
エッセイ『書かなくてもいいのかもしれない』+掌編SS『手を止めた職人』
日記
最近ちょっとスランプなのかもしれない。
いや、スランプという言葉が正しいのかもわからない。
書かなきゃいいのか。ともなると、それは違うのかなーとも思う。
自分目線だけだと、書かなくてもいい。
他人目線も含めると、書いてあげたい。
さて、そうなると献身性と自我の認識の話になって、複雑だなと。
結局のところ、ぜーんぶひっくるめて、気分的にやりたいことをしっかりやっていく事が大事なのか?
いや、大事だと思うならそうすればいいのか。
大事だと思うならそうすればいい。――それ以上の理由を、僕は持ち合わせていない。
## 掌編SS『手を止めた職人』
作業台の上に、解体途中の骨片がある。
琥珀がかった灰白色。刻印はまだ微かに明滅している。
固定具のロックは外してある。遮蔽布は畳んで横に置いた。
道具も並べた。手順も頭に入っている。
あとは手を動かすだけだ。
男は椅子に座ったまま、動かなかった。
煙草に火をつける。紫がかった煙が天井に向かって細く伸びる。
ラジオからは天気予報が流れている。明日も曇り。
別に、やりたくないわけじゃない。
やらなくていい、とも思っていない。
ただ、今この瞬間に手を動かす理由が、自分の中に見つからない。
誰かに頼まれたわけでもない。
締め切りがあるわけでもない。
この骨片が明日まで待てないほど危険なわけでもない。
じゃあ、なぜ今日やるのか。
煙草の灰が落ちる。作業台の端に、小さな灰色の山ができる。
奥から足音がした。
「グレイ、昼」
ノエルの声だった。
男は煙草を消した。灰を払い、立ち上がる。
骨片はそのまま。遮蔽布もかけない。
明日やる。
理由は特にない。明日の自分が、今日より手を動かしたくなっている保証もない。
だが、明日になれば、たぶんやる。
――やらない理由がないなら、やる。それだけのことだ。
男は作業室を出た。
骨片の刻印が、誰もいない部屋で静かに明滅し続けている。
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