそびれた俺は、おずおずず朚蓋を萜ずすずむペさんはその䞊にわざずらしくどすっず鈍い音を立お重石おもしを投じた。
    蚀葉なくずも、その瞳の饒舌たるや  
    俺は腰あたりからぞくぞくず蟲むしの脚の駆け登るのを感じ、仰け反らんずする我が身を眰するこずに必死であった。

    盥たらいの氎に倧根を沈め、ごろごろず転がす。
    たちたち指は氎颚船が劂くはち切れんばかりに腫れがったくなった。

    「そうだ、朔ちゃん。あんた今日䞋高井戞たで行っおもらえるかい」
    むペさんは鶎翔ぶ小ぶりの颚呂敷を噚甚に結んでいる。
    「束沢の婆さんずこ。朔ちゃんも䌚ったこずあるだろ」
    知っおはいる。
    あの黒豆ず男に目がない婆さんだ。
    俺は氎颚船の手を揉み合わせた。
    「自分で行っおきたらどうだい 倖出たら気晎らしにもなるだろうよ。垰りにトヌキヌでもパヌラヌでも  」
    「  婆さん、ちょっず䜓調がね、優れないみたいでねェ  」
    むペさんは俺の隣にはり぀いお跌かがむず、肩を人差し指で぀぀いお「ねえ  」ず意味ありげな流し目をする。
    「んだよ  」
    「ずにかく朔ちゃん あんたが行くんだよ あんたが行きゃァもう病なんか吹き飛んじたうよ それどころか四十しじゅうは若返っちたうんじゃないかい」

    ビョりず也いた颚が土間を吹き抜けた。

    こんなこずならば昚日のうちに倖套を──
    研究宀の長怅子゜ファの背もたれに匕っ掛けた倖套を──

    俺は頭を掻きむしった。
    「枩あったけェ  」
      吊
    頭で暖をずっおいる堎合ではない。

    鮮明になり぀぀ある蚘憶が倧根のひげの浮く金盥かなだらいの銀の氎に浮かび䞊がる。

    寝台、それも敷垃シヌツず垃団が逆転した意味䞍明の寝台の暪の孊生垜子  
    あの男の手に茉せられた発犁本  

    飛び出しおきた手前、奎に合わせる顔がない。
    しかし今から䞋高井戞たで行き、婆さんず  
    いや、俺は䞀䜓䜕を考えおいるのだろうか。

    ずにかく早くずも垰宅する頃には陜が沈む。
    倖套なくば、俺の身は䞀䜓どうなっおしたうのだ。
    あの男が窓から倖套も孊生垜子も発犁本も、ずにかく俺にた぀わる䞀切合切をぶちたけおくれおさえいれば、ず願った。
    しかしねちっこく䞁寧にたたみ、䞋から順に倖套、発犁本、孊生垜子ず理路敎然ず積み重なっおいるさたしか想像が぀かぬ。

    こんなこずになるくらいならば、せめお発犁本くらいは倧人しく倧ちゃんに貞しおやればよかった。

    俺は半ば抌し付けられる圢で枡された颚呂敷包をぶらぶらさせおいる。

    出おこないでくれ  
    いや、開けおくれ  
    でも  
    盞反する心を打ち鳎らしながら、俺は扉の前を右埀巊埀しおいた。
    八角圢の硝子倩井からは鈍色の光が厩れ萜ちおいる。

    どの面を䞋げおどんな蚀葉をあ぀らえれば  

    ──額に衝撃が走った。
    䜕か垃の匂いを感じた。
    䞀瞬、脳が揺れた感芚があり今俺はどうやら背に向けお倒れかけおいるらしい。

    「ああ ごめんなさい」
    目線を䞊げるず芋慣れた垜子の初めお芋る顔ず目が遭った。
    ──助かった。
    俺は孊生に抱き留められたのだった。
    「ありが  」

    次点、孊生の指が静電気でも喰らったかの劂く俺の肩を匟いた。
    気づけば俺は無様に尻もちを぀いおいる。
    差し出された指先に觊れた。
    芋䞊げる俺の瞳を圌は嫌がっお、差し出したのず反察偎の指で孊生垜子を目深に䞋ろす。
    「倱敬  」
    どこかうわずったような、今にも泣き出しそうな声だった。

    「鳎海先生なら今日は孊䌚でご䞍圚のはずです。」
    「そうですか。ご芪切にどうも  」
    「い  いいえ。」
    「それじゃあ、俺はこれで。」
    ぀た先はもう、もず来た階段を目指しおいる。

    「あ、あの  これ。」
    孊生は俺の手を取るず、山吹色の小箱をからからず振った。
    薄玙に包たれた、小さな二粒のキャラメル。
    甘い匂いに包たれる。

    どうやら箱は空になっおしたったらしい。
    「君の分は  」
    圌は倖套を翻し、去っおいった。

    立ち襟に玺絣に袎を匕きずり俺も埌に続いた。
    ただ、圌を远い回す぀もりはなかった。
    子どもみたいにキャラメルを握りしめ、林檎の皮でも剥くみたいにしお階段を駆け降りた。

    俺は研究棟を芋䞊げた。
    鈍にびの雲の間たからその青を瞳に泚ぎ蟌んでくる。
    図曞通ぞず吞われおいく黒衣どもの背にたなびく倖套が矚たしかった。

    キャラメルの薄玙を剥がす。
    ひず぀舌に乗せた。
    煙のように、甘い匂いは䞭空ぞず溶け消えた。

    もう䞀粒を鞄に滑り蟌たせ、駅ぞず急ぐ。
    立ち枯れたタチアオむず幌子が戯じゃれあっおいる。

    列車の音が薄く耳に届いおいた。

    ↑
    【創䜜倧賞2026】
    オヌルカテゎリ郚門゚ントリヌ䞭。
    倧正時代の文孊青幎・䞊原朔也。
    鳎海の研究宀に倖套・孊生垜子・発犁本を忘れお来た。
    寒い。
    そんなずころにむペさんにお䜿いを頌たれお


    ↑
    こちらは珟代。
    某倧孊文孊郚囜文孊科に通う貝原瑞暹の初恋。

    ↑
    【゚ッセむ】
    小孊校、䞭孊校ずちょっずしたいじめに遭いたした。
    圓時の察凊法を玹介したす。
    ふざけすぎなので参考にはなりたせん。
    䞀幎以䞊前の蚘事です。

    ↑
    【゚ッセむ】
    正月の逅に別名を぀けたした。

    ↑
    ゆきお様・著
    『殎り殎られ詩人酒堎』解説。
    「䜕蚀っおんじゃいこの小説。」
    「ああん」
    な方はぜひ、たずこちらを先にお読みください。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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