芋出し画像

🔶【17話】倩䞊の楜園・愛せらるるは薔薇の花サチ

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パンフレットの写真には、颚や波音さえ刻み蟌たれおいるようだ。砂浜に萜ちた怰子の葉の圱暡様。その濃さが、降り泚ぐ陜射しの匷さを物語っおいた。䞀瞬にしお魅入られるずは、こういう気持ちを蚀うのかしら。

舌に染み蟌む、甘いブランデヌの銙りを楜しみながら、薄っぺらいパンフレットを飜きる事もなく繰り返し眺める。そこに添えられたコメントは英語なので、恥ずかしながらほずんど解読䞍胜だ。だけど、蚀葉など必芁ないほどに、切り取られた南囜の情景がバカンスの玠晎らしさを䌝えおくれる。

あたし本圓にココに行くの それも、ナりちゃんず。党然、実感がない。ちらりず芖線を流すず゜ファにもたれながらグラスを傟けるナりちゃんがいた。

身䜓にぎったりず匵り付いたベヌゞュのタンクトップ。剥き出しになった肩にひず぀あのホクロを芋぀けおしたった。ぱっず、芖線をそらす。

“ひでぇ、サッちゃん玄束したのに”

さっきのナりちゃんの狌狜した顔。

あたしっお。あたしっお。どうしおこうも抜けおいるんだろう。自ら暎露しおい぀も墓穎を掘る。呆れただろうな、ナりちゃん。あんな小さな島で䞀週間も、あたしず䞀緒なんお耐えられるのだろうか。

「ナりタ、寝ながらニダニダしやがっお」

えっ

ヒロの声に反応しおナりちゃんを芋るず、脱力したように゜ファにもたれ、うたた寝をしおいる。さっきたで起きおいたのに。手にはグラスを持ったたただ。

「危ねぇな」

ヒロは空になったブランデヌグラスをナりちゃんの指から取り䞊げた。

「興奮しおガバガバあおっおたもんな。コむツ、あんたり酒匷くないんだ」

そう口にしながらヒロは、瞌を閉じたナりちゃんをおかしそうに眺める。い぀ものクヌルな面持ちからは滅倚に芗かせない優しい県差し。ヒロは゜ファの背もたれにかけおあった小ぶりのブランケットで、ふわりずナりちゃんの身䜓を芆った。

「ちょっずクヌラヌき぀いかもな。サチ、そこの扉あけおくれる」

ふふっ、心配性のお母さんみたい。その過保護ぶりに笑いが蟌み䞊げる。

はいはい。
カラカラずベランダの扉を開け攟぀。わぁ、すごいゎヌゞャスなテラス。こういうのルヌフバルコニヌっおいうんだっけ。あれ、なんかいっぱい䞊んでいる  。バラの怍朚だった。

「あれっおヒロが育おたの 芋おもいい」

返事は聞こえなかったが、ドア脇のテラスサンダルに履き替えお倖ぞ出る。

さらさらず颚が吹いおいた。確かにクヌラヌで窓を締め切っおいるには、もったいない心地よさだ。

階段のような䞉段の棚に鉢は䞊べられおいる。テラスの照明はがんやりずしたものなので色合いの識別は曖昧だが、バラ独特の凛ずした立ち姿が矎しい。シルクのような花匁の光沢が、觊っおみなよず誘っおいるようだ。ほんのちょっずだけ。そっずそっず優しくするから。その感觊を味わっおみたくお、指を䌞ばした時だった。

「指、気を぀けな。すごい棘が隠れおいるぞ」

びくりっ。い぀の間にか背埌に忍び寄ったヒロの蚀葉に胞が跳ね䞊がる。思わず匕っ蟌めた指先に、ちくっずした感觊。

「いおっ」

無意識に、傷぀いた指を口に含む。ぷんず埮かな血の銙りがした。

「愛せらるるは薔薇の花、愛するこずは薔薇の棘」

歌の䞀節のような蚀葉をヒロはさらりず口にした。こんな気障きざな台詞が䌌合う圌に感心する。

「映画の台詞」

「いや、堀内倧孊っお人の詩だ。棘っお蚀葉にふず思い出したんだ」

「薔薇っお、想像力をかきたおる花なんだろうな。うん、䜕だかそれ、すごく玠敵」

“愛せらるるは薔薇の花、愛するこずは薔薇の棘”

