
メルカリとYouTubeで挑んだ保育士資格
それは今から、7、8年ほど前のこと。
当時、私は子供教育に関わる仕事をしていたが、これといって専門の資格を持っていなかった。
そこで保育士資格を取ろうと思いたったのである。
とはいえ、仕事をしながらだったので、
時間もお金もなるべくかけたくない。
「よし、独学だ。予算は3万円以内」
という、図々しい決意を固めたのであった。
しかし、試験料だけで一万数千円もする。
そこで私は、独自の「ケチケチ大作戦」を実行することにした。
テキストは最初からメルカリで売る前提で使うのである。
「汚すな。汚すな。」
ページをめくるたびに気を遣う。
書き込みなんて言語道断である。
そんなこんなで、テキストを汚さないという余計なミッションまで抱えながら、筆記試験は頭から湯気を出して何とか頑張った。
問題は実技のピアノだった。
私はピアノなんて、
これっぽっちも弾けないのである。
でも課題曲は「アイアイ」と「おかあさん」の2曲だけ。
だったら2曲だけ弾ければいい。
まあ、本番は楽譜持込OKだし、
Youtubeでも観て練習すればなんとかなるだろうと、たかを括っていた。
さっそくメルカリでキーボードを購入した私は、
Youtubeを観ながら、
ドミソ
シレソ
と、コードだけをカタカナで書き込み、
これ以上簡単にしたら曲じゃなくなる
というレベルの伴奏だけを覚えた。
そして2ヶ月に渡る毎朝の特訓が始まった。
朝、目が開いた瞬間に、そのままキーボードへ直行。
まだ脳みそが完全に寝ている状態で弾き語ることが最重要ポイントである。
私の理論では、
「寝ぼけてても弾けるなら、本番でも弾ける」
「アーイアイ、アーイアイ、おさーるさーんだよぉーーー!」
朝からダミ声が響き渡る。
私は疑うことなく2ヶ月間、真面目にこの特訓を続けたのだった。
さて、いよいよ迎えた試験当日。
試験会場からもれてくる、
受験生たちの美しいピアノの音色。
みなさん同じ曲とは思えないくらい華麗なアレンジで、
私とはレベルが違うどころの話ではなかったが、
もうあとの祭りであった。
そのハイレベルな空間の中を、
私はドミソ、シレソとマッキーで書いたA4用紙を一枚ぺらんと持って自分の番を待った。
楽譜でもなんでもない。
ただのカンニングペーパーのような代物である。
◇
そして、いざ本番。
最初の和音。
げっ。
「……鍵盤、重っっ!」
我が家の安物キーボードとは違って、
本物の鍵盤はずっしり重いのである。
びっくりしすぎて、そのまま二音目を間違えた。
幸いまだ二音目である。
私は知らん顔して、最初からもう一回弾いた。
でも指の圧が無さすぎて、
なんとも情けない音しかでていない。
特に小指なんて、
「アンタ、鍵盤に触れてるだけやん」状態である。
もうなんだか気が抜けて
何かが吹っ切れてしまった私は、
こうなったら歌でなんとかならないものかと、
愛嬌と声量だけで押し通すことにした。
これでもかと満面の笑みを作り、
おさーるさ〜んだよぉーーー!
と全力で熱く歌いあげた。
結果。
ギリギリ合格。
まあ、ギリギリでも合格は合格である。
こうして無事に試験が終わると、
用済みとなったキーボードは即メルカリへと放流された。
もちろんピカピカのテキストもメルカリへ直行である。
私のケチケチ大作戦は大成功を収め、手元には、
ほぼ試験料だけで手に入れた「保育士資格」
という立派な肩書が残ったのである。
ちなみに今のところ、
この保育士資格を活かす機会も
ピアノを弾く機会も、
一度も訪れていない。
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