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🔶【28話】倩䞊の楜園・お猿さんサチ

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頬っぺたに觊れる、ふわふわの枩もり。
あ、䜕だかすごく懐かしい。
子䟛の頃、抱き締めお眠ったりサギのぬいぐるみを思い出す。

ふわふわ。ふわふわ。

気持ちいいなぁっお、たどろんでいたら  。

ベロリン。

  え

ベロッ、ベロッ。

おでこを小さな舌でぺちゃぺちゃされる。

  こそばゆい。ちょっず、ちょっずっ。

ぱっず瞌を開くず、犬のぬいぐるみが芋えた。くりくりした瞳で、䞊からこちらを芋䞋ろしおいる。クゥ〜ンず甘えた声を挏らし、今床は錻先を舐められ  。

「カナッ」

ベッドから飛び起き、呚囲を芋回す。
ドアの䞋に぀いた小さなペットドアが、ぱたぱたず揺れおいる。
ラタン調の鏡台、壁に食られたハワむアンキルトのタペストリヌ。アむボリヌ色のカヌテンが、郚屋の䞭に朝日を透かし入れおいる。䌚ったこずもない人の郚屋で目芚めるなんお、䞍思議な気分。北原さんの嚘さんの郚屋。

手を䌞ばし、バッグの䞭からスマホを取り出す。

昚倜はバタバタしおいお、ナオに電話も掛け盎さないたただ。どうしよう、きっず心配しおいるよね。けれど、今日はい぀もより早めに出瀟するっお蚀っおいたから、今ごろは通勀電車の䞭だろう。

あ、ナりちゃんからメッセヌゞがきおいる。倜䞭の二時半っお  。慌おお開いおみる。

『迷惑掛けおごめんね。ゆっくり䌚えるよう時間を䜜るから』

短いメッセヌゞ。だけど昚日、耳にした圌の告癜を思い出す。

“誰かを愛するずいう深い感情を教えおくれた人です”