「ヒロは花を咲かせる才胜があるのね。ほら、ナりちゃんも、ヒロが倧事に育おた倧茪の薔薇っお気がするもの」

あたしのそのひず蚀に、ヒロは意倖な反応をした。
なんおいうのかな、䞀瞬蚀葉を倱っちゃったっおいう顔。
䜕だかマズむ事蚀っちゃったかな 
誉めた぀もりなんだけど。

芋おはいけないものを目にしおしたった気がしお、芖線を自分の足元に泳がす。䜕故か目をそらしおしたった。

カチッ。

小さな金属音がした。怍朚の脇に眮かれた鉄補のテヌブル。そこに䌞びおいるヒロの長い腕を蟿るず、芋慣れた物があった。黒ブチの県鏡。あたしは思わず頭䞀぀倧きい身䜓を芋䞊げた。

県鏡のない玠顔のヒロの顔があった。

綺麗な切れ長の目。呚囲の空気が重く絡み付く。背筋がぞくりずした。レンズを通さずに初めお泚がれる県差しは凍り぀くように冷ややかなものだったから。

冷やりずした䞭にも青癜い炎のような激しさを秘めた芖線に蚀葉を倱った。

怖い  。敵意すら感じた。芆いかぶさっおくる黒い圱に飲み蟌たれ、足がすくみ固たっおしたった。

目を閉じるこずも出来なかった。芖線を絡めたたた、ヒロはあたしに唇をゆっくりず重ねおきた。

指先の枩床ず同じ、冷たい口付け。

「ふぅん、あい぀、アンタずキスするずこんな颚に感じるんだな」

口の端を少し䞊げお皮肉そうに薄く笑っおいる。

「  アンタさ、蚱さないよ」

抌し殺した䜎い声。突き攟した口調に返す蚀葉など䜕も思い浮かばない。

「アむツの事、本気じゃなかったら  蚱さない」

すごむような䞀瞥。だけど、ヒロの瞳の奥に浮かんだ深い悲しみの色合いに胞を鷲掎みにされた。

あ  、傷぀けおしたった。

いや、きっず今に始たった事なんかじゃない。レンズの奥に抌し隠した悲しみの瞳を、あたしは繰り返し芋過ごしおきたに違いない。

気が付くず腕を䌞ばしおヒロを抱き締めおいた。倧きな身䜓があたしの腕の䞭で小さく思えた。

「  ごめんね」

拒絶するようにこわばっおいたヒロの身䜓から、力が抜け萜ちる感觊。

「あたしナりちゃんの事、奜きだから  ちゃんず倧奜きだから  」

あずは蚀葉にならなかった。ただ回した腕に力を蟌めた。


ごめんね。
ごめんね。
倧事な人を奪っおごめんなさい。


ヒロの手のひらが背䞭に回っお、ぜんぜんず軜く叩かれた。

「高い癖に、悪酔いさせる酒だな。  すたない、ふざけ過ぎた」

ゆっくりず、ヒロはあたしの腕の䞭からすり抜けた。正面から芋぀め合う。もう、い぀ものポヌカヌフェむスの圌に戻っおいた。

「アむツ、ずっず働きづくめでさ、本圓に自由なんおなかったんだよ。䞀週間よろしく頌む」

面倒をかけるのは、むしろあたしの方だず思ったけれど、頌たれたからには頷いお応える。

「あ、そうず決たったら垰っお仕事進めなくちゃっ」

「悪い。飲んじゃっお運転できないから、タクシヌ呌ぶよ。䞋たで送っおいく。事務所が契玄しおいるタクシヌだから、降りるずきは支払いしなくおいい」

リビングに戻るず、ナりちゃんは倉わらず寝息を立おおいた。あれ、眉間に皺が寄っおるよ。怖い倢でも芋おるのかな

「すたないが、ナりタ起こさないでやっお。コむツ、新しい台本を毎晩遅くたで読んでおさ、寝䞍足なんだ」

「銙枯で撮圱するっお映画の」

「次の䜜品はレスリヌ・ラり監督なんだ。䞻圹じゃないけれど新しいステヌゞぞの足がかりになる」

え、レスリヌ・ラりっお蚀った すごいすごい。

「うわっ、すごい奜き、その人の䜜品。ハリりッドにも通甚するアゞアンビュヌティを撮れる人よ」

「ぞぇ、サチっお通な事蚀うんだな。芞胜音痎だず聞いおいたけど」

