
あなたの重い荷物を いっしょに持って歩くから
その階段は長かった。
どこから始まっているのかも、
どこへ続いているのかも、
よくわからない。
ただ、少年は毎日その階段を登っていた。
背中には大きなリュック。
右手の手提げ袋は、大きくて引き摺りそう。
左手の手提げ袋は、重くて指に食い込んでいた。
荷物はいつから持っていたのだろう。
気づいた時には、
もう持っていた。
だから少年は、
それが当たり前だと思っていた。
一段。
また一段。
階段を登るたびに、
荷物は少しずつ重くなる。
なのに誰も気づかない。
「ちゃんと歩きなさい」
「急ぎなさい」
「頑張りなさい」
声だけが上から降ってくる。
少年は何も言わない。
重いと言っても、
どうせ誰も持ってくれないからだ。
ある日、
少年は花壇の花を蹴った。
ある日、
少年は楽器を床に叩きつけた。
ある日、
少年は水をまき散らした。
大人たちは眉をひそめた。
「なんて困った子だ」
「どうしてそんなことをするの」
「謝りなさい」
少年は黙っていた。
だって説明できなかった。
胸の中で何かが暴れている。
竜巻みたいに。
燃える火みたいに。
坂道を転がり落ちる自転車みたいに。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
息が吸えない。
誰かが背中を押しているみたいだ。
見えない大きな手で、
ずっと押しつぶされているみたいだった。
重い。
重い。
重い。
もうやめてよ。
そう叫びたかった。
けれど 声は出なかった。
夜になる。
少年は夜が好きだった。
誰もいないから。
誰も見ないから。
静かだから。
あたたかいから。
階段の途中に座り込み、
少年は空を見上げる。
本当は、
花の道を歩きたかった。
風の中を泳ぎたかった。
いい匂いに包まれて、
優しい音に包まれて、
走りたかった。
飛びたかった。
寝そべりたかった。
何も背負わずに。
何も持たずに。
何も掴まずに。
その時だった。
ぽとり。
リュックの中から、
何かが落ちた。
小さな黒い石だった。
少年は首をかしげた。
石は一つではなかった。
また、ぽとり。
また、ぽとり。
リュックの口から、
次々と石が落ちてくる。
石には文字が書かれていた。
「怖かった」
「寂しかった」
「苦しかった」
少年はじっと見つめた。
そして初めて気づいた。
荷物の正体は、
石ではなかった。
誰にも言えなかった言葉たちだった。
少年は石を一つ手に取る。
その時
遠くで誰かの足音が聞こえた。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
それは、少年を追い立てる大人の足音ではなかった。
「2個持つよ。」
