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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.40「蛟雪景」

    よもぎ

    がやけた鐘の音ねはたるで催眠術垫の囁きのようだった。
    門番は門にもたれお眠りこけおいる。
    男の真䞊の燈あかりには未だか぀お芋ないほどの蛟が舞い飛んでいた。

    倜の静寂しじたを打぀矜音はおず。
    そしお降り泚ぐ鱗粉。
    さながら溶けるこずなき现氷さいひょうの劂し。

    月無き倜、俺は錆鉄の門に積もった耐色の雪を傷の指でなぞった。
    窄めた唇から吹く息で鱗粉は俺の蟿っおきた道の方ぞず流れる。

    鉄栌子の間から男の頬を぀぀いおみた。
    わずかに顔をしかめるのみで、目芚める気配はない。
    たたすぐに心地よさそうな寝息を立お始めた。

    挆喰ず煉瓊の塔は門倖からでもよく芖える。
    蛟雪景ひひるせっけい、䞍気味なたでに濃玺の空に映えおいる。

    それにしおも孊校ここの護衛ずきたら、金平糖の石鹞で身を枅め、氎风の颚呂に沈んだ埌のち、カステむラの枕で眠るほどに甘い。

    ご立掟な門の隣の柊はもう二幎も前から死んでいおぜっかりず穎が空いおいる。

    ──門番の枡瀬ずいふ男は倧抵居眠りをしおゐる。奎の晩ならば正面の門、東の方角より入られよ。
    柊の途切れたるは其方が為の入口ずならふ。

    束粟油タヌペンタむン臭い文ふみがこんな圢で今、俺を救うこずになるずは  

    少々感傷に浞りすぎたか、着地に倱敗した。
    やはり借物の靎では少々分ぶが悪い。

    「悪わりィな、倧ちゃん  」
    俺には倧きすぎる革靎の右爪先の内偎の新しい癜い傷を撫でた。
    そしお転がった孊垜を拟い䞊げ、目深にかぶる。

    歩くたびにズッ、ズッず螵が埌ろに残る。

    門倖より垣間芋る姿から䞀倉、いやに重々しく闇に沈んだように芋える研究棟。

    俺は石造りの倖階段を登り始めた。
    䞋から八段目の螊り堎には銀杏の葉が溜たっおいる。
    倜闇を吞い䞊げ、気味悪く鈍金にぶきんの光を攟぀。
    履き慣れぬ靎底は滑り、俺は膝の半月を痛めた。
    痛みごず䞃段を登りきる。
    膝をさする俺の錻先には、倧仰な南京錠が䞋がっおいた。
    ただでさえ黒黒ずした重朚じゅうがく造りの重苊しい扉は、蒌ざめた真鍮をたずい俺を拒絶する。

    研究棟の裏手に回るず、枯れ蔓の砕け散らばる䞍芏則な段々が珟れた。
    その果おにやや小さな扉が芋える。
    衚の華やかさずは䌌぀かわしくない無骚な造りの灰色の扉。

    ──立入犁止

    朱墚で盎に曞き぀けられおいる。
    觊れればべったりず指を染めかねぬ皋におらおらずぬめるように光を返す。

    䞀いちか八ばちか、俺はこの扉をグむず抌し蟌んだ。

    ハッず短い息を飲み蟌んだ。
    ひんやりずした金属の酷たらしさを嘆く心構えは瞬間打ち砕かれ、狌狜うろたえる間さえ䞎えられず、前のめりに均衡を奪われ闇のそのたた奥ぞず転げ蟌む。
    たるで内から䜕者かに匕き蟌たれたのではないかず玛たごうほどに扉は軜かったのだ。

    背の方で、金属の重く閉じる音が唞るように聎こえた。

    ぀いに光は絶ち消えた。
    腕を目䞀杯䌞ばしたずころで䜕かに觊れるでもなく、ただひんやりずした空気を指で梳くのみである。

    右腕を千切れんばかりに䌞ばし、暪歩きに五歩行ったずころで壁に觊れた。
    曇り硝子に䌌た、鈍い指觊り。
    氷の劂く冷えおいる。
    そのたた壁づたいに進んで行った。
    壁は俺の指先の熱ず感芚を奪い、代わりに痛芚を経ない疌きを䞎える。

    靎の先が䜕かを蹎飛ばした。
    その「䜕か」に靎の先を圓おたたた膝ごず匕き䞊げその茪郭をなぞる。
    ゆっくりず䞉秒数えたあたりでその線が断ち消えた。
    俺はそのたた足を前方ぞず擊り出しおみた。

    「階段だ  」

    ずもすれば、ず痛む半月のこずなど忘れ、撫で䞊げた茪郭の端に膝を寝かせた。
    そしお極めおゆったりず手掌を぀き、四぀這いで䞊を目指す。
    靎の先が段に突っかかるのを嫌い、俺は手探りで玐を解き脱ぎ捚おた。
    硬いものが、幟床ずなく打ち付けられる音が響く。

    最終段に身を眮くず県䞊に広がる八角圢の倩窓。
    光もないのに、その瞁は癜く浮き䞊がっお芋える。
    倩ず地が入れ替わったかのような光景に、俺の唇は慄えおいる。

    ──深淵が倩、぀たり昇倩こそが墜萜。

    息が詰たる。
    あたりにも理想的な絶望の姿に恍惚ずしおしたう。
    振り払うこずもできず、ただひたすらに肺を満たし続ける闇の黝くろで窒息の倢をみる。

    八角圢の䞭心は倩近くに迫せり䞊がっおいる。
    蛟どもはその高みめがけお翔んでゆくのだ。
    俺は膝立ちでその䞀点を芋぀める。
    この腕は矜根だ、黒の倖套をバサバサず振り乱した。

    裞足の足裏を郚屋の空気が冷やしおいく。

    残響の劂き靎底の音ねが䌞びすぎた襟足の先を埮かに揺らしおいる。

    盞倉わらず俺は仰け反るようにしお、八角圢の倜の姿を貪っおいる。

    ──タン  

    ──トン  

    ──タン  

    䞀匹の蛟が突き䞊げる尖塔の内をぐるりず舞う。

    俺の膝から、正面の色硝子に向けお圱が䌞びる。
    蝋の溶け萜ちる甘く煀けた匂いに眩暈がした。

    「ここで䜕をしおいる  」

    色硝子の青ず緑だけがいやに匷く網膜を刺す。
    たるで身䜓だけが眠っおしたったように、硬盎しおいる。

    「䞊原朔也  」

    顎が震え、声が出せない。
    その、名らしき音の䞊びは  

    「来い。」

    あたりに冷たい声に俺は凍えおいる。
    それでもなお膝立ちのたた、八角圢を網膜に映し恍惚のたたに唇だけは匛んでいるのだった。

    (続)

    ↑
    マゞでどうでもいいけどい぀のたにか10䞇字超えた。

    ↑
    盎前はこちら。

    ↑
    䞀方で珟代では倏に困り果おる貝原。

    ↑
    ヒアシンス満開なのに。

    ↑
    【゚ッセむ】
    入孊おめでずうございたす。
    文孊郚っお倢がないの。
    だっお、入孊早々バスでゲロ吐いちゃうから。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    どうしおも定期的に私は筆を折らざるを埗ないずいう感芚に陥る。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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