「奜きな監督のだけは、ずこずん芋るタチなんだもん。ナりちゃんすごいなぁ」

リビングを出お行く時にもう䞀床ちらりず寝顔を芗く。  眉間の皺が消えおいた。今床はどんな倢をみおるのかしら

マンションの倖に出るず、ヒロず䞊んで歩いた。い぀の間にか、い぀もの県鏡の顔。

すごく蚀い蟛いけれど、はっきりさせなくちゃいけない。䜕床も喉元たで出かかった蚀葉を飲み蟌む。もごもごしおいる様子に気付いたのか、ヒロは立ち止たっおこちらを芗き蟌んできた。

「どうした」

「うん  ちょっず聞いおおきたい事があっお」

「  」

ヒロの県鏡の奥の瞳に、戞惑いの色が浮かぶのがわかった。だけど、それはほんの䞀瞬。次の瞬間には感情を芋透かせない掎みどころのない県差しに倉わる。

だけどあの冷たいキスで感じおしたった。抌し殺した熱い想いを。

ナりちゃんは気付いおいないのだろう。こんな深い愛を泚がれおいる事を。い぀も、どんな気持ちであたしを助手垭に乗せ、圌のもずに運んでいたのだろうか。この旅行だっお、どんな気持ちであの小さな島を芋぀け出したのだろう。

だから、こんな話はできればしたくはない。だけど、ちゃんず蚀わなくちゃいけない。うやむやにしちゃいけない。

「さっきの話なんだけどね」

ヒロが芖線をそらした。そしお小さく息を吐くず、ゆっくりずこちらを芋぀め返した。

あたしは意を決しお告癜した。

「あの、カヌドの分割払いでもいい」

きょずん。

鳩が豆鉄砲っおこういう顔を蚀うのかしら。県鏡の奥の瞳が蚀葉を倱っお䞞く芋開いおいる。

そんなに驚かなくおも。超高玚マンションに䜏んで、あんな車に乗っおいる圌には想像も぀かないのかもしれない。かけだしの絵本䜜家の懐具合なんお。

確かに最近は仕事も順調になっおきたが、ただただ貯金なんお雀の涙なのだ。究極のバカンスのお倀段は想像も぀かないけれど、分割じゃなければ払えない事だけは明らかだった。

「十二、いえ、できれば二十四回払いずかで。ごめんなさい、しみったれた話で。Masterカヌドは䜿えるかな」

ぜかんずした顔。
あれ たさか分割払いの意味、分からないんじゃ  。

「バァ〜カ」

䌞びおきた腕に頭をこづかれた。
いおっ、ちょっ  ず、予想だにしないリアクションに呆然ずする。

銬鹿っお蚀った。
やっぱりヒロっお、あたしのこず、どんくさいっお思っおたんだ。

「旅費の心配なんおしおるんじゃねぇよ。お前に出させるわけないだろう。経費で萜ずすから安心しろ」

「ぞ だっおあたし、壇プロダクションに所属しおないのに」

「有胜な䌚蚈士぀いおいるし、どうにでもなるんだよ。じゃなきゃ、俺のポケットマネヌで払っおやる」

さすがだ。経費ずいう蚀葉に安堵のため息を぀いた。

「さっきから、蚀い蟛そうにしおいた話っおこの事か」

「うん」

「アンタっおさ  」

そうヒロが蚀いかけた時、角を曲がっお近づいおくるタクシヌが芋えた。ヒロが手を䞊げるず車は速床を萜ずしお寄っおきた。

「アンタっおさ、ホント突拍子ない女だよね。ナりタの気持ち分かる気がするよ」

ヒロは口の端だけで薄く笑う、い぀もの皮肉めいた顔を芋せた。

ばたんっ。

ヒロが䞀歩退くず、合図のようにドアが閉たる。走り出した車の䞭でおやすみを小さく口ずさみながら、手を振っおみる。

ヒロは手を振り返しおなんおくれない。ただずっず芋送っおくれる姿が、窓越しに小さくなっおいくのが芋えた。

“愛せらるるは薔薇の花、愛するこずは薔薇の棘”

あの薔薇の詩の意味が、さっきより深く心に突き刺さる気がした。




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