
罪告げ人|地下①
【あらすじ】
ゴブリン街の顔役ムドが、アルビノ商会に仕事を持ってきた。地下水路に何かがある。二週間前から計測器が狂い、周辺の呪物商が困っている。グレイが受ける。条件は一つ——「うちの判断で動く。報告義務はない」。
蛍光灯が白い光を落としている。ラジオが鳴っている。天気予報。曇り。いつものグラーム。
老婆がカウンターを布で拭いていた。右から左へ。乾いた布。
ガラス戸が鳴った。
朝の九時。開店直後。だが入ってきたのは客の顔ではなかった。
小柄。太い。金歯が光る。ゴブリン。ムド。
後ろに若いゴブリン二人。だが二人は外に残った。扉の前。ムドだけが入ってくる。
老婆が顔を上げた。布を畳む動きが止まった。一秒。それから畳み終える。
「久しぶりだね」
「婆さん元気か」
「見ての通り」
ムドが笑った。金歯。カウンターの前に来る。手は出さない。立っている。
「旦那に用がある」
グレイが壁際の椅子から立ち上がった。茶を置く。カウンターに出てくる。珍しく自分から動いている。
「何だ」
ムドがグレイを見上げた。グレイの方が背が高い。ムドは小柄だ。だが見上げる角度に卑屈さはない。商人が商人を見る目。
「うちの通り——ゴブリン街の地下水路に何かがある」
グレイの目が僅かに細くなった。
「二週間前からだ。周辺の店で計測器が狂い始めた。呪物を扱う連中が困ってる。在庫の数値がズレる。客に出せねえ品が増えてる。商売に障ってる」
「原因は」
「わからん。だから来た。俺は呪物の専門家じゃねえ」ムドが人差し指を立てた。「あんたらに頼みたい。地下に入って、原因を見つけて、どかしてくれ」
グレイは黙っていた。三秒。五秒。
「いつからだ。正確に」
「二週間前。配管工事があった。ゴブリン街の南端。水道管の修繕。工事の翌日から計測値がおかしくなった」
「工事で何かが露出した」
「たぶんな。だが下に潜って確認できるやつがうちにいねえ。金は出す」
グレイの左手の親指が動いた。人差し指の爪の縁をなぞる。一往復。止まる。
「条件がある。うちの判断で動く。何を見つけても報告義務はない。お前にも、管区にも」
ムドの目が細くなった。計算している。三秒。
「好きにしろ。結果だけくれ。干渉が止まればそれでいい」
「いくらだ」
「5,000ルクス。前払い」
「後払いでいい。終わってからで」
ムドが歯を見せた。金歯が光る。「信用してんな」
「金を持ち逃げする男じゃないだろう」
「そりゃそうだ」
商談が成立した。握手はしない。ゴブリンの商人は握手をしない。言葉が契約になる。
ムドが振り返った。ガラス戸に向かう。手を上げた。老婆に。
「じゃあな、婆さん」
「ああ」
ガラス戸が鳴った。ムドが出ていく。外で待っていた若いゴブリン二人が後ろについていく。通りの向こうに消える。
グレイがカウンターに手をついた。ノエルを見た。
「午後に出る。準備しろ」
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