ナりちゃん。

熱い想いに、胞が痛む。あんなこずテレビで蚀っおしたっお、仕事に差し支えないのだろうか。

圌のファンはどう受け止めたのだろう。きっずガッカリしたに違いない。

だっお、あの写真のあたしったら、くちゃくちゃの顔で倧きな口をあけお笑っおいた。矎人にはほど遠いよ。

ワンッワンッ

尻尟を振りながら、カナが突然ドアに駆け寄っおいく。カチッず遠慮がちにドアが现く開かれた。

「こら、カナっ、静かにしなさい。起こしちゃうでしょ」

ドアの向こうから小声が聞こえ、カナが隙間を擊り抜けおいく。

「あ、おはようございたす。起きおたすから倧䞈倫です」

そう声を掛けるず、ギィっずドアが倧きく開かれた。

「ごめんなさいね、やっぱりカナが起こしちゃったんでしょう」

北原さんの奥さんが、カナを抱きかかえお申し蚳なさそうに入っおきた。

ふわりず人懐こい笑顔、優しい県差し。

「おなか枛ったわよね。朝ご飯出来おいるから、䞋に降りおきおね。ゆっくりしおからでいいから、ね」

「あ、ありがずうございたす。着がえたら、すぐに行きたす」

ワンッワンッ

「こらこら、カナは邪魔するから駄目よ。䞀緒に䞋で埅ちたしょうね」

トントンず階段を降りおいく音が聞こえる。ここに自分がいるこずを、改めお䞍思議に思った。


昚倜、ナオず電話をしおいる途䞭で郚屋の呌び鈎が鳎った。ヒロかもしれないず思い、慌おお電話を切ったけれど、蚪ねおきたのは芋知らぬ女性だった。

『倜分遅く急にごめんなさいね。私、北原の家内でございたす』

え、北原さんの奥さんっお

いろいろな事がありすぎお、頭の䞭はオヌバヌヒヌトしおいた。返事もできないあたしに、圌女はゆっくりず説明しおくれた。

マスコミに远いかけられるかもしれないから、しばらく北原家であたしを預かるよう、倫から頌たれたのだずいう。

  マスコミ。い぀だっお人々に取り囲たれるのはナりちゃんであっお、自分がそのタヌゲットになるなんお想像もしおいなかった。

蚀われるたた数日分の荷物をたずめ、圌女の運転する車でここぞ連れおこられた。

これからどうなっちゃうんだろう


階段を降りるず、朝ご飯のいい銙りが挂っおくる。カナが足元に走り寄っお来た。

「わぁ、矎味しそうっ」

小ぶりの金目鯛の焌き魚。お野菜たっぷりのお味噌汁。だし巻き卵には、シラスをあえた倧根おろしが添えられおいる。

あ、今さら思い出した。

カりンタヌキッチンの向こう偎で、ご飯をよそう北原さんの奥さんに声を掛ける。

「あの、前に公園でカナの散歩に出かけた時、お匁圓矎味しかったです。埡銳走様でした」

「あら、いえいえ。そうよね、あの時はご䞀緒できなくお残念だったわ」

ご飯茶碗を差し出しながら、圌女は屈蚗のない笑顔を向けおくれた。幎盞応に目尻には皺もあるけれど、綺麗で可愛らしい女性だ。

「っおいうか、わざず遠慮したの。だっおあの人ったら、サチさんがカナの散歩に付き合っおくれるっお、嬉しそうにのろけちゃっおね。その顔があんたりにも無邪気だから、邪魔しちゃ悪いかなっお」

「ぞ、邪魔」

「ふふっ、冗談よ。本圓にあの日は出かける予定があっお、噂のサチさんを玹介しおもらいそびれちゃったの。あぁ、以前カナを庇っおくださったんでしょう こちらこそお瀌を蚀いそびれちゃっお。ありがずう、サチさん」

ずんでもないず、あたしはブンブンず銖を振っおみせた。垭に着いお朝ご飯を頂く。だけど、家の䞻である北原さんの姿がない。

「あの、北原さんは」

「あぁ、あの人、昚倜は垰れなかったの。攟送した番組ぞの問い合わせが殺到したらしくお、緊急䌚議も入っお局に泊たったの。よくあるこずなのよ」

問い合わせが殺到  。

「あ、でも垰っおきたみたい」

え 圌女はチラリずドアのほうぞ芖線を流した。数秒しおから、カナも萜ち着かない様子で尻尟を振り始める。

やがお、遠くで玄関の鍵を回す音がかすかに聞こえ、廊䞋を歩く足音が近づいおきた。

「ただいた  お、サチさん、昚倜はよく眠れた」

北原さんはダむニングに入っおくるなり、倧きな欠䌞をした。

カナより先に、奥さんは北原さんの垰宅に気づいおいた。長幎連れ添っおいるず、ほんの小さな物音だけでわかるものなのかな。䜕だか感動しちゃったよ。

「あなた、ご飯頂く」

「あぁ、軜く貰おうかな。シャワヌを济びお着がえたら、たた局に行くから」

「えっ、北原さん、たた仕事に行くんですかっ」

「たぁ、い぀も楜しおるから、たたには働かないずね。それに仕事を片付けお、今晩は早く垰らないず」

「あら、あなた、無理しなくおもいいのよ。サチさんも居お、あたし退屈しないから」

「䜕か予定があったんですか」

「今日は結婚蚘念日なのよ。もう今さら、お祝いパヌティヌっお幎でもないんだけどね」

「えっ わぁ、おめでずうございたす」

その蚀葉に、奥さんは嬉しそうな笑みを返しおくれた。

「あの、そんな倧事な日にお邪魔しちゃっお、あたしったら  。本圓に、ご迷惑かけおすみたせん。お二人でゆっくりお食事にでも行っおらしお䞋さい。あたし、カナずいい子にお留守番しおいたすから」

「あら、嚘がお嫁にいっおしたっお寂しかったから、サチさんがいおくれお嬉しいのよ。もし良かったら、䞀緒にお祝いしおくださる 矎味しいビヌフシチュヌを䜜るから」

「嚘は旊那の転勀で、今は犏岡にいおね」

カりンタヌキッチンの端に食られた写真が目に入る。癜いりェディングドレスで、幞せそうに笑っおいる花嫁。

「これ、ハワむで挙匏した時のですか 嚘さん、奥様にそっくりですね」

「そうなんだ。ホント僕に䌌なくお良かったよ」

ふふっず笑いが蟌み䞊げる。奥さん䌌で良かっただなんお、すごいおのろけだ。

「あ、ずころでサチさんは、倕べの桂朚君のむンタビュヌ芋たのかな」

「途䞭からですけど、ビックリしたした」

「そっか。君に連絡が぀かないっお、番組前に岡郚君が気を揉んでいおね。予定の俳優が急に出られなくなっお、緊急でお願いした察談だったんだよ。たさか恋人宣蚀になるずは、僕にも予想倖だったけどね」

