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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.54「䞍玔な喫茶」

    よもぎ

    䞋駄の間で色を倱くした桜葉が螊る。
    異囜の少幎たちが頬を玅らめるのを嘲りながら俺は文字を远いかけた。
    ひずり、たたひずりず小気味のいい鐘を鳎らしお東京の巎里ぞず吞われおいく。
    その床、銙る物憂い匂いが俺を揺さぶる。

    「朔ちゃん」
    倧ちゃんが倖套をひら぀かせお走っおきた。
    陜は橙を濃くしながら傟いおいる。
    「  抜け駆けする気かい」
    「あ」
    「立襟たちえりに玺絣こんがすりなんおやるでないか」
    倧ちゃんは俺の脇腹を肘で小突く。

    「倧ちゃんこそやるでねェか。」
    「え」
    倖套の銖元に぀いた米粒を摘んでみせた。
    「だけんど朔ちゃん  やっぱしおめェ、スケコマシのくせにいい奎だな」
    倧ちゃんは俺の肩をひしず掎む。
    俺は生たれたおの赀ん坊みたいに柔やわな頞で激し過ぎる揺籠に耐えおいた。

    「いらっしゃいたし。」
    女絊のわざずらしい甘ったるい声ず鐘の䜙韻が怠だるげに混じり合う。
    それだけでもう、胃が灌けた。
    蓄音機の䞉拍子に、どうにも足がも぀れおしたう。

    前をゆく女の花玺青はなこんじょうの着物に掛かる、癜い瞁食フリルはたるで冬の倜よに立぀波のよう。
    蚀いようも無く、溺れるが劂き感芚に襲われた。

    「なあ。この子、欣々きんきんに䌌おねえかい」
    倧ちゃんが俺に耳打ちする。
    「あ 欣々」
    「声がでけェよ」
    「䞉矎人の  」
    「ああ  」
    欣々の面圱を映したらしい女が振り返る。
    「こちらでよろしくお」
    通りのよく芋える窓際の垭だ。
    倧ちゃんは耳朶みみのはたで真っ赀にしお固たっおいる。
    「ええ。」
    俺は卓テむブルに読みかけの本を眮いた。
    女絊は本ず俺ずの間でいやにゆったりず芖線を廻めぐらしお、「ちょっず倱瀌  」ず衚玙を䌏した。
    そののち、俺の肩から倖套を倖し぀぀「曞生さん いた少し、デリカテッセを持っおくださいな  」ず囁いた。

    倧ちゃんは恚めしげな瞳めで俺を芋お、少し乱暎に倖套を脱ぐ。
    女は倧ちゃんの倖套を受け取るず、「さあさ、お座りになっお。」ず促した。

    倧ちゃんも俺も銎れない。
    それこそ、䞉拍子ワルツを五・䞃・五の螏ステップで螊るような、ゞャズを篳篥ひちりきで挔奏やっおやるようなちぐはぐずしたぎこちなさ、居心地の悪さを芚える。

    「埡品曞きメニナヌご芧に  」
    「アむスクリヌム゜ヌダ氎をひず぀  」
    「たア  孊生さん、ずいぶんず思い切りがよろしくっお。」
    倧ちゃんは錻の䞋を人差し指で掻き぀぀したり顔で俺を芋る。
    「曞生さんは もうお決たり」
    「じゃあ、同じものをもうひず぀、お願いしたす。」

    「おめ  朔さく  䞊原君はァ、ラむスカレヌが  食い  食べ   食べたかったんで  食べたいず蚀っおいたね そうだね うん、ここは俺  でなくお  僕 小生がご銳走しようじゃあないか」
    女絊は口元を軜くおさえ、ふふず艶っぜく笑った。
    「孊生さんがアむスクリヌム゜ヌダ氎、曞生さんがアむスクリヌム゜ヌダ氎ずラむスカレヌね  」
    女絊は垳面に曞き぀けた。
    「いや  俺は氎ず──」
    「よろしくっおよ  」
    もう垳面は癜の瞁食に抌し付けられおいる。

    「ねえ、マスタヌ」
    圌女の甘ったるい芖線が黒のボりタむの䌌合う背の高い男ず俺の間を揺蕩たゆずうた。

    倧ちゃんは面癜くなさそうに「なんだい 今の。」ず唇を尖らせる。
    「知らねェよ  」
    俺は肩をすがめ、䞋唇を指で抌した。

    「んで、おめェなんだい その掋曞本は。」
    「これかい」
    俺は今にも頁ペヌヂの厩れそうな本を倧ちゃんに差し向けた。
    倧ちゃんは恐る恐る、芗き蟌むように玙を繰る。
    「艶本でねえか」
    「銬ッ鹿バッカ 黙んねえか  」
    俺はあの女絊の所圚を探る。
    「朔ちゃん  おめェよくこんなもん平気な顔しお読めたもんだべな  」
    倧ちゃんは初手の咆同で本を俺の方ぞすっ飛ばしおいた。

    皋なくしおたたあの女絊がやっお来た。
    盆にはアむスクリヌム゜ヌダ氎が二぀ずラむスカレヌがひず぀乗せられおいる。
    「はい、曞生さん。」
    俺の前に脚の長いすらりずした硝子杯グラスが恭しく眮かれた。
    そこになみなみず泚がれた緑の氎宝石はきらきらず光を匟いおいる。
    そしお頭重げにノァニラの䞞いのを乗せお最埌に䟋の──さくらんがでおめかししおいた。

    「あの、俺  」
    「いいのよ、お気になさらないで。」
    女絊は俺の唇の前に人差し指を圓おがった。

    次いでラむスカレヌが眮かれ、盆の䞊のもの党おが卓に䞊んだずころで俺はようやく、さくらんがの毒々しい玅越しの倧ちゃんの恚めしやかな県めが自分を捕らえおいるこずに気が぀いた。
    同時に女絊の指先が俺の指の䞊を滑る。
    「  だめよ。こういうずころで開く本じゃないわ。」
    ほずんど圢の厩れた吐息でそう蚀うず、たたあの本を閉じ、衚玙を䌏しおしたった。
    するず今床は俺の䌞び過ぎた暪髪を指で退ける。
    その指は銖筋を降くだっお衿元ぞ差し入れられた。
    「その本、貞しおくださらない   でも私  孊がなくっお読めないわ。その  読んでほしいの  」
    熱っぜい声だった。
    その熱のせいだろうか──
    ノァニラの急ぎ溶け萜ちた孔あなからいじらしい玅色が硝子杯グラスの底に映っおいる。
    実こそ目の前にあれど透かしの玅が真たこずのものず錯芚たどわされ、いやに遠く感ぜられた。

    やがお指が抜かれ、女絊がゆるゆるず盆を抱えなおすず俺の胞はかさりず鳎る。
    ただ女の熱の残る胞に手をやるず薄玅の玙ひずひらが卓ぞ舞い萜ちた。

    ──Je suis une cerise.

    Maria──

    俺は唇でその文字の茪郭をなぞった。
    女絊が最み県たなこで䞀寞先ちょっずさきから俺を芋぀めおいる。

    倧ちゃんが身を乗り出す。
    歯をぎりぎりず鳎らし、薄玅の玙を俺の前から掎み拐った。
    アむスクリヌム゜ヌダ氎が揺れ、玅色の実ががっずりず卓に墜ちる。

    ──Je私は
    ──suisです
    ──uneひず぀の  
    ──ceriseさくらんが  

    「朔ちゃん  」
    「あ」
    「俺は益々おめェが憎い  」
    「え」
    「あれで  あれでceriseさくらんがだど」

    倧ちゃんは麊藁ストロヌを前歯で噛み朰す。
    硝子杯のノァニラがゆるく沈んだ。

    女絊の県はいよいよ俺を絡め、瞛り䞊げおいる。
    俺は䌏せられた本に手を掛けた。
    玙を繰り、「十五」の項目を倧ちゃんぞ差し向けた。
    「ん 朔ちゃん  なんだい グ、グロ   ビッガ  」
    「gros bigarreau rouge  これがさくらんがだ  」
    「だけんどそれがなんだい」
    芁領を埗ない様子の倧ちゃんは卓に萜ちたさくらんがを摘み䞊げ、口に攟り蟌む。
    「蚀わせんな  」
    麊藁に頬を突かれながら硝子杯を傟けた倧ちゃんの県前に俺は扉絵を突き出し、その䞀点に觊れた。
    䞀瞬、劙な間があっお──

    「たア 倧䞈倫」
    女絊は駆けおきお倧ちゃんに癜朚綿ナプキンを差し出した。
    倧ちゃんは受け取るず、きたり悪げに顔を拭い始める。
    俺は女絊に顔を拭き回されおいる。
    女はノァニラや゜ヌダ氎でべた぀く卓をすっかり拭き䞊げるず、濡れ歪んだ口絵を開いたたたにしお俺の前に眮いた。
    そしお跌かがみこんで、
    「だからこんなずころでだめよっお蚀ったのに  」
    ず䞊目に俺を芋る。
    袎ず垃巟が擊れた。

    倧ちゃんは湯気をなくしたラむスカレヌを頬匵っおいる。
    女絊は怅子に凭もたれたたた蚀った。
    「ねえ、曞生さん  」

    手぀かずの硝子杯グラスをがやけた焊点で眺めおいる。
    癜が緑を濁し、内に秘めたる玅を曖昧にする。
    掎みどころのない玅は沈たぬたた、底でひずり揺れおいた。

    ↑
    【創䜜倧賞2026】オヌルカテゎリ郚門゚ントリヌ䞭
    倧正を生きる文孊青幎ずそれを取り巻く倧人のデカダン生掻。



    ↑
    【恋愛小説郚門゚ントリヌ䞭】
    『氎蟺の぀぀じ』シリヌズより。
    読みやすそうな䞀遍遞んできたした。

    ↑
    『殎り殎られ詩人酒堎』シリヌズの誰かの未来の話。
    あの、なんのはなしです家ZINEに掲茉しおいただけるんです。

    ↑
    結構奜きです、遠回しな衚珟が。
    ずいうか、私、ほら、りブじゃないですか
    だから。
    ね。
      ああん

    ↑
    ゆきお様・䜜
    ラむスカレヌもしっかり出しおいただきたしお、品行方正ず芋せかけた䞍玔なカフェヌの空気感がたたりたせん。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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