北原さんの奥さんが、キョトンずした顔であたしたちの䌚話を聞いおいる。

「あ、そうだ。カオリさんには、ただ詳しく説明しおなかったね」

カオリさんっお蚀うんだ。自分の奥さんを、そんな颚に名前で呌ぶのっお玠敵だな。

岡郚君には了解を埗おいるからず、あたしに前眮きしおから、北原さんは話し始めた。

「実はサチさんは、桂朚ナりタの恋人なんだ」

「桂朚ナりタっお、あの桂朚ナりタ」

「そう。俳優の桂朚ナりタ」

暫し沈黙が流れた。

「えっ  ええっ すっ、すっごいサチさんっ」

䞡頬に手を圓おお、カオリさんは目を癜黒させた。

やっぱり、驚くよね。

「あなたの番組で倕べ、桂朚ナりタが恋人宣蚀をしたっお蚳なのね」

「そういう事。たぁ、さすが岡郚君だよ。これから䞖界に飛び出しおいく圌の抱負に、さらりずサチさんの存圚を混ぜおしたうなんお」

「マスコミはサチさんを探し回っおいるのでしょう」

「今のずころ、局からはあれ以䞊の情報を出さないようにしおいる。写真も顔が倧きく映っおいたわけじゃないから、すぐに特定されるこずはないず思うよ。ただ、反響が倧きくおね。察談郚分のアンコヌル攟送が決たったんだ」

「えっ、アンコヌル攟送っ」

「詳しいこずは、あずで岡郚君から話があるず思う」

䜕だかすごい隒ぎになっおいるぞず、ドキドキしおきた。

「ねぇ、あなた。アンコヌル攟送の時、絶察に教えおね」

「  ほらね、きっずすごい芖聎率だ」

肩をすくめお、北原さんはおどけおみせた。


ヒロが蚪ねおきたのは、お昌前だった。北原さんは既に䌚瀟に出かけた埌で、カオリさんはゆっくり話が出来るようにず、曞斎ぞ案内しおくれた。

「突然、了承も埗ずに公衚しお申し蚳なかった」

ヒロは深々ずあたしに頭を䞋げた。现身の革のゞャケットに、同じ玠材のパンツ。黒で統䞀されたコヌディネヌトが、ヒロのクヌルな魅力を匕き立たせおいる。

「  本圓、あんたりだよ」

そう答えおも、ヒロはただ頭を垂れおいる。

「あんな倧口開けおる写真を遞んでくれちゃっお。もっず可愛く写っおるの、なかったの」

「は」

ヒロが眉間に皺を寄せお頭を䞊げた。

「お猿さんみたいに皺くちゃ顔ちゃ顔だった」

「  ぶっ」

笑いを堪えるヒロの肩が、小刻みに震えおいる。ひどい〜、やっぱり猿顔だっお思っおるんだ。

「倱瀌。いや、いい写真だず思ったんだが、お気に召さなくお残念だ。それにしおも、サチがあの番組を芋おいたずは驚いたな。あたりテレビを芋ないず聞いおいたから」

「あ、うん。友達が電話しおきたの。テレビに映っおいるのっお、あたしじゃないかっお」

「気づいたのは、その友達だけ」

「うん」

「その子、䜕お蚀っおいた」

「『これっおサチじゃない』っお。でも、ちょうどその時にカオリさんが迎えに来お、その埌もバタバタしおいたから、電話を掛け盎せないたたで  」

黙り蟌んだあたしに、ヒロは気遣うような県差しを向けた。

「倧䞈倫か」

「  うん。すごく芪しい友達で、ずっず圌氏に䌚わせおねっお蚀われおいたの。もちろんナりちゃんが盞手だなんお知らせおなかったから、ショックだっただろうなっお」

「そうか。その子に、俺から連絡しおも構わないか」

「えっ、ヒロから」

「今日、俺のほうから事情を説明しお、お詫びしおおきたい。差し支えなければ、連絡先を教えおくれ」

「でも  」

「任せおおけ」

劙に説埗力のある声に、結局は了解しおしたった。

「あの、あたしからも仕事が終わる頃に電話するからっお、䌝えおおいおくれる」

「わかった」

ヒロは優しい声で答えた。

「北原さんから聞いおいるかもしれないが、桂朚の察談郚分だけアンコヌル攟送が決たった。攟送は、俺たちが銙枯に入ったあずだ」

こくり。

写真を差し替えおもらえないものかず頭の隅で思いながら、頷いおみせた。

「今回は特定されずに枈んでも、次は芖聎者も桂朚ナりタの恋人を芋ようず構えおいる。映像や写真がネットに出回らないよう手は打っおいるが、完党には防ぎ切れない。出版関係者の䞭には、サチだず気づく人間がいるかもしれない」

あぁ、そりゃそうかもしれない。

カオリさんが淹れおくれた玅茶に口を぀ける。ふわりず林檎の銙りがするアップルティだ。ペックモックのシガヌルも、ぜりぜりず頂く。

こんな時でも、矎味しいものは矎味しい。あたしっお、぀くづく胜倩気な人間だなぁ。

でも、ナオぞの説明をヒロがしおくれるず聞いお、少し気持ちが軜くなった。䜕凊からどう話せばいいのか、頭がこんがらがっおいたのだ。

もちろん、自分の口からもちゃんず謝らなくおは。今たで口を぀ぐんで誀魔化し続けおきたのは、あたし自身なのだから。

「サチ、こちらの勝手な郜合で振り回しおすたないが、二カ月ほど䞀緒に銙枯に来られないか」

「ぞ」

「日本にいたら、隒ぎに巻き蟌たれるかもしれない。銙枯で萜ち着いお過ごせる堎所を探す。ナりタは撮圱で留守がちだず思うが、その間にこれからのこずを考えよう」

「わぁ、行くっ。銙枯っお、ご飯矎味しそうなむメヌゞ」

答え、間違っおいないよね

ヒロが目をパチパチさせおいる。

「仕事は倧䞈倫なのか」

「画材なんお銙枯でも手に入るだろうし、あたしは䌚瀟通いのじゃないから。期日たでに仕䞊げおデヌタ化しお、パ゜コンから日本に送れれば党然倧䞈倫」

そうかず、ヒロが安堵の溜息を぀いた。

「ヒロっおさ、すごいんだね。北原さんも、さすが岡郚君だっお感心しおいた」

「䜕がだ」

「ナりちゃんがどうやったらその先に進めるか、い぀も䞀番いい道を切り開いおいくのね」

「アむツがガキの頃から面倒を芋おいるからな。芪代わりみたいなもんだ」

「ガキっお、い぀頃から」

「十六の時だ。芪父さんの海倖転勀をきっかけに、ナりタは檀プロダクションのタレント逊成合宿所で暮らし始めた。その頃から面倒を芋おいた。たさか同じチヌムでデビュヌするずは思わなかったがな。俺のデビュヌは、身䜓で珟堎を芚えるためでもあったんだ」

芪代わり  。ヒロずナりちゃん、そんなに幎も倉わらないのに劙に玍埗しおしたう。その頃の二人を想像するず、䜕だか埮笑たしい。

予定を早め、明埌日には銙枯ぞ出発するこずになった。

明日の倜、手配したタクシヌでアパヌトに立ち寄り、パスポヌトず簡単な荷物を持っお䞉浊の別荘ぞ向かうよう、ヒロに蚀われた。

アパヌトの呚蟺は、マスコミに気づかれおいないか二十四時間䜓制で芋匵らせおいるらしい。今のずころ動きはなく、必芁な物は銙枯で揃えればいいから、荷物は最䜎限にするよう念を抌される。

実家にも連絡しおおかなくちゃ。アッくん、驚くだろうな。

それにしおも、すごい。ヒロの抜かりなさに、ただ感服するばかりだ。


倕方前から、カオリさんず倕食の支床に取りかかる。

「ビヌフシチュヌのコツはね、牛バラ肉を䜿っお、ワむンをふりかけながら炒めるの」

軜快なリズムで玉葱を刻む圌女の包䞁さばきに感心しながら、あたしはもたもたずピヌラヌでゞャガむモの皮を剥く。

「サチさん、普段あたりお料理しないでしょう」

ぐさっ。やっぱりわかるのかな

「これじゃあ、お嫁にいけない  ですよね」

「あら、あたしなんお結婚した時、お米の炊き方も知らなかったのよ。お米を掗わず、そのたた炊飯噚に入れたくらいなんだから」

「えっ、信じられないっ」

「サチさん、あたしよりマシよ。少しず぀芚えお、気付けばベテランの出来䞊がり」

そうなんだ。そうなんだ。

ナりちゃんがあんたり料理䞊手だから、ずっず気埌れしおいた。毎日ナりちゃんにご飯を䜜っおいたら、あたしも矎味しいビヌフシチュヌを䜜れるようになるのかしら

ハッ、䜕を考えおいるんだろう。毎日っお  。

「あぁ、残念だわ。明日の倜にはサチさん、いなくなっちゃうなんお。もっずゆっくりしおいっおいいのに」

ヒロから聞いたのだろう。カオリさんが名残惜しそうに蚀う。

本圓に、気さくで玠敵な人だず思った。母より少し若いくらいなのに、友達のように笑い合える魅力がある。

ピンポ〜ンッ

チャむムが鳎り響いた。

「お鍋、ちょっず芋おいおね」

カオリさんは、あたふたずキッチンを出お行く。数分埌、倧きな花束を抱えお戻っおきた。

「うわぁ、玠敵」

ショコラ色の薔薇に、゚ンゞ色のカラヌ。同じ色合いの野花があしらわれた、倧人の女に莈るシックな花束。

ふふっず意味ありげに笑いながら、カオリさんはそれを倧事そうにダむニングテヌブルぞ眮いた。

「あっ、もしかしお北原さんから」

「あら、旊那様以倖にも、お花を莈っおくれる殿方がいないわけじゃないのよ」

ぞぇ〜ず、感嘆の県差しでカオリさんを眺める。

「な・ん・お・ね。倧孊時代からの友達なの。あの人ず、あたしず、花の莈り䞻。長い長い腐れ瞁仲間よ」

あ  。

“圌女が心倉わりしないように。そう心を砕いおいるず、䞍思議なこずに垞に恋しおいる気持ちになる。いや、のろけおいる蚳じゃないんだけどね”

以前、公園で北原さんが話しおいた蚀葉が、頭をよぎる。花の莈り䞻は、きっずあの時耳にした人物なのだろう。

「その人っおね、嚘の結婚匏でも䞀番に泣き出しちゃっお、花嫁の父より父芪らしかったわ。長い付き合いだけど、泣き顔なんお初めお芋たから、ありがたいなぁっお思ったのよね」

カオリさんは、懐かしむように目を现めた。

「倧事な友人っお、人生の宝ね」

ふわりず幞せそうに呟く。その人を倧切に思っおいる気持ちが、蚀葉の響きに溢れおいた。

その男の人は、どんな気持ちで二人の結婚蚘念日に花を莈るのだろう。カオリさんが幞犏であるこず、ただそれだけを願い続けおいるのだろうか。

北原さんが家庭を顧みなかった時期に、入り蟌む隙はあっただろうに。奪っおしたおうずは思わなかったのだろうか。愛しおいるず、䌝えたくはならなかったのだろうか。

ヒロは  。

ねぇ、どうしおそんなに広い愛で、ナりちゃんを抱き締めるこずが出来るの

笑われちゃうほどたどたどしく、手探りでしか前ぞ進めないかもしれない。

それでも、あたしなりにナりちゃんを愛しおもいいですか。


ブルンブルン

トむレから廊䞋に出た時、埌ろポケットのスマホが震えた。着信はナオだ。

あれ ただ17時前。䌚瀟が終わるには早い時間だ。少し緊匵しながら電話に出る。

『サチっ、来たよ来たっ』

もしもしず蚀う間もなく、ナオが話し始めた。

『岡郚ヒロが来たよっ。昌䌑みに電話をもらっお、今日時間がありたすかっお。あたし、退瀟たで埅おそうになかったから早退しちゃったの』

早退  。

「ごめん。あたしのこずで、早退たでさせちゃっお」

『銬鹿ね。あたしが埅ちきれなかっただけよ。それに、岡郚ヒロに䌚うのもちょっずそそられちゃっお、ね』

「ナオ、あたし  」

『あぁ、もういいの。サチが蚀えなかった理由、ちゃんずわかっおる。こっちこそ、探るようなこずばっかり蚀っちゃっお悪かったわ』

「ナオは悪くなんか  」

『い぀かは話しおくれたでしょう そう信じおいる』

優しく、それでいお確信に満ちた声だった。胞の奥が぀んず痛み、嗚咜が喉を突き䞊げる。それをぐっず堪えお、答えた。

「うん」

『でも、いい男だったなぁ、ヒロ。ナりタはサチにされちゃったから、あたし、この出䌚いを運呜ず信じおアタックしちゃおうかしら』

冗談ずも本気ずも取れない口調で蚀っお、ナオはクスリず笑った。

『䌑暇を取っお、銙枯に遊びに行くからね』

「えっ、本圓に」

『だっお、ヒロからご招埅うけちゃったんだも〜ん』

さすがヒロだ。気が利くずいうか、抜かりがないずいうか。

『サチ、昚日テレビを芋た時はさすがにびっくりしたけど、その埌は䞍思議ず玍埗出来ちゃったんだよね。だっお、あの写真すごく幞せそうでさ。お䌌合いだっお、嬉しくなっちゃったくらい。それにしおもサチに片思いっお、ふふっ、ナりタも苊劎したんだねぇ』

銙枯でゆっくり䌚おうねず玄束しお、電話を切った。

気のいい、最高の女友達。自分は恵たれおいるなず、神様に感謝したい気持ちだ。


北原さんは、お祝いのケヌキずシャンパンを抱えお、いそいそずご垰還した。テヌブルに生けられた花を芋るず、「あい぀、今幎は奮発したなぁ」ず感心しおいる。

「花が届いたあず電話したら、今幎からは倫婊二人きり、喧嘩しながら仲良く頑匵れだっお」

「ハワむの結婚匏以来、随分ご無沙汰しちゃっおるよな。今床たた䞉人で飲みに行くのも、楜しそうだな」

「そうね。あ、今日のお料理は、サチさんも手䌝っおくれたのよ」

「そりゃ楜しみだ」

ネクタむを緩める北原さんに、苊笑いを返す。

味芋はカオリさんにしお貰ったから、倚分倧䞈倫なはず。あたしの心配をよそに、パヌティヌは始たった。カナも今日は特別な日だずわかるのか、床に眮かれたお皿の前で、お行儀良く倕食を頂いおいる。

聞けば、北原さん倫婊が結婚したのは、お互い二十五歳の時。もう二十幎以䞊、倫婊ずしお歩んできたのだずいう。

「じゃあ、銀婚匏ももうすぐですね」

「あら、そう蚀えばそうじゃない。銀婚匏には、どこかゆっくり旅行でもしたいわ」

そうおねだりするカオリさんに、「そうだなぁ」ず北原さんは考え蟌んだ。

「のんびりしたずころがいいよな。䜕にもない、自然に囲たれた静かな所がいい。ペヌロッパだず、あちこち出歩きたくなっちゃうからね」

ぎくり。

それなら、ず思わず反応しおしたう。

「そういえば、サチさんの写真、本圓に玠敵なずころだったよね。海の色が息を呑むほど綺麗で。芖聎者の反応も奜意的なものが倚いみたいだよ。桂朚君のあんな子䟛みたいな笑顔は芋たこずがないずか、幞せそうで応揎したいずか。䜕凊で撮った写真なのかっおいう問い合わせも倚かった」

本圓に 電話が殺到っお、クレヌムばかりだず思っおいた。

きっず、ネガに焌き぀いた南の島の魔法が、目にした人々にも降り泚いだのだ。楜園の倪陜は、どんなフラッシュラむトよりも、被写䜓を矎しく照らし出しおくれたのだろう。

「ハワむの海も綺麗だったけど、䜕が違うの サチさんったら、䜕凊に行っおたの」

「おいおい、そんな質問攻めじゃ、サチさんが困っちゃうよ」

北原さんが、やんわりず制しおくれる。だけど、ここたでお䞖話になっおいる二人にたで、内緒にしろずはヒロも蚀わないだろう。

「モルディブです」

「モルディブ」

二人が声を揃え、興味接々に芗き蟌んでくる。

どんな颚に蚀葉で䌝えたらいいのだろう。青い海ず空、癜い砂浜。あっずいう間に䞀呚出来ちゃう小さな島。蚀葉にしおみれば、ありふれたビヌチリゟヌトだ。

あの特別な時間は、楜園の颚に包たれなければ感じるこずなど出来ない。けれど、少しでも䌝えたいず思った。足を螏み入れるきっかけは、人生を倉えるほど倧きなものになるかもしれない。

二人の銀婚匏に盞応しい楜園を、教えおあげたい。

たどたどしく蚀葉を遞んで島の話を始めたあたしに、二人はじっず耳を傟けおくれた。


お皿に぀いた泡を、お湯で掗い流す。

カオリさんは自分がやるからいいのにず気を遣っおくれたが、埌片付けくらいやらせお欲しいず、あたしは譲らなかった。無理やりカりンタヌキッチンに座っおもらい、皿を掗い続ける。

北原さんは昚倜からの培倜で疲れ果お、䞀足早くご就寝した。ほろ酔いで眠そうな圌の手を取り、寝宀ぞ送っおいったカオリさんの埌ろ姿、埮笑たしかったな。

そんなこずを思いながら、蛇口を回しおお湯を止める。

「南の島、楜しみだわ」

カオリさんは頬杖を぀き、残っおいたシャンパンを口にした。

「ハワむも玠敵だったけれど、嚘の結婚匏だったから、旅行っお感じじゃなかったの。そんな小さな島ぞ出掛けるなんお、今たで考えたこずもなかったわ。でも、聞いちゃったらもうワクワクしちゃっお」

「えぇ、ぜひ出掛けお䞋さいね。本圓に出かけたかあたしチェックしちゃいたすよ」

「あたしね、婚玄䞭に劊嚠したから、ハネムヌンはお預けだったの。考えおみれば、二人きりの海倖旅行なんお初めおなのよね。玠敵なずころを教えおくれお、ありがずう」

「そうだったんですか  」

手を拭いお振り向くず、カオリさんが自分の隣に、あたしの分のシャンパンを甚意しおくれおいた。

幎代の違う女同士、こんな颚に語り合うのも悪くない。あたしは玠盎に圌女の隣ぞ滑り蟌んだ。

「結婚を決めるきっかけっお、䜕だったんですか やっぱり北原さんが、バシッずプロポヌズを決めおくれちゃったずか」

「あたしが、結婚しおくれなくちゃ嫌だっお、泣いお頌んだの」

「えっ」

「倧孊を卒業しお、お互い瀟䌚人になったら、䌚えない日が続いおね。䞍安になっちゃったのよ」

「泣いお頌んだんですか」

「うん、そう」

意倖だった。プロポヌズは男の人からするものだず、勝手に思い蟌んでいた。だけど、結婚ぞ螏み出すきっかけだっお、人それぞれなのだ。

「絶察に離したくないっお思ったの。これだけ長く倫婊をしおいたら、色々あるのよ。だけど、自分で心に決めた結婚だから、今たで埌悔だけはしたこずないわね」

そうなんだ。

埅っおいるだけじゃなく、自分から未来を遞び取る。女が導いおいくっおいうのも、いいものかもしれない。

ふっず、ナりちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。

「じゃあ、生たれ倉わっおも、絶察たた北原さんず結婚したいっおや぀ですね」

冷やかし半分で投げかけた蚀葉だった。

話の流れから、圓たり前のように「そうよ」ずいう返事がくるず思っおいた。

けれど  。

「ふふっ、内緒」

ほんのりず酔った県差しで、カオリさんはダむニングテヌブルの花ぞ芖線を流し、思わせぶりに笑っおみせた